2009年03月23日

バラク・オバマと7つのアメリカ

2009年、第44代アメリカ合衆国大統領に民主党のバラク・オバマ氏が就任しました。
史上初の黒人大統領は、いかにして誕生したのか。その複雑なプロセスを越智道雄氏が追いました。



誰がオバマを大統領に選んだのか

アメリカは北から順に4つの文化圏に分けられ、それぞれの担い手は、出自も移民した時期も異なります。
北部帯文化圏
移民第2波で、ニューイングランドに上陸したピューリタン。民主的に運営される共同体(タウンシップ)は、WASP文化の良き遺産。
ミッドランド文化圏
クェーカー教徒による移民第3波。他宗派・他民族に寛容で、女性の地位も高い。
高地南部文化圏
最後発の移民で、荒涼たるアパラチア山脈に入植した荒くれ者。終末思想・キリスト教右翼と親和性が高い。歴代大統領を最も多く輩出している集団でもある。
沿岸南部文化圏
ヴァージニアに入植した最初の移民たち。イギリスから奴隷制度を持ち込んだ。
※WASP=White,Anglo Saxon,Protestant(白人・アングロサクソン・プロテスタント)

以上に加えて、さらに3つの文化圏を見だすことができます。
大盆地文化圏
モルモン教徒の聖地・ソルトレイクシティ周辺。
大ニューヨーク文化圏
数多くの人種が混在する、非WASPの首都。
南カリフォルニア文化圏
有色人種の人口が白人を上回る、ロサンゼルスが中心。

オバマ氏を支持したのは、ミレニアルズ(またはジェネレーションY)と呼ばれる人種を超えた若年層と、タウンシップの精神を継承する高給取りの白人男性層でした。
黒人とはいえ白人女性を母にもつオバマ氏は、奴隷の子孫ではなく(Obamaはアフリカ姓)、公民権運動への参加経験もありません。そのため当初は、黒人層の間でも彼への反発がありました。
しかも彼はアメリカ本土ではなく、ハワイ州の生まれ。オバマ氏はアメリカ社会における、絶対的アウトサイダーだったのです。

本選で敗れはしたものの、共和党の大統領候補者ジョン・マケイン氏が魅力的な人物であることも、本書は伝えています。
党派を超えた議会活動で、保守派よりもリベラル派から高い支持を得る「一匹狼」マケイン氏もまた、アウトサイダーです。そんなマケイン氏を擁しても、共和党はオバマ旋風に勝てませんでした。
これでますます共和党は右傾化し、南部を支持基盤とした地域政党に転落するとの見方を本書は示しています。

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posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 20:59| Comment(4) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月20日

女帝の密かな陰謀

古代史最大の争乱、壬申の乱。その発端には有名なエピソードがあります。
天智天皇は晩年、弟の大海人皇子(のちの天武天皇)を呼んで後事を託そうとしましたが、大海人皇子はこれを固辞して吉野に隠遁しました。
実は、わが子・大友皇子(のちの弘文天皇、ただし即位には異議もあり)に皇位を譲ろうと考えていた天智天皇が、弟が皇位に野心を示したら暗殺しようと仕組んだ「陰謀」であった…



持統女帝と皇位継承

しかし本書の著者・倉本一宏氏は、天智天皇の陰謀を明確に否定します。大友皇子は生母の身分が低く、もとから皇位継承の候補者ではなかったとのこと。
倉本氏は、天智天皇にとって弟であり娘婿でもある大海人皇子が、皇位を嗣ぐことに何の不都合もなく、むしろ大本命だったと考えています。天武天皇の皇后は、天智天皇の娘・鵜野讚良皇女(のちの持統天皇)です。

では、壬申の乱の目的は一体なんだったのでしょうか?
倉本氏は、愛息・草壁皇子の皇位継承を確実にするための、鵜野讚良皇女による「陰謀」なのだといいます。戦乱によって大友皇子の一族と、草壁皇子の異母弟である大津皇子を、一緒に葬り去ろうとしたというのです。
壬申の乱で大津皇子は無事でしたが、天武天皇の崩御後、謀反のかどで処刑されます。なお大津皇子の母は、鵜野讚良皇女の姉・大田皇女。姉が早世したことで、鵜野讚良皇女は天武天皇の皇后となりました。

当時の皇位継承は、おおむね30歳以上の皇族の同世代内で行われ、同世代内に候補者がいなくなってから、若い世代へと下りていったようです。最初から親から子へと、垂直に受け継がれた訳ではありません。
激しい権力闘争を目の当たりにして育った、持統天皇。そこから彼女の冷徹な政治哲学が生まれたのでしょう。

本書は持統天皇を中心に、継体天皇の時代から乙巳の変(大化の改新)を経て奈良時代へと至る、皇位継承のメカニズムを分析しています。
「国母」として権勢を振るい、皇統を確立した女帝・持統天皇。やはり皇祖神・天照大神のモデルなのでしょうか?

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posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 19:44| Comment(12) | TrackBack(0) | 歴史・民俗交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月15日

学園は事件の宝庫

少年少女が探偵役として活躍する学園ミステリは、ミステリ小説の一大ジャンルといって良いでしょう。
常識的に考えて、働いている大人が、呑気に探偵ごっこなんて出来ません。
警察庁刑事局長を兄に持ち、旅先で事件に首を突っ込むルポライターなんて、実際にはいませんよね(笑)



学び舎は血を招く

本作は『小説現代メフィスト』に掲載された、学園ミステリを集めた一冊です。
収録された作品は6編。
『メフィスト学園1』というからには、第2弾もあるのかな?

竹本健治 『世界征服同好会』
30年前の先輩たちが立ち上げた、同好会の正体とは…

楠木誠一郎 『殺人学園祭』
名門女子校の学園祭で、屋上から生徒が転落。自殺か?他殺か?

古野まほろ 『敲翼同惜少年春(センチメンタル・レヴォリューション)』
全共闘時代を思わせる舞台設定。やたらと漢字にルビを振った独特のアクの強い文体は、正直、読む気になれません…

福田栄一 『闇に潜みし獣』
夜の校舎に忍び込んだ、男女6人の高校生。その理由とは…動機も結末も(学園ミステリらしからぬ)非常にダークな作品です。

日日日 『かものはし』
日日日と書いて「あきら」と読みます。ミステリというよりは、ホラー色が強いです。

門井慶喜 『パラドックス実践』
大学でプラトンを専攻した教師が赴任したのは、その名も雄弁学園。初日から不穏な空気が…

私のお気に入りは、竹本健治氏の『世界征服同好会』。
本の山に占領された部室で、思想だの芸術だの、浮世離れしたことをくっちゃべっているだけの「汎虚学研究会」に惹かれます。こういうことって、学生時代しかできませんね。犯罪ではなく「日常の謎」を解くのも、学園ものらしくていい感じです。
異色の作品ながら意外と楽しめたのは、門井慶喜氏の『パラドックス実践』。
事件は全く起こりませんが、ロジックで読ませる小説をミステリと呼ぶなら、これも立派なミステリでしょう。

(3月10日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
メフィスト賞の傾向と対策
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 19:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月09日

東大教授は小説家

私たちの日常生活の隅々にまで行き渡ったコンピュータ。
コンピュータが人類社会にもたらしたインパクトについて、文系・理系の垣根を超えて思索を続けている研究者が西垣通氏です。
西垣氏は理論のみならず、よりリアルな人間の姿を描こうと小説作品も手掛けています。彼の小説は研究者の余技ではなく、本業の一環なのです。



コズミック・マインド

朽木庸三は、妻に先立たれて独り暮らしの、50代の元ソフトウェア開発エンジニア。
庸三は、大手電機メーカーの子会社から、大口ユーザーである倉光銀行に長期出向し、オンラインシステムの開発保守を担当していました。
しかし行内での対立から解雇され、現在は小さなソフトウェア会社の技術アドバイザーという閑職に就いています。

老舗地方銀行である倉光銀行は、大手都市銀行の住菱銀行との合併が決まっていました。
両行のシステム統合プロジェクトが発足しましたが、作業が思うように進みません。どうやら倉光銀行側のシステムに、表に出せない問題があるようです。
住菱銀行の調査部からサブリーダーとして派遣された堺朱実は、倉光銀行が裏社会を相手にした「隠し口座」ビジネスに手を染めていると直観します。

最初は「サラリーマンの人間関係を描いたビジネス小説か。つまんないな…」と思ったのですが、隠し口座の話やコンピュータ・アートを手掛ける謎の前衛芸術家が出てきたあたりから、面白みが出てきました。
タイトルの『コズミック・マインド』には、西垣氏の思い描く「コンピュータ観」が滲み出ています。

本書は、西垣氏の研究者としての著作を読んだことがない人にも、手に取りやすい作品でしょう。
ただ、私が小説に求めるものは「非日常性」なので、異国を舞台にした過去の作品の方が好みです。

デジタル・ナルシス(東京大学 情報学環・学際情報学府 西垣研究室)

(3月8日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
情報と生命と聖性と
日本のメディアは“杉林”
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 17:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月02日

景気回復の救世主?(後編)

低価格を武器に、インサイトプリウスに真っ向勝負を挑むホンダ。
そこで多く聞かれるのが「インサイトは、プリウスにそっくり」との声…
どちらも5ドアハッチバックで、リアウインドー下部に後方視界を確保するエクストラウインドーが設置されているのも同じ。しかしこのリアビューは、ホンダが2代目CR-X、初代インサイトで既に採用していました。空力と実用性を両立するとなると、似たようなデザインになります。「どちらがマネしたのか?」という不毛な議論は止めましょう。



「新型インサイト」のすべて

200万円を切るハイブリッドカーを実現した、インサイトの功績は偉大です。
しかし全く価格帯の異なるプリウスとインサイトを比べて、どちらが優れているかと議論するのは意味がないと思います。
ハイテク装備を満載したプリウスは、ラージクラスからのダウンサイジング層をも満足させるでしょうし、コストパフォーマンスに優れたインサイトは、コンパクトクラスのユーザーを吸い上げるでしょう。5月18日にデビューする3代目プリウスは、1800ccにスケールアップするので、両者の棲み分けは一層ハッキリします。
インサイトの登場で打撃を受けるのは、プリウスよりもむしろカローラなのでは?

プリウスとインサイトは、ハイブリッドシステムも大きく異なります。
強力なモーターで電気自動車のような走行感覚を味わえるトヨタの『THS』に対し、エンジンが主体でモーターはアシストに徹するのがホンダの『IMA』です。
最新のインサイトのカタログ燃費は、6年前にデビューしたプリウスに及びません。しかし軽量かつ低コストなのは、IMAの大きなメリットです。
コンパクトなIMAは、スポーツカーへの搭載が期待されます。ハイブリッド・スポーツカーのCR-Zは、2010年までに市場へ投入される見通しです。

メディアは「プリウスvsインサイト」を煽り過ぎ、メーカーもお互いを意識し過ぎでしょう。
プリウス・ユーザーの私は、インサイトの登場によってハイブリッドカーの世界が広がることを歓迎します。
インサイトは魅力的ですが、6年経っても最新モデルと互角に勝負できる現行プリウスの商品力も驚異的です。

平成21年度予算の年度内成立が確実となり、4月以降に低燃費・低公害車を購入する方は、取得税と重量税の減免が受けられます(すでに購入された方も、車検時に重量税が減免されます)。
日本の自動車産業に景気回復は訪れるのか、大いに注目しましょう。

(2月26日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
景気回復の救世主?(前編)
【3代目】新型プリウス発表
「トヨタショック」は超えられるか
イニシャルD
ハイブリッドは世界を制すか
未来予想図
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 00:38| Comment(6) | TrackBack(2) | 科学技術交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月01日

景気回復の救世主?(前編)

昨年10−12月期のGDP(国内総生産)は前年比マイナス3.3%、年率換算では12.7%もの大幅な減少となりました。
金融危機のダメージが最も少ないはずの日本が、震源地のアメリカ以上に景気が急減速。その背景には、急激な円高による輸出産業の採算悪化がありますが、やたらと不況を煽るマスコミの存在も大きいと思います。
連日のように報じられる、トヨタやソニーなど日本を代表する製造業の業績不振。一方で、過去最高益を記録した任天堂やファーストリテイリング(ユニクロ)の扱いは小さく、円高のメリットに至っては、ほとんど報じられません。
これでは経済が萎縮しても仕方ないか…

とりわけ悪いニュースばかりなのが、自動車産業。
しかしフェラーリアウディのように過去最高の販売台数を記録したメーカーもあるのです。こうしたニュースを、どれだけの人が知っているのでしょうか?



「新型インサイト」のすべて

2月5日に発表(翌6日発売)された、ホンダのハイブリッド車『インサイト』が好調のようです。2月末での受注台数は、月販目標の3倍の1万5千台を突破する見通し。元旦の新聞に掲載された「ハイブリッドカーを、安く作れ。」の公約通り、インサイトは189万円からの低価格でデビューしました。
ホンダ初のハイブリッドカーとなった初代インサイトは、高価なアルミボディを採用した2シータークーペで、空力と軽量化を極めたスペシャルマシン。最終モデルは36km/gの低燃費を達成しましたが、販売台数はトヨタのプリウスに遠く及びませんでした。

2代目は絶対的な燃費性能よりも、徹底したコストダウンによってハイブリッド車を普及させることを狙っています。初代とは180°異なったコンセプトです。
コストパフォーマンスを最優先したインサイトのハイブリッドシステム(IMA)は、ベースとなったシビック・ハイブリッドのものよりも、モーターやバッテリーを小型化。そのため10・15モード燃費はプリウスの35.5km/g、シビック・ハイブリッドの31.0km/gに及ばない、30.0km/gにとどまっています。
それでも軽量なボディによって、実用燃費は遜色ないのだそうです。

インサイトは低価格を実現するために、コンポーネントの多くをコンパクトカーのフィットと共有しています。タイヤも省燃費仕様ではなく、フィットの標準銘柄と同じ。またスポーティな加速を実現するために、なんとファイナルレシオをシビック・ハイブリッドよりもローギヤ化(!)しています。エコカーでも、走りを犠牲にしないのがホンダ流。カタログ燃費を飾るためには、絶対にやらない手法です。
5ナンバーサイズにこだわったのも、インサイトの特徴。今どきドアハンドルがフラップ式なのは、グリップ式にして全幅が1.7mを超えるのを避けたからだとか。

本書には、新型インサイトのデザインモチーフとなった燃料電池車・FCXクラリティの試乗レポート、世界一の低燃費を達成した初代インサイトの記事も掲載されていて、お得です。

(続く)
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 21:53| Comment(0) | TrackBack(2) | 科学技術交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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