2010年01月31日

ヒトの心のモノがたり

ヒトはなぜ美を求め、戦争を起こし、巨大な古墳を築いたのか…
そんな魅惑的なテーマを掲げる一冊に出会いました。



進化考古学の大冒険

進化考古学とは聞き慣れない言葉ですが、石器・土器・建造物など、ヒトが作り出したモノ(人工物)の進化を通して、ヒトの心の歴史に迫る試みです。

ヒトには強力な牙や爪、速く走れる脚はありません。しかし大きな脳と、道具を作る器用な手、そして長距離を移動できる脚があります。本書は、ヒトの祖先は肉食獣が食べ残した動物の骨を主食にしていたとするボーン・ハンティング説をもとに、ヒトの身体の基本設計を解き明かしています。
石器や土器の使用、農耕の開始、民族と国家の起源など、モノの進化が語る人類の歴史を俯瞰しながら、それぞれの時代における日本列島での事例を紹介するのが、本書のスタイルです。

最も興味深かったのは、巨大古墳の衰退と文字社会の発展が、極めて密接にリンクしているとの指摘です。
民族のアイデンティティを記した歴史書が書かれ、仏教・キリスト教・イスラム教などの世界宗教が普及すると、社会や文化をまとめる仕組みが、イメージ表象から文字による命題表象系に依存するようになります。そうなるとピラミッドや前方後円墳のような、民族・地域色の濃い法外な規模のモニュメントは衰退します。

宇宙の起源、生命の進化、人間の本性といった大風呂敷なテーマが、私は大好きです。
本書の展開する説が、現在の歴史学や考古学で主流なのかどうかは分かりませんが(やたらと「史的唯物論」を繰り出すのも気になる…)、なるほどと思わせる指摘で溢れています。

(1月30日読了)★★★★★


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2010年01月25日

疑惑のノーベル平和賞

1月20日、アメリカのバラク・オバマ大統領が就任一周年を迎えました。
昨年は大統領としての実績がほとんどないまま、ノーベル平和賞を受賞。核なき世界を目指すと宣言したことはともかく、アフガニスタンへの兵力増派を決めた大統領が平和賞とは、なんとも理解しがたいものがあります。



ノーベル平和賞の虚構

アルフレッド・ノーベルの遺産をもとに設立されたノーベル賞には、物理学賞、化学賞、医学・生理学賞、文学賞、平和賞、経済学賞の6部門があります。このうち経済学賞は、もともとノーベルの遺言にはなく、正しくはスウェーデン銀行賞と呼ぶべきです。
そして平和賞の選考は、スウェーデンではなく隣国のノルウェーで行われています。実はノーベル平和賞選考の裏には、かつてはスウェーデンの属国であり、冷戦時代にはソビエト連邦と国境を接していた、小国ノルウェーの国家戦略が隠されているのです。

2005年のIAEA(国際原子力機関)とモハメド・エルバラダイ事務局長、2007年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)とアル・ゴア元アメリカ副大統領、そして今回のオバマ大統領のノーベル平和賞受賞は、一本の線で繋がっているといいます。それは核兵器削減と地球温暖化対策によって生まれる、原子力ビジネスの利権です。
オバマ大統領は、核廃絶への決意を表明した2009年4月5日のプラハ演説で「気候変動と戦い、すべての人々にとって平和の機会を推進するために、原子力エネルギーを利用しなければなりません」と述べています。
バラク・オバマ大統領のフラチャニ広場(プラハ)での演説
(在日米国大使館)

しかし、温室効果ガスの排出による地球温暖化には異論もあり、今後は地球が寒冷化し小氷期に向かうと考える科学者もいます。
ただ、地球温暖化が一転して「ヤンガードリアス」のような寒冷化が起こると素朴に信じるのはどうかと…

本書は、地球温暖化論を強く批判していますが、終盤になると地球温暖化対策に日本が積極的に取り組むべきだとの論調に変わり、最後にふたたびノーベル平和賞が後押しする環境利権ビジネスを批判しています。
要するに、ノーベル平和賞も地球温暖化も胡散臭いけれど、環境・原子力ビジネスの興隆に乗り遅れてはならず、日本もノルウェーのようにしたたかな国家戦略を持てと言いたいわけですね。ハッキリそう書けばいいのに…

(1月24日読了)★★★★

【不純文學交遊録・過去記事】
バラク・オバマと7つのアメリカ


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2010年01月18日

KY消費

本日、久しぶりにPCを起動。Windows Updateを更新している間に読みました。
景気が低迷するなか、欲望を喪失した草食系の若者が話題となる昨今。若者は本当に消費しなくなったのか…
「下流社会」「ファスト風土」等の造語で知られる三浦展と、ロストジェネレーション(就職氷河期)世代の原田曜平が、現役大学生の男女を交えて語ります。



情報病

携帯電話やインターネットが普及した現代。「団塊ジュニア」「ロスジェネ」よりもさらに下の世代の若者には、空気を読むコミュニケーションが広がっています。
例えば、海外旅行にはお金がいるので友達に負担がかかる。予定を組むにも、みんなの都合を考えるとなかなか決められない。かといって一部のメンバーだけでは寂しいし、一人で海外へ行っても自慢話にしかならない。だからみんなで近場へ行こうとなる。
景気が悪くてお金に余裕がないのも確かでしょうが、みんなの空気を読む「友達KY消費」が消費全体を縮小させているようなのです。

「あれが好き」「これが好き」と議論するよりも、「あれっていいよね」「だよね」と同調するのが現代若者のコミュニケーションの基本。
みんなが持っているから持つのであって、人が持たない商品や人が知らない知識で差別化することは好まない。だからモノにまつわる文化もまた、衰退してゆく。あとがきで三浦展は「若者よ、もっと孤独になれ」と訴えています。
「空気を読む」という同調圧力に支配される若者たち。自由や個性を尊重する教育環境で育ったはずなのに、実はとっても不自由な世代なんですね。

本書に登場する大学生は幅広いネットワークがあり、たった二人へのインタビューであるが今の若者の全体像が見える(原田曜平のまえがき)というのは、いくらなんでも言い過ぎでは。
もしかしたら「空気を読んだ」受け答えかもしれないのに(笑)

(1月18日読了)★★★★
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2010年01月12日

これがバブルだ!

現在、日本経済はデフレ状況にある…政府は昨年11月の月例経済報告で「デフレ宣言」をしました。
内閣府 月例経済報告(PDF) 平成21年11月20日

不況でモノが売れなくなる⇒値段を下げる⇒売上が減少する⇒賃金を引き下げる⇒さらにモノが売れなくなる⇒また値段を下げる…この繰り返しがデフレスパイラルです。
資本主義は成長し続けることで成り立っており、緩やかなインフレは望ましい状態だと考えられています。しかし、インフレになって良いことはひとつもないと断言するのが、経済学者で個人投資家でもある小幡績です。
小幡績 日銀は日本経済を救えるか?(PDF)

小幡績といえば、資本主義とはネズミ講であると看破した『すべての経済はバブルに通じる』の著者です。冒頭であまりに明快に書いてあるので、それだけで得心してしまったのですが、この機会に最後まで読みました。



すべての経済はバブルに通じる

世界金融危機の発端となった、サブプライムローンの崩壊。その仕組みについては過去に交遊した書物にも書かれているので、ここでは述べません。
証券化によって流動性が高まったサブプライムローン債権は、多くの投資家を集める商品となりました。
サブプライムローンに実体があるかどうかは、本質的な問題ではありません。投資家にとって最大のリスクは、住宅ローンが債務不履行になることではなく、債権が売りたいときに売れなくなる(流動性が低下する)ことです。要は何であれ、買ったときよりも高く売れれば良いのです。
怪しげな商品だからといって、利益を出している最中にゲームから降りてしまっては、投資ファンドはライバルよりも多くの利回りを得ることができません。バブルが崩壊する寸前まで、ファンドマネージャーはゲームから降りることができないのです。
バブルだと分かっていても止められない。むしろバブルだからこそ乗り遅れまいと投資する。これがバブルの本質です。

サブプライムローンの影響が少なかった日本で、なぜ最も株価が暴落したのか。これについても本書は明快に答えています。
円キャリー取引という言葉をご存知でしょうか。ゼロ金利の日本で資金を安く調達し、高金利の通貨で運用したり、その他のリスク資産に投資することです。実際に円キャリー取引が行われていたかどうかよりも、多くの投資家が円キャリー取引があると信じていたことが重要です。
サブプライムショックで、世界中のリスク資産から投資の引き揚げが始まりました。投資家は円での借り入れを返済するために円を買い戻し、円高が一気に進行します。円高になると、日本経済は輸出依存度が高い(と思われている)ため、株式相場は下落するのです。
また、日本市場は外国人投資家の後追いばかりで、仕掛ける側の投資家からは格好のターゲットにされているとも指摘しています。

資本主義の正体を暴く痛快な一冊。ハッキリ言って、面白すぎます!

(1月11日読了)★★★★★

【不純文學交遊録・過去記事】
それでもバブルは繰り返す


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2010年01月11日

真犯人は別にいる

ミステリには、合作によるものが結構あります。
日本では岡嶋二人、海外ではエラリー・クイーンが有名です。

二階堂黎人と千澤のり子という組み合わせ。この二人は以前、宗形キメラという合作ペンネームで作品を出しています。その作品(『ルームシェア』)は読んでいないのですが、今回はちょっと気になって読んでみました。



レクイエム

桐山真紀子は元警察官。現在は警備会社に勤務する傍ら、私立探偵として活動しています。小柄ながら筋肉質で、勤務中に負った重傷から二度も復帰を果たしたダイハードな女性です。
真紀子は、警備会社の社長である吉田作蔵から、ある事件の再調査を依頼されます。
前年に横浜市の加美の森公園で起きた、幼稚園バス爆破事件。一旦は容疑を認めた被告人が、裁判で自分はやっていないと主張し始めたからです。

被告人・相沢光則は、自宅マンションで爆弾を製造するのが趣味でした。
事件で使用された爆弾は、相沢が製造したものに間違いありません。しかし相沢は、爆弾は何者かが自宅に侵入して盗み出したもので、自分は事件に全く関与していないと言います(もちろん、爆弾の所持は立派な犯罪ですが…)。
事件の再調査は、一日も早く悲劇を忘れたい遺族の感情を逆撫ですることになり、誤認逮捕となれば神奈川県警の面子を潰すことにもなります。
さまざまな妨害に遭いながらも、真紀子は地道に事件の関係者を追跡します。

二階堂黎人といえば、人間を描くことよりもトリックが命の本格原理主義者(?)ですが、本作は人間ドラマが濃厚で、社会派の趣も感じられます。桐山真紀子のひたむきさに、感情移入してしまう作品です。
ただ、いかに犯人が過去の事件のショックで狂っていたとしても、26名もの犠牲者を出した爆破事件の動機としては、ちょっと…

(1月11日読了)★★★★
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2010年01月04日

壬申の乱は謎だらけ

672年に起きた壬申の乱は、日本古代史最大の内乱です。
吉野に隠棲していた大海人皇子が、近江朝廷の大友皇子(明治3年に弘文天皇と諡号)を倒し、天武天皇として即位しました。大友皇子は、天武天皇の兄である天智天皇の子。叔父と甥で皇位を争ったわけです。
壬申の乱の背景をめぐっては、謎が多く残されています。



壬申の乱を読み解く

いきなり「本書は、正面切って壬申の乱の歴史的意義を論じようとするものではない」と書いてあって、拍子抜け…
壬申の乱を論じるための主要な素材である日本書紀の壬申紀(天武天皇紀上巻)を、いかに読むべきかが本書の主題です。朝廷の正史である日本書紀には、当然ながら作為があります。

壬申紀で中心的な活躍をするのは、大和方面の軍を率いた大伴吹負ですが、壬申の乱の功臣に彼の名はありません。
逆に、壬申紀には全く登場しないにも関わらず、功臣とされた人物もいます。
そして、兵力を集めるのに功のあった尾張国守の少子部連さひち(金+且/鉤)は、なぜか乱後に自殺しているのです。
一方、敗れた近江朝廷側では、自殺した大友皇子に最期まで付き従った物部連麻呂が、のち石上麻呂として左大臣にまで昇進しています。
壬申紀が書かれたのは乱の約半世紀後であり、日本書紀が成立した当時の政権内部の意向が、論功行賞の記述に影響しているようです。

大海人皇子が吉野を出立するまでには、迷いがあったようです。容易に兵は集まらず、三十数名で東国を目指しました。壬申の乱が計画的であったかどうかは、論争が尽きないようです。
私には、大海人皇子が個人的に蜂起したというよりも、近江朝廷の政策に不満を抱く東国の豪族たちが、大海人皇子を担ぎ上げたのではないかという印象があります。

本書は壬申の乱の真相を解き明かすものではありませんが、歴史好きが推理するための様々な手掛かりを与えてくれる一冊であると言えましょう。

(1月3日読了)★★★★

【不純文學交遊録・過去記事】
女帝の密かな陰謀 ※壬申の乱の首謀者は持統天皇(倉本一宏)
日本史を創った男 ※天武天皇は凡庸な政治家だった(大山誠一)
消えた(消された?)神様 ※天武天皇は偉大な帝王である(戸矢学)
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 17:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史・民俗交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月03日

ドバイはヤバイ?

昨年11月25日、ドバイ政府が政府系持株会社「ドバイ・ワールド」の債務返済繰り延べを要請したことに端を発したドバイショック。
リーマンショックの再来かと騒がれましたが、急激な円高や株価の下落は一段落し、ひとまず世界経済は安定を取り戻したようです。
【参考】池田信夫blog 経済危機は資本主義の強さを証明した

ドバイにはまだ「燃える投資」があるのでしょうか?



ドバイの憂鬱

世界金融危機で、ドバイの不動産バブルは崩壊しました。ふたたび絶頂期に戻ることは困難でしょう。
しかし、バブルの沈静化で電力の供給不安がなくなり、原材料価格が低下したことでインフラ整備が成長に追い着くようになりました。むしろドバイの景気は正常化したといえます。
起業の容易い自由な商環境も、ドバイの好材料です。

湾岸諸国で最も経済成長力があるのは、世界一の天然ガス産出国であるカタール。教育・研究に力を入れ、金融機関の経営状態も良好です。
次いでサウジアラビアは、人口増加が続いており、今後も大きな不動産需要が見込めます。
ドバイと同じくUAE(アラブ首長国連邦)を構成するアブダビも、堅実な成長を続けています。

湾岸諸国にはドバイよりも有望な国があること、バブル崩壊で湾岸経済はむしろ健全化したとの報告は、本書で得られた有益な情報です。
ただ、同じような話題の繰り返しが多いですね…

(12月30日読了)★★★

【不純文學交遊録・過去記事】
よ〜く考えよう、石油は大事だよ♪
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 09:49| Comment(4) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月02日

新春初読み

新年の初読みは、切れ味鋭いミステリを…
そう思って選んだのが、歌野晶午『密室殺人ゲーム2.0』でございます。



密室殺人ゲーム2.0

インターネットのチャットに集う5人が、交替で不可能犯罪のトリックを出題し、繰り広げられる推理合戦。ただし、このゲームは出題者が殺人を実行して、残る4人がそのトリックを解き明かすという特異なものです。
出題者は犯行現場の写真を披露してヒントを提供するとともに、自らが殺人を実行したことを誇示します。
解答者は現場を訪問したり、警察官やジャーナリストだと偽って関係者に取材するなどして、推理を展開します。そして連日チャットに出没するのです。
いずれにしろ、彼らのような自称・高等遊民(=超ヒマな人)にしか出来ません(笑)

犯行の動機は怨恨でも金目当てでもなく、かといって異常な性癖を満たすための快楽殺人でもない。文字通り、ゲームを成り立たせるためだけの殺人。そのうえ残虐描写もあり。
現実にはありえない設定だと解っていながら、こういう本を読んで楽しんでしまうことに対する罪悪感もまた格別。
できれば人が死なないで、なおかつ切れ味の鋭いミステリを読みたい…

(1月1日読了)★★★★★


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posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 12:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月01日

謹賀新年そして5周年

あけましておめでとうございます。
お蔭様で不純文學交遊録は5周年を迎えました。
本年も気まぐれに更新いたします(笑)
引き続きご愛顧のほど宜しくお願い申し上げます。

平成弐拾弐年元旦 不純総合研究所

基本的にblogは何か読まないと更新しませんので、ちょっとした思いつきを投稿するために、本年よりtwitterを試してみることにしました。



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posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 10:17| Comment(4) | TrackBack(0) | 不純総合研究所 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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