2010年09月26日

OTAKUはCOOL?

9月14日、ベルサイユ宮殿で村上隆の個展が始まりました。フランスの右派団体からは「宮殿に軽薄な現代アートを置くのは、歴史遺産を冒涜するものだ」と反発する声が上がっています。
そういえば、イオ・ミン・ペイが造ったルーブル美術館中庭の「ガラスのピラミッド」も、同様の批判に晒されました。

日本的想像力の未来

日本的想像力の未来

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賛否はともかく、アニメーションをはじめとする日本のポップカルチャーは、海外で広く受容されています。
なぜ日本のポップカルチャーは、クールだと認識されたのか。クールジャパンは、日本経済を牽引するソフトパワーとなるのか。そしてオタクは、国籍・人種を超えたアイデンティティとなりうるのか…

本書は、東浩紀を中心とした東京工業大学世界文明センターでの国際シンポジウムを書籍化したものです(東京“工業”大学世界文明センターは、いまや貴重な人文知の発信の場なんだとか)。
シンポジウムには批評家だけでなく、現代美術家の村上隆、映画監督の黒沢清という製作者も参加。さらに海外の日本文化研究者も加わっており、日本的クールさとは何かを客観視できる内容です。
海外の研究者は「クールとは何か」について、未知であること(ジョナサン・エイブル)、非生産的であること(へザー・ボーウェン=ストライク)を挙げています。

アカデミックな話題であっても、シンポジウムとなると話し言葉で書かれるので、分かりやすくなります。
面白いのは、第2部の討論。
オタクよりもフリーターの方がグローバルな問題だと語り、クール・ジャパノロジーが安易にナショナリズムと結びつくことを危惧する毛利嘉孝に対し、東浩紀が猛反撃。追い討ちを掛けるように、自称ワーキングプアの若者なんて仕事を選んでいるだけだと、一蹴する宮台真司。議論はカルスタ(カルチュラル・スタディーズ)批判の様相に。

本書の構成は時系列とは逆に、1日目の内容が第2部、2日目が第1部です。
1日目(第2部)の討論には大塚英志も参加していたのですが、彼は書籍化を固辞したため、残念ながら発言が削除されています。
東浩紀の新刊に村上隆が出ているということで、なんとなく手に取ったのですが、意外に楽しめました。

(9月26日読了)★★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
萌える資本主義


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2010年09月20日

かぐや姫は火の女神

いまは昔、竹取の翁と云ふものありけり…おなじみ『竹取物語』の冒頭です。
光る竹の節から現れた赤子は美しく成長するも、貴公子たちの求婚を退け、天皇からのお召しをも拒絶し、最後は月の世界へ帰ってしまいます。
しかし『竹取物語』は、単なる異世界ファンタジーではありません。かぐや姫に求婚する五人の貴公子には実在のモデルがおり、非常に政治色が濃い作品であることはよく知られています。

かぐや姫と王権神話

かぐや姫と王権神話

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本書のサブタイトルは、『竹取物語』・天皇・火山神話。
かぐや姫と火山神話がどう繋がってくるのか、興味が湧きます。
物語のラストで天皇は、かぐや姫の置き土産である不老不死の薬を、富士山の頂で焼き捨ててしまいます。もしかして、かぐや姫の正体は木花咲耶姫だとか…

『竹取物語』を丁寧に読み解いていくと、舞台となった具体的な地名や、竹取の翁を輩出した氏族が明らかになってきます。
そして物語に登場する五人の貴公子は、天武・持統朝に活躍した実在の人物たちです。本書は、天武天皇が創始した宮廷舞踏会(五節舞)が、物語のベースになっているとします。
さらには物語が成立した平安時代前期のリアルな政治事情までもが、『竹取物語』には反映されています。

平安時代前期の日本列島は、火山の活動期でした。富士山の史上最大の噴火(864年)が起きたのも、この頃です。古代の人々は、火山の噴煙に天上の世界を幻視したことでしょう。
『竹取物語』が書かれた時代、それは「神話の時代の終わり」でもありました。神道が国家によってシステム化されるとともに、女性は司祭の地位から追われたのです。
(失われた火山神話を掘り起こす試みは、石黒耀の小説作品にも見られます)

とにかく中身が濃くて面白いので、歴史好き・文学好きには超オススメです。
巻末に『竹取物語』全文が掲載されているのも、嬉しい大サービス!
作者を文官貴族としながらも、誰かは特定していないのは、ちょっと物足りないかな…

(9月20日読了)★★★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
本当にキケンな源氏物語
富士山大噴火
女帝・かぐや姫
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2010年09月19日

織田信長ゆかりの劔神社へ

戦国大名・織田氏発祥の地である、福井県丹生郡越前町(旧織田町)の劔神社へ行って参りました。
越前国二ノ宮である劔神社は、織田信長が氏神として崇敬したことで知られています。国宝の梵鐘には「劔御子寺鐘 神護景雲四年(770年)九月十一日」の銘があり、奈良時代には既に神宮寺が存在したことになります。
記録に残る最初の神宮寺は霊亀元年(715年)、藤原武智麻呂の夢告により、越前国一ノ宮の氣比神宮に建立されました。劔御子寺も、氣比神宮寺に遜色ない歴史をもっているようです。

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劔神社

越前町織田文化歴史館では「神仏習合の源流をさぐる‐氣比神宮と劔神社‐」と題した特別展示を開催中(平成22年9月4日〜10月11日)。9月19日には「劔御子寺は日本最古の神宮寺か」と題して、青木豊昭氏(福井県立一乗谷朝倉氏遺跡資料館元館長)による記念講演会がありました。
織田は越前国敦賀郡伊部郷に属し、地名の由来は織り物の盛んなところ(田は水田ではなく、処の意)だそうです。この地の豪族である伊部氏の祖は、百済からの渡来人・乃理使主(『新撰姓氏録』)で、秦氏の一族だといいます。また、越前国には牛を殺して漢神(韓神)を祭ることを禁止する命令が出されており、奇しくも前回の交遊(『渡来の原郷』)にまつわる話が聴けました。
劔神社の祭神は氣比神宮と共通項が多く、氣比神宮が大中臣氏を神官にすると、対する劔神社は忌部氏を招き、両社は競うように社格を上げていきました。

青木さんのお話で、大変印象深かったことをひとつ。
各地の寺社の御本尊や御神体は、人目に触れることを嫌い、手付かずのまま放って置かれていることが多いそうです。そのため、落ち葉やネズミの糞に埋もれているのだとか。これでは宝物が盗難に遭っても分かりませんし、運良く盗品が見つかっても写真すら撮られたことがないのでは鑑定のしようがありません。
昔からの禁忌を守ることが、かえって文化財の危機を招いているのです。

【関連サイト】
越前二の宮 劔神社
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 22:01| Comment(8) | TrackBack(0) | 書を捨てて街へ出る会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月16日

渡来民俗の謎

四方を海に囲まれた日本列島には、太古から多くの人々がやって来て、その痕跡を各地に残しています。
神話にはアメノヒボコやツヌガアラシトの伝説が語られ、応神天皇の御世に渡来した弓月君と阿智使主は、それぞれ秦氏と東漢氏の祖として大和朝廷に先進的な文物をもたらしました。

渡来の原郷

渡来の原郷

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さて本書は、NPO法人ハヌルハウス主催「渡来文化と日本列島」で講演した3人が、意気投合して大韓民国の江陵端午祭を訪れ、そのレポートともに各人の研究テーマをまとめたものです。
前田速夫:新潮社『新潮』元編集長、白山信仰のルーツを探る民俗研究家。
前田憲二:日本や朝鮮半島の祭祀を記録する映画監督、ハヌルハウス代表理事。
川上隆志:岩波書店『へるめす』元編集長、現在は大学教授。渡来人(秦氏)を研究。

前田速夫の「白山信仰の謎と古代朝鮮」で興味深かったのは、日本にも殺牛祭祀があったこと。意富加羅国の王子ツヌガアラシトは「角がある人」で、牛の信仰との関係は深そうです。
江陵端午祭をはじめとする韓国の祭祀に詳しいのは、前田憲二の「朝鮮半島の呪術と霊魂観」。韓国の東海岸には、今でも世襲の巫女(ムダン)によるシャーマニズムが生きています。
川上隆志は「渡来文化と謎の民」で、江戸幕府の経済基盤を築いた大久保長安が、秦氏の末裔だと論じます。彼の出自は猿楽師であり、漂泊の芸能民は鉱山技術者だったのでしょうか。

面白い話なのですが、謎の渡来氏族・秦氏の正体は分からないまま…
なお、私は「なんでもかんでも朝鮮半島起源」説ではないので、誤解の無きようお願いします。

(9月12日読了)★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
白いカミサマ
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 20:48| Comment(2) | TrackBack(0) | 歴史・民俗交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月13日

食料自給率は、上げられない。

日本の食料自給率は約40%(カロリーベース)。
このままでは日本は食料危機に陥ると心配しているみなさん、自給率を上げる必要はありません。世界の食料は過剰生産気味で、世界食料危機が起こる可能性は極めて低くなっています。さらに日本の食料輸入先は先進国であり、政治的な理由で輸入がストップする可能性もほとんどありません。
そして…これ以上、食料自給率は上げられないのです。

「食料自給率」の罠

「食料自給率」の罠

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日本の食料自給率の低さが問題視されていますが、穀物自給率に至っては32%。
食料自給率の高い国は、穀物自給率の高い国であり、穀物の生産には広大な土地が必要です。人口密度が高く平地の少ない日本で、穀物を低コストで生産することは非常に困難です。
休耕田や耕作放棄地をフルに活用して小麦を自給しても、食料自給率は50%程度。トウモロコシや大豆を自給するには、さらに広大な土地が必要となります。
仮に小麦を自給しても、一戸あたりの農地が狭い日本の農家では採算が合いません。採算を合わせるとなると小麦の価格は国際価格の7倍にもなり、国民生活に大きな打撃を与えます。小麦の自給は、生産者も消費者も幸せにはしないのです。

日本の農業生産額は世界第五位ですが、それは決して農業の強さを示すものではありません。
農産物の輸出額から輸入額を引いた純輸出額で見ると、世界最強の農業国は、穀物自給率がわずか14%のオランダです。オランダは日本と同様に人口密度が高く、穀物の生産には不利なのですが、広い土地を必要とせず付加価値の高い農産物に特化しています。
日本に適しているのは、野菜や畜産(牛を除く)といった広い土地を必要としない農業、言い換えれば工業化しやすい農業です。

著者は『「食糧危機」をあおってはいけない』が話題となった川島博之。豊富なデータで、日本の農業の真実の姿を明らかにしています。これほどわかりやすい農業の本は、他にないでしょう。
数字ばかりでなく、日本人の土地への執着と政治の問題という、農業における「情」の部分に切り込んでいるのも本書の読みどころです。

(9月11日読了)★★★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
食料自給率に騙されるな!(前編)
食料自給率に騙されるな!(後編)
食糧危機は、やってこない。
農政に「NO」を!(前編)
農政に「NO」を!(後編)
ラベル:農業
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 16:28| Comment(4) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月06日

病み付きになりそう?

ラノベ風の表紙に躊躇し、探偵が特殊能力で推理するなんてアンフェアでは…と思いつつも、想像をはるかに超えた結末で驚かせてくれた、天祢涼のメフィスト賞受賞作『キョウカンカク』。
この勢いで、共感覚探偵シリーズ第2弾とも交遊しましょう。

闇ツキチルドレン

闇ツキチルドレン

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小さな地方都市で、犬や猫が殺される事件が続発。ついには会社帰りのサラリーマンが襲われる事態にまでエスカレートしました。襲撃者は、子供のように甲高い笑い声をしていたことから「チャイルド」と呼ばれています。
共感覚探偵・音宮美夜の雇い主である、警察官僚の矢萩によれば、チャイルド事件の容疑者は、元エリート警察官僚の最上倉太朗。サラリーマンが襲われた犯行現場に、彼の名前が入った懐中時計が落ちていたというのです。

元エリート警察官僚が容疑者…警察としては表沙汰にするわけにいきません。
最上倉太朗は、18年前にX県警本部長に就任。いずれは警察庁長官と目されていたものの、ほどなく娘夫婦を交通事故で失くしたショックで辞任しました。不本意な形で職を退いたとはいえ、未だ警察組織に隠然たる影響力をもっています。
矢萩は、この事件を最大限に利用して、警察内部の権力掌握を狙っているようです。

プチ家出女子高生やヘンタイ大学生に付きまとわれながら、倉太朗の隠された過去を追う美夜。前作同様、猟奇犯「チャイルド」の正体はすぐに目星が付きますが、本作は最後にもうひとひねりあります。
ただ、随所に美夜が共感覚を発揮していた前作と違い、本作はじわじわと心理戦で追い詰める感じで、前作ほどの病み付きになるような面白さはありませんでした。
それでも美夜と矢萩の謎めいた関係は、ますます気になるところ。銀髪の共感覚探偵さんとは、もうしばらくお付き合いすることになりそうです。

(8月28日読了)★★★

【不純文學交遊録;過去記事】
殺意の声が見える
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 20:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月05日

キョーサン主義も商品だ

20世紀の終わりに社会主義国家が次々と倒れて、東西冷戦が終結。
資本主義か社会主義かという大きな対立がなくなって、これからはリベラルな民主主義をベースにした資本主義体制しかありえない、これでもう歴史は終わったという人まで現れた。

ポストモダンの共産主義

ポストモダンの共産主義

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ところが2001年の9.11テロで自由の国だったはずのアメリカは監視社会となり、リベラルな民主主義は崩壊。
さらには2008年の世界金融危機でグローバルな資本主義もダメになり、大損した銀行や証券会社を税金で救済しようっていうんだから、さあ大変。そういうのは自己責任で放っておくのが、資本主義のお約束じゃなかったっけ。
というわけで、資本主義は笑劇的な失敗を繰り返している、いまこそ共産主義の出番だぜ、と鼻息荒いのがスラヴォイ・ジジェクっていうスロヴェニア(旧ユーゴスラビア)出身のオジサン。「資本主義、お前は既に死んでいる!」って感じの皮肉たっぷりなツッコミは結構面白い。

ではジジェクさん。アンタのおっしゃるコミュニズムって、どんな社会なんだろう。
税金は高いの?
失業や貧困はないの?
思想言論の自由はあるの?
エネルギー効率はどうなの?
な〜んにも答えていない。問題提起としてはいいんだけど、解答からは逃げている。

そりゃあ、確かに資本主義は完全な制度ではない。
景気が悪くなれば失業者が出るし、経済はグローバルだと言いながら自国の産業は保護する。資本主義には矛盾がいっぱい。
でも、そんなことキョーサン主義者に指摘されなくたって判る。

コミュニズム思想だって、資本主義経済における商品だと思うわけ。
ジジェクさん、アンタの本って結構売れてるんでしょ、資本主義のおかげで。
リベラルな資本主義社会では、どんなに体制批判的なことを言ったり書いたりしても、収容所へ引っ張られる心配はないから安心だよね。

私だって、リベラルな資本主義が人類を幸福にする唯一絶対の解答だとは思わないし、資本主義に代わるユートピアを妄想するのは好きですけどね。

(8月22日読了)★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
あかきゆめみし
マルクスさんではありません
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 19:05| Comment(8) | TrackBack(0) | 社会・思想交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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