2008年02月26日

保守が保守であるために

構造改革の名のもとに行われた新自由主義的な経済政策。
靖国神社の参拝を公約に掲げたり、戦後レジームからの脱却を主張した総理大臣。
反日的な態度をとる諸外国(特定アジア)に反発する若者たち。
近年の日本は「若者の右傾化」「一億総保守化」などと言われますが、本当にそうなのでしょうか?
今の保守は「アンチ左翼」でしかないと訴える中島岳志氏が、戦後日本を代表する保守思想家と仰ぐ西部邁氏に対談を望みます。



保守問答

人間の理性を最大限尊重し、社会は人間の手によって理想的な形に設計することが可能だとする近代主義。
しかし、人間の理性には限界があることを悟るのが保守主義です。

フランス革命の掲げた「自由・平等・博愛」は左翼の言葉であり、左翼とは別名・純粋近代主義です(社会主義も近代主義の1ヴァリエーション)。そしてフランス革命の理想を最もラディカルに体現した国アメリカこそ、世界一の左翼国家であると西部氏は言います。
アメリカ追従が「保守」ではないのです。

「公の精神」とは「お上への従属」であるとするのも自称・保守の勘違いです。
公(おおやけ)とは市民的公共圏であるとする中島氏は、政府が間違った方向に進もうとしている時に言論や行動でもって正すことも、重要な公の精神であると言います。
ただし、政府が横暴をすることもあるからといって「政府はいらない」というのは、保守にあるまじき暴走です。

しりあがり寿氏のイラストが表紙のソフトカバー、そして対談形式なので読み易い本かと思いきや、古今東西の思想家の名前が次々と登場する、結構お堅い内容の本です。
中島氏の投げかける質問はアカデミックなのですが、受ける西部氏は難解な話題を大衆レベルにわかりやすく噛み砕いてくれます。

保守とは皇室を崇拝することでも、靖国神社に参拝することでも、市場経済を徹底することでもなさそうです。
では、保守思想が保守すべきモノはなんなのでしょうか。
私は、保守とは具体的なイデオロギーではなく、歴史の叡智に学ぶ態度であり、それは社会を生きる人間の一種のたしなみなんだと解釈しました。

二人の対談からは、言葉へのこだわりも強く感じました。
言葉の意味を突き詰めて語源通り正しく使うことは、正しい保守であるための第一歩なのでしょう。

(2月24日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
当たり前の話…日本は核武装せよV
ほどほどで行こう。



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2008年02月18日

妖怪の正体とは

妖怪といえば何を思い浮かべますか?
鬼や河童や天狗など、日本の昔話に登場する怪物たちでしょうか。それともアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する「子泣き爺」や「砂かけ婆」でしょうか。
あるいは妖怪の名をタイトルに掲げる、京極夏彦氏のミステリ小説群を挙げる方もいらっしゃるかもしれません。

京極夏彦氏は小説の執筆のみならず、水木しげる氏・荒俣宏氏と世界妖怪協会を旗揚げし、小松和彦氏が主宰する国際日本文化研究センターの研究会にも参加しています。



妖怪の理 妖怪の檻

妖怪とは、実はよくわからない存在なのだそうです。
「あやしい」という漢字を二つ重ねた「妖怪」は、もともと鬼や河童などの具体的な怪物を指す言葉ではありませんでした。妖怪という語は、不可思議な現象全般を含んでいたのです。
明治時代の妖怪博士・井上円了が否定した「妖怪」も、前近代的な迷信一般のことであって、現代の私たちが思い浮かべる妖怪とは違っていたようです。
「妖怪は同じ場所に出る」「幽霊は人に憑いて出る」という民俗学の父・柳田國男の定義も、妖怪を捉えきれていません。人に取り憑く「キツネ憑き」があれば、特定の場所に現れる「地縛霊」もあります。
本書は「妖怪という言葉について」の章だけで、200ページに達します!

小さい頃に読んだ、水木しげる氏の『妖怪なんでも入門』(現在は『妖怪大百科』として復刊)。夜眠れなくなるほど怖かった一方で「どうせ妖怪なんて水木しげるの創作だろう。マンガだ、コドモダマシだ!」と思っていました。
ところが後年、小松和彦氏の著作に出会ったことで、妖怪とは現代の作家の創作ではなく民俗学的な由緒があるのだと知りました(もちろん、水木氏や江戸時代の絵師・鳥山石燕が創作した妖怪もありますが)。

それでも「言い伝え」だけの存在だった妖怪に目に見える姿を与えたのは水木氏であり、私たちが思い浮かべる妖怪の姿は、やはり『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する妖怪たちなのです。
例えばアニメでおなじみの妖怪「塗り壁」とは、夜歩いていると急に行く先が壁になって進めなくなる、九州地方に伝わる怪異現象のことです。出典である柳田國男の『妖怪名彙』には、コンクリートの壁のような姿をした化け物が現れるとはどこにも書いてありません。
デザイナーとしての顔も持つ京極氏。「妖怪の形について」の考察も面白いです。

500ページを超す大著ですが、最終章の講演録を読めば本書の要点はほぼつかめます(これって一種のネタバレ?)。

(2月17日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
妖怪は、境界に棲む。
邪魅ハ魑魅乃類なり 妖邪の悪気なるべし

【関連サイト】
怪異・妖怪伝承データベース(国際日本文化研究センター)
ラベル:京極夏彦
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 20:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史・民俗交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月13日

続・諏訪は神秘に満ちている

諏訪大社の御柱祭・御頭祭を題材にした小説といえば、もう一冊。
あやかしの語り手・加門七海氏による伝奇ホラー作品『呪の血脈』です。
加門氏は小説の以外にも風水・陰陽道の研究本やオカルトガイド本を書いており、心霊体験が豊富なことでも知られています。



東京の大学で民俗学を研究する宮地紀之は、諏訪信仰の源流を求めて長野県の山村・鎌木に入ります。
諏訪大社の御柱祭では、切り出される神木に目印となる薙鎌を打ち込みます。諏訪から離れた鎌木の山中で、宮地は薙鎌が多数打ち込まれた木を発見するのです。彼は木の幹にナイフを突き立て、薙鎌を引き抜きました。
そこへ鹿を追っていた村の猟師たちが現れます。

猟師たちは、鎌を引き抜いた宮地の行為を咎めました。
ご神木を傷つけてしまったからには改めて「祭り」をせねばならず、祭りには宮地も参加せねばならないと言います。そして「祭り」が失敗した場合には「裏の祭り」をも執行せねばならないのだと…
村人の話によれば、裏の祭りを執り行えるのは神主の末裔である高藤家の者だけです。しかし高藤家は、村を捨てて東京に移り住んでいます。
またとない研究対象にめぐりあった宮地は「裏の祭り」の秘密を知ろうと、高藤を探し出す行動に出ます。

東京に戻った宮地は、墨田にある高藤家を訪れます。
なぜか目の前で人の死にたびたび遭遇する、高藤正哉。彼は自分の呪われた家系から逃れようと、人との交流を避けて暮らしていました。
しかし正哉の妹・は、祖父から聞かされた高藤家の伝承に惹かれており、高藤の血を復活させたいと言い出します。
高藤家が代々受け継いできた「裏の祭り」とは?
宮地との出会いは、彼の呪われた血を呼び覚ますのか…

(2月11日再読)

【不純文學交遊録・過去記事】
諏訪は神秘に満ちている
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2008年02月11日

悪魔は目を覚ますのか?

毎日のように報じられる地球温暖化。しかし、地球温暖化CO2主因説には異論もあることを当blogではたびたび指摘してきました。
地球の平均気温は太陽の活動に大きく左右されますし、最大量の温室効果ガスはCO2ではなく水蒸気です。現在の地球の気温上昇の、どこまでが人為的なCO2排出量の増加によるのかは定かではありません。
かといって、地球温暖化CO2主因説の主張も採り上げなければ不公平になります。CO2が増加し続けた場合の最悪のシナリオとは…?



「悪魔のサイクル」へ挑む

著者は首都大学東京の初代学長・西澤潤一氏と、エコシステム研究会代表の上野勲黄氏です。

本書ではCO2増加によって地球温暖化が一直線に進むのではなく、地球温暖化が一転して氷河期へと向かうシナリオを提示しています。温暖化によって融けた北極海の氷が、海水の塩分濃度を薄めて海流に大きな変化を生じ、寒冷化を引き起こす…映画『デイ・アフター・トゥモロー』と同じですね。
CO2増加がもたらすもうひとつのシナリオは、人類の二酸化炭素中毒死です。
大気中のCO2濃度が3%になると人間は中毒死すると言います。地球温暖化を人為的なCO2増加が原因とは断定できないとする私ですが、CO2増加による生態系への未知なる影響については懸念を抱いています。
本書のタイトルとなっている「悪魔のサイクル」とは、海底のメタンハイドレート層の崩壊です。地球温暖化によってメタンハイドレートが融解し、CO2の20倍以上の温室効果を持つメタンが大気中に大量放出され、さらなる温暖化が加速するというものです。過去に起こった生物大絶滅には、大規模な火山噴火によるメタンハイドレートの崩壊が影響しているとの説があります。

SFばりに地球温暖化の恐怖を煽るだけの本ではなく、後半には人工生態系の創造による未来への展望も描かれています。
人工生態系というとバイオスフィアUのようなドームのなかの人工地球を想像しますが、そんな大袈裟な内容ではなく、要は省エネルギー技術や廃棄物処理技術の紹介です。

地球の気候を激変させる悪魔と目されるメタンハイドレートですが、石油に代わる資源としても期待されています。特に化石燃料のほとんどを輸入に頼るわが国にとって、日本近海に大量埋蔵が見込まれるメタンハイドレートは、エネルギー安全保障の救世主となりえます。
本書では、メタンハイドレートを大気中に放出させずに回収し資源化させるべく、二酸化炭素ハイドレートでフタをする方法を提案しています。CO2をハイドレートとして海底に固定化しつつ、メタンを資源として利用できる一石二鳥のアイデアです。

(2月3日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
世界はこうして終わる?


管理人のひとりごと
ラベル:地球温暖化
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 01:17| Comment(28) | TrackBack(1) | 自然科学交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月03日

諏訪は神秘に満ちている

急斜面を勢いよく滑り落ちる樅の大木に群がる男たち。1200年以上前から続く長野県・諏訪大社御柱祭(式年造営御柱大祭)は、寅の年と申の年に行われる式年祭です。毎回負傷者が出ることは珍しくなく、命を落とした人もいたと言います。
諏訪大社は上社と下社に分かれており、上社は前宮と本宮、下社は春宮と秋宮から成っています。各宮の四方に神木が立てられ、計16本の御柱が伐り出されるのです。
上社の例大祭である御頭祭も謎に満ちています。現在は剥製のシカの頭部を供えますが、かつては75頭ものシカの生首が並んでいました。そのなかには必ず耳の裂けたシカがいて、神様が矛で獲ったのだと信じられてきました。
この「耳裂け鹿」や諏訪湖の御神渡など、諏訪地方には七不思議が伝えられています。

諏訪大社の祭神・建御名方神(タケミナカタ)は、出雲神話に登場する大国主神(オオクニヌシ)の子です。出雲に国譲りを迫る建御雷神(タケミカヅチ)に戦いを挑みますが、敗れて信濃国・諏訪へと逃げ延びました。建御名方神は二度と諏訪から出ないことを約束し、命を救われたといいます。
また、建御名方神がこの地に祀られる以前から、諏訪地方にはミシャグチ神という土着の神様が信仰されていました。
御柱祭・御頭祭の意味するところとは?…高田崇史氏のQEDシリーズ最新作は『諏訪の神霊』です。



QED諏訪の神霊

諏訪大社の御柱祭を見物に訪れた、薬剤師の桑原崇(タタル)と棚旗奈々
二人を出迎えたのは、タタルの中学時代の同級生・鴨志田翔一、タタルと奈々の大学の後輩である薬剤師の緑川由美子、そして地元の歴史に詳しい百瀬麻紀
そのころ翔一・由美子・麻紀の住む新興住宅地「月見が丘」で連続殺人事件が発生していました。

この先ネタバレはございません。
ただし、読む前に一切の予備知識を入れたくないという方はご注意ください。

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posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 23:04| Comment(2) | TrackBack(1) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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