2006年11月05日

小さな小さな地球の覇者

カイアシ類という、聞き馴れない名前の生き物がいます。
漢字で書くと橈脚類。「橈=ボートを漕ぐオール」のような脚の生き物という意味です。
カイアシ類は甲殻類、つまりエビやカニの仲間です。その多くは1〜2oの大きさで、大きなものでも1cm程度。いわゆる動物プランクトンと呼ばれる生き物です。



カイアシ類は最もバイオマス(生物量)の多い生き物のひとつで、プランクトンの7〜8割を占めます。その生息域は熱帯から極地、水深10,000mの深海からヒマラヤの氷河まで、地球上のあらゆる水域に及びます(一部陸上種もあり)。
生命の本質は、子孫を殖やし生息領域を拡げる「はびこる」ことにあります。カイアシ類は、まさに生態系の小さな覇者です。人類のように複雑・高度化を目指す進化をタテの進化とするならば、小さくシンプルな体で多様化し生息範囲を拡げるカイアシ類の進化を、著者は水平進化と呼びます。

第一章ではカイアシ類を中心に、生命の進化全般について語られます。
エディアカラ生物群やカンブリア紀大爆発の生き物たち、最近話題の光スイッチ説(初期の生物が視覚を獲得したことで爆発的進化の引き金になったとする)も、わかりやすく解説されています。
生物の分布と大陸移動の関係(キーポイントは、かつてユーラシア大陸とインド亜大陸の間に存在したテーチス海)も、非常に面白いです。

第二章には、カイアシ類の実に多様な生態が紹介されています。動植物プランクトンなど微小な粒子を食する者がいれば、稚魚や他のカイアシ類を襲う肉食の者もいます。さらには巨大な眼を持つ深海性の者や、驚くことにヘビそっくりの毒牙を持つ者までいるのです。

第三章は、魚や貝など他の動物に寄生するカイアシ類の生態です。一方で、珪藻類や渦鞭毛藻類(赤潮の原因)などの植物に寄生されるカイアシ類もいます。

最後の第四章は、海洋生態系と地球環境問題です。外来種による在来種の駆逐、地球温暖化による環境変化が、生物多様性を失うことへの懸念が表明されています。
アジアで汲み上げられた船舶のバラスト水が、北米の海で排出され、在来のカイアシ類がアジア産に置き換わってしまった実例も紹介されています。

人類が宇宙へ飛ぶ時代になっても、まだまだ解明されていないことが多い、海。海洋生態系の多様性の喪失が、海のエネルギー循環に大きな変動をもたらす可能性は否定できません。
著者の研究対象への愛着のあまり、筆がすべっていると感じられる表現も多々ありますが、カイアシ類という微小生物を通して、生命の進化と生物の多様性について思考をめぐらすことができる良書であると思います。

(11月3日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
タフな奴ら。


posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 00:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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