2009年05月26日

205万円の衝撃(後編)

プリウスの最大のライバルは、フォルクスワーゲン・ゴルフではないでしょうか。
本書には、両者の比較記事も掲載されています。
奇しくもプリウスと同時期に新型となった“ゴルフY”は、小排気量エンジンを過給したTSIに、マニュアルミッションの効率とイージードライブを両立したDSGを組み合わせて、燃費と走行性能を向上させています。
フォルクスワーゲンは、クリーン・ディーゼルの「ブルーモーション」、ディーゼル・ハイブリッドの「ツインドライブ」も開発中です。21世紀のグローバルスタンダードカーは、プリウスかゴルフか。両者の進化に注目しましょう。



新型プリウスのすべて

新型プリウスのバッテリーは、エネルギー密度の高いリチウムイオン電池ではなく、従来同様ニッケル水素電池を採用しています。頻繁に充放電を繰り返すプリウスのシリーズ・パラレル・ハイブリッドには、ニッケル水素電池の方が適しているのです。
エンジンを発電機として使用し、モーターのみで駆動するシリーズ・ハイブリッドには、リチウムイオン電池が採用されるでしょう(もしかして、現行方式は今のプリウスで最後?)。
そしてモーターはエンジンのアシストに徹する、シンプルな構造のパラレル・ハイブリッドには、バッテリーよりもキャパシタの方が適しているのではないでしょうか。

プリウスばかりが注目されていますが、6月11日に発表されるマツダ・アクセラにはi-STOP(アイドリングストップ機構)が搭載されます。これまたインサイト効果か、価格は189万円から。2,000ccでこの価格なら、十分に競争力があると思います。スポーティな走りではプリウス、インサイトに負けないでしょう。
ハイブリッド車だけでなく、電気自動車・燃料電池車・クリーン・ディーゼル車など多様なエコカーが登場して、クルマの未来を面白くしてもらいたいものです。

エコカー減税、スクラップインセンティブなど、バラマキ経済対策は一時的な景気刺激にはなるでしょうが、それは需要を先食いするだけで、本質的な経済成長は望めません。
日本の自動車産業には、減税や補助金によるドーピングに頼らず、クルマそのものの魅力を高めることが求められています。

(5月21日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
205万円の衝撃(前編)
景気回復の救世主?(前編)
景気回復の救世主?(後編)
【3代目】新型プリウス発表
「トヨタショック」は超えられるか
イニシャルD
ハイブリッドは世界を制すか
未来予想図


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2009年05月25日

205万円の衝撃(前編)

5月18日に発売された3代目トヨタ・プリウスは、異例尽くめのデビューとなりました。
・設計変更による発売延期
・発表前にオフィシャル写真が流出
・さらに発表前に価格情報が流出
・発売前の車両を公共の場に展示
・トヨタ系全ディーラーでの販売
・旧モデルの装備を見直して継続販売
あまりにも詳細な情報が事前に判明していたため、発表時には新鮮味が感じられなかった新型プリウス。おなじみモーターファン別冊『すべてシリーズ』も、早々と書店に並びました。



新型プリウスのすべて

新型プリウスで最も注目を集めたのは、なんといっても価格です。
1,800ccへの排気量アップや装備の充実度から、価格上昇が予想されていた3代目プリウス。量産効果によるハイブリッドシステムのコストダウンによって、既存車種との価格差が縮まるとの報道もありましたが、205万円からの価格は予想をはるかに下回る衝撃的なものでした。これは明らかに、189万円からの低価格でハイブリッド車を普通のクルマにすると謳ったホンダ・インサイトへの対抗処置です。
新型プリウスのラインナップは、最廉価版「L」が205万円、量販グレードの「S」が220万円、上級仕様の「G」が245万円。おそらく当初は「L」の価格を220万円位で考えていたのではないでしょうか。

世界トップレベルの低燃費、大幅に向上した走行性能、ソーラーベンチレーションやLEDヘッドランプといった最先端装備、室内スペースの改善、そして累計100万台以上の販売実績。新型プリウスを開発したエンジニアたちは、自信満々で3代目を世に送り出したはずです。たとえ今より20万円高くても、太刀打ちできるクルマは存在しないでしょう。実際に新型プリウスの予約は絶好調で、発売日には受注が空前の8万台に達しました。
しかし経営陣の思いは違ったようです。燃費でも装備の充実度でも、旧型プリウスにすら及ばないインサイトを過度に恐れ、205万円という価格勝負に打って出ました。そのうえカタログには、インサイトに見立てたマイルドハイブリッド車との比較まで載せて、情けなくなってきます。こういった比較は普通、販促チラシレベルでやるものでは?
創業期以来の赤字が、世界一の自動車メーカーをここまで弱気にさせてしまったのでしょうか。

4月にはインサイトがハイブリッド車として初の販売台数1位を獲得し、フィットとともにホンダがワンツーフィニッシュを果たしました。ホンダディーラーでは、インサイトの集客力が他車の成約につながっているようです。
一方、もともと知名度の高いプリウスは指名買いが多く、他車への波及効果は限定的。しかもプリウスの戦略的な価格設定は、他のトヨタ車を割高に見せてしまいます。
逆境のなかでも黒字を確保したホンダに対し、過大な生産能力が重荷となって今年度も赤字が見込まれるトヨタ。
この勝負、プリウスvsインサイトはプリウスの勝ちトヨタvsホンダはホンダの勝ち、といったところでしょうか。

(続く)
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2009年05月11日

アメリカは自滅したがっている?

「変革」を掲げ、今年1月に発足したバラク・オバマ政権。景気回復に大きな期待がかかる一方で、巨額の経済対策は、危機的なアメリカ財政をさらに悪化させるとの懸念もあります。
オバマ政権下でドル基軸通貨体制の崩壊が起こると予測するのは、国際ジャーナリストの田中宇氏です。世界金融危機を受けて2008年11月15日にワシントンDCで開かれたG20(金融サミット)は、ドルに代わる国際通貨体制を模索した、第2のブレトンウッズ会議であったと述べています。
第2次大戦後の世界経済の安定化を図った、1944年のブレトンウッズ会議は、金1オンスを35ドルと定め、ドルと各国通貨との交換比率を固定しました。ブレトンウッズ体制は、1971年の金ドル兌換停止(ニクソン・ショック)によって崩壊します。



世界がドルを棄てた日

田中宇 著

19世紀に覇権国家だったイギリスは、二度の世界大戦を経てアメリカに覇権が移っても、国際政治を黒幕的に操ってきました。製造業が衰退したイギリスにとって、諜報こそが最大の産業。まさに007の国ですね。
一方、ニューヨークの金融資本家たちは、凋落傾向にあるアメリカ市場よりも成長著しい途上国市場を重視し、世界規模で利潤を最大化することを目論んでいます。
英米覇権主義を掲げる軍産複合体と、国際多極主義を目指す金融資本家。アメリカ政治の背後には、ふたつの勢力の暗闘があると、田中氏は推測しています。

田中氏は9.11同時多発テロを、軍産複合体が「テロとの戦い」という第2の冷戦を展開するために、テロを予測しながら防ごうとしなかった、自作自演的なものだとしています。しかしながら9.11後のアメリカは、軍事費増加による財政悪化、イラク情勢の泥沼化など、どう考えても自国に不利な状況へ向かっているとしか思えません。
これはブッシュJr.政権の戦略の稚拙さに加えて、多極主義者がアメリカを故意に破滅へと導いているからだと田中氏は言うのですが…

日本や中国は、自国通貨が基軸通貨となることのリスクを避け、アメリカの単独覇権が維持されることを願い続けてきました。しかしドルに依存する世界経済は、そう長続きしそうにありません。特に対米従属路線しか頭にない日本に対し、多極化する世界の一翼を担うべく覚醒が必要であると、田中氏は強く訴えています。
地球温暖化問題については、先進国が排出ガス課税によって途上国の経済成長をピンハネする策略であり、温暖化対策をしなくても人類は困らないとの認識です。

たいへん面白い読み物なのですが、さてアメリカ政府は本当に財政破綻したがっているのでしょうか…?

(5月11日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
バラク・オバマと7つのアメリカ
それでもバブルは繰り返す
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2009年05月06日

邪馬台国へ至る道

卑弥呼とは誰で、邪馬台国はどこにあったのか…論争は遥か昔から続いています。
日本書紀の記述(神功皇后)にはじまって、北畠親房新井白石本居宣長といった歴史上の知識人から、現代の歴史学者・考古学者・作家に至るまで、まさに百花繚乱の邪馬台国論争。このたびは交通史からのアプローチです。



邪馬台国魏使が歩いた道

丸山雍成 著

近世交通史の大家・丸山雍成氏は、魏使が倭を訪れたのは真夏であり、日昇の方向が春分・秋分よりも45度ずれているとします。したがって本書は、魏志倭人伝における東南は東、東は東北、南は東南として論旨を展開します。
丸山氏は日本の歴代政権が、外国使をストレートに国都へ招き入れることはしなかったと主張します。これが古代以来の日本の高等政策であり、ぺリーの軍艦が直接江戸湾に入ったことを契機に、江戸幕府は間もなく倒壊しました。
邪馬台国の場合も、魏使を直接陸路で国都へ向かわせずに、迂回させたと考えられます。その間に邪馬台国側の使者は、最短距離で魏使の来訪を卑弥呼に伝えることが出来ます。

伊都国を出た魏の使者が向かったとするのは、島原湾・有明海です。丸山氏は、これまで重視されなかった九州中央部にも、畿内や北九州に質・量ともに遜色のない弥生時代の遺跡があることを力説します。
これって、昨年映画化された宮崎康平『まぼろしの邪馬台国』と同じでは…思いましたが、これで終わりではありません。ここから上陸して、邪馬台国の王都へと向かうのです。丸山氏が比定する邪馬台国の王都の位置については、実際に本書をお読みください。
本書は交通史学者の著作ですが、当時の航海技術や造船技術からの視点はありませんでした。邪馬台国論争の歴史を踏まえたうえで、考古学の発掘成果による考証を加えた、極めてオーソドックスな成り立ちの本です。

現在、邪馬台国畿内説が優勢に感じられるのは、畿内説には「卑弥呼の墓=箸墓」「王都=纒向遺跡」という、九州説にはない解り易くシンボリックな存在があるからではないでしょうか?
九州説の場合、吉野ヶ里遺跡はともかく、甘木・朝倉といってもピンと来る人はほとんどいないでしょうね(九州説にも「卑弥呼の墓=宇佐神宮」を掲げる論者がいます)。

(5月4日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
鏡よ鏡…
邪馬台国は、ここにある。
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 19:33| Comment(6) | TrackBack(0) | 歴史・民俗交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月04日

5月はMay(メ〜)

村上春樹『羊をめぐる冒険』、フィリップ・K・ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』など数々の小説作品に登場する動物、ヒツジ
ヒツジは古くから家畜として飼われ、毛・肉・乳などが利用されてきました。人間にとって非常に身近な動物です。



ひつじがすき

佐々倉実(写真) 佐々倉裕美(文)

ヒツジといえば、モコモコした白い毛皮と渦巻き状の角を思い浮かべます。これはメリノと呼ばれる品種です。他にも顔と脚が真っ黒なサフォーク、4本の角がいかめしいジャコブなど、数多くの品種があります。
ヒツジは草を引き抜かずに食べ、次も食べられるようにします。そして程よい力で地面を踏みつけて、再び牧草が育つようにします。黄金の蹄の持ち主なのです。

本書は日本各地のヒツジ牧場を訪ね歩き、四季を通してさまざまなヒツジの表情が、カラー写真で収められています。
つぶらな瞳の子ヒツジの愛らしさは、たまりません。
面長でとぼけた顔をした親ヒツジも、味わいがあっていいですね。
眺めているだけで癒される一冊です。
ちなみに子ヒツジは「メーメー」と高い声で、親ヒツジは「ベー」と低い声で鳴くそうです。

ヒツジに関する豆知識も豊富。
例えば、華氏100度はヒツジの体温(摂氏約38度)なんだとか。

(5月3日読了)

本書の続編も出ました。
ヒツジの品種については、こちらの方がわかりやすく書かれています。



ひつじにあいたい

さらにDVD版『ひつじがすき』も発売。
羊が一匹、羊が二匹…と数えて眠りを誘う特典映像入り。
ヒツジブーム、到来か?



【24%OFF!】ひつじがすき 日本のひつじ牧場(DVD) (2009年5月28日発売/発売日以降お届け)
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月03日

退化する芸術

モナリザにひげを生やしたり、便器にサインをしただけで「芸術」と称する、マルセル・デュシャンの作品をご存知の方は多いでしょう。
抽象的な絵画、ガラクタを寄せ集めたオブジェ、建造物を巨大な布で覆うパフォーマンスなど、現代アートは「よく解らない」と言われます。
芸術とは美とは、一体何なのでしょうか?



現代音楽と現代美術にいたる歴史

北原惇 著

ポール・マクリーンは、人間の脳は三層構造になっていると唱えました。
一番下にあるのは爬虫類の脳で、捕食や繁殖といった生命を維持する行動を司ります。
次いで原始的な哺乳類の脳(大脳辺縁系)があり、感情を表すことができます。
その上に進化した哺乳類の脳(大脳新皮質)があります。人間の脳は新皮質が非常に発達しており、美や道徳など高度な創造的活動を生み出します。
本書は、マクリーンの脳科学を用いて、芸術とは美とは何かを論じる試みです。

人間は病気やストレス、化学物質の影響、そして戦争や災害などの衝撃的な体験によって、大脳新皮質が機能しなくなることがあります。そうなると欲望や感情をコントロールできなくなり、人間の行動は原始的な哺乳類や爬虫類の段階にまで退行してしまいます。
北原惇氏は、アフリカ系アメリカ人の過酷な奴隷体験や差別体験が、麻薬やグラフィティ(落書き)、バンダリズム(破壊行動)などのゲットー文化を生み出したといいます。
欲望や官能をストレートに歌うアフリカ系アメリカ人のリズム&ブルースは、それを聴いたアフリカ系以外の若者をも魅了し、ロックンロールの名で商業音楽化されて世界を席捲しました。ロックとともに、反社会的なゲットー文化が、アメリカをはじめ世界を侵食しているのです。
北原氏には、そのものズバリ『ロック文化が西洋を滅ぼす』という著書もあります

つまり、対抗文化とは退行文化だった…
意味不明なアートの氾濫は、人類の文明の行き詰まりを暗示しているのでしょうか?
近代がもたらした弊害を批判する、保守思想書としても読めます。

(4月29日読了)
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 01:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 芸術・娯楽交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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