2010年11月29日

クルマが生んだ近代建築

「住宅は住むための機械である」と言ったのは、近代建築の祖ル・コルビュジェ。
そのせいで「人間を牢屋のような味気ない住宅に閉じ込める無慈悲な合理主義者」だとの先入観を持ってしまったのですが、彼の作品を(写真や映像で)見て印象は変わりました。その意味するところは「住宅は、住む人にとって使いやすい機械のようであるべき」なのだと私は解釈しています。
また、彼の構想した「300万人のための現代都市」は、当時の過密で不衛生な都市を否定し、建築物を高層化して生まれたオープンスペースを緑地とするもので、自然との共生を視野に入れていたのだと感じました。

ル・コルビュジエの愛したクルマ

ル・コルビュジエの愛したクルマ

価格:1,680円(税込、送料別)



コルビュジェの生涯や作品を紹介した書物は数多くありますが、本書は「コルビュジェとクルマ」という異色の一冊。
ル・コルビュジェことシャルル=エドワール・ジャンヌレが生まれたのは、1887年。カール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーが内燃機関自動車を発明した直後でした。機械が世の中を大きく変えていく時代に生まれ育ったコルビュジェは、自動車を建築や都市計画に取り入れた最初の建築家だったようです。

無秩序なクルマの流入が都市を殺したと考えたコルビュジェは、コンパクトなボディサイズに最大限の室内空間を確保したマキシマムカーを考案しました。
当時の自動車はボディとシャーシが別構造でしたが、マキシマムカーは軽量化に優れたモノコック(一体構造)を採用。1920年代に現代の小型車に通じる設計思想を持っていたのです。

本書はコルビュジェをめぐるクルマばかりでなく、サヴォア邸やユニテ・ダビタシオンなど、彼の建築作品もカラー写真で多数紹介されています。
コルビュジェを知らないクルマ好きにとってのコルビュジェ入門書であるとともに、建築好きにとっては彼の新たな一面を知る一冊となることでしょう。

(11月22日読了)★★★


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2010年11月23日

土の中の祈り

11月15日、福井市文化財保護センターの平成22年度企画展「土の中の祈り」(10月30日〜11月21日)を見て参りましたので、ご報告。
福井市内で発掘された遺物から、祭祀にまつわるものを展示しています。

【高柳遺跡】
土偶(縄文時代晩期)
破砕鏡・弓・鍬(古墳時代前期)
人形(平安時代初頭)
墨書土器(平安時代前期)
素朴な造形が好ましい縄文時代の土偶と、患部を欠損させて病気の治癒を願った人形(ひとがた)が、全ての展示のなかで最もインパクトありました。

【河合寄安遺跡】
墨書土器・ミニチュア土器(古墳時代中期)
実用品ではなく、祭祀のために作ったミニチュア土器がユニーク。まるでままごとセットみたい。古墳時代中期の墨書土器は全国初で、福井県内では最古。

【伝田谷寺跡】
埋納銭(室町時代後期)
田谷寺は、現在の大安禅寺の前身となった寺。11万6千枚もの埋納銭の大部分は支那の北宋銭だが、国産の皇朝十二銭もあり。97枚をひと括りで100文として扱われた模様。中世の寺院は貸金業も営んでいたので、呪術的な意味合いではなく、単なる備蓄銭だったのかも。

【福井城跡】
舟形木製品(江戸時代初頭)
墨書カワラケ(江戸時代前期)
能「高砂」のカワラケ(江戸時代後期)
徳川親藩・松平氏の居城だった福井城。当時の武家の生活がわかります。

次の企画展は、平成22年度発掘速報展(平成23年2月26日〜3月20日)。

【不純文学交遊録・過去記事】
大陸をみつめた王たち
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 01:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 書を捨てて街へ出る会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月22日

前代未聞の誘拐事件



奇想に富んだ(トンデモな)ミステリとの出会いを追い求める、不純文學交遊録。今回の交遊は誘拐モノです。
身代金目的の誘拐事件が発生し、ターゲットとされたのは新聞社。全く無関係な人質を救うために新聞社は身代金を支払うのか…

リスの窒息

リスの窒息

価格:1,680円(税込、送料別)



全国紙「秋津新聞」の読者投稿コーナーに届いた、一通の不審なメール。
タイトルは「身代金要求の件」。中学生を誘拐した、身代金は3,000万円、警察へ通報したら殺す…さらに添付ファイルには、手足を縛られた制服姿の少女と、彼女のものと思われる学生証の写真が。

犯人はなぜ被害者の家族ではなく、新聞社に脅迫状を寄越したのか。実は秋津新聞社には、報道によって自殺者を出した忌まわしい過去がありました。しかも犯人はご丁寧に「秋津新聞」の天敵である「週刊道標」にも同じメールを送り付けていたのです。
誘拐犯との遣り取りは、逐一「週刊道標」編集部に転送されています。人質に何かがあっては、再び「週刊道標」からのネガティブキャンペーンに晒されるでしょう。社会正義か企業の存続か…秋津新聞社の面々は苦しい選択を迫られます。

秋津新聞社に身代金を要求したのは、人質となった女子中学生自身(ネタバレではありません、最初から明かされています)。
こんな稚拙なやり方では狂言誘拐ってバレバレだろう…と思った手口が、かえって企業の論理にどっぷりと浸かった大人たちを翻弄してしまうのが、本作の読みどころ。いくらイマドキの中学生でも、ここまで悪辣な発想をするのかというツッコミは措くとして。
本作は『小説トリッパー』連載の単行本化で、あろうことか版元は朝日新聞社。作者の石持浅海は一部でエロミスの名手として名高く、本作でも小説トリッパーならぬ小説ストリッパーぶりを如何なく発揮しています(笑)

(11月15日読了)★★★★
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月03日

書き上手は読み上手



出版界最高の賞金額(2,000万円)で知られるポプラ社小説大賞に、齋藤智裕の『KAGEROU』が選ばれました。
ポプラ社小説大賞
受賞者は水嶋ヒロの名で俳優として活躍中ですが、作家への転向を宣言。有言実行したわけですね(水嶋さんの出演作は見たことがありません。スミマセン…)。
世の中には、作家を目指す人のための指南書が数多くあります。作家になるための読書ガイドは、作家志望者でなくても、面白い本を探すのに役立つと思って読みました。

読まずに小説書けますか

読まずに小説書けますか

価格:1,260円(税込、送料別)



本を読まなくても小説は書けますが(実際に、本を読んでいない作家もいる?)、良く読む者が良く書くが文芸の基本。かといって読んでばかりいたら、書く時間がなくなってしまいます。
そこで書きたい小説のジャンルごとに必読書を紹介するのが、本の雑誌『ダ・ヴィンチ』の辛口批評でおなじみ岡野宏文と豊崎由美のコンビ。

ファンタジー小説を書くなら『ハリー・ポッター』に学べと言いながら、ハリポタをベタ褒めするわけではなく(むしろ苦言が多い)、さらに関連する他の作品も紹介することで、ファンタジー小説の「型」が浮き彫りとなります。
二人の対話は「私たちは、こんなにいっぱい本を読んでるんだよ」って自慢話のようで鼻につく部分もありますが、これから読むための参考になりました。小説を巧く書くためのツボは、読む側が楽しむツボでもあるわけですね。

巻末には、膨大な読書日記で知られる桜庭一樹を迎えての鼎談。完成品としての本を批評する評論家と、今まさに書いている仕事場の感覚で作品の選評をする作家とでは、書評の視点が違うのが印象的でした。
わが『不純文學交遊録』は、読む量は少ないけれど、読むジャンルの支離滅裂さでは他に類を見ないと思っていますが、どうでしょう?(笑)

(11月3日読了)★★★

【不純文學交遊録・過去記事】
読書クラブに入りませんか
ハリー・ポッター、最後の戦い(下)
ハリー・ポッター、最後の戦い(上)
半純血のプリンスとは…(下)
半純血のプリンスとは…(上)
今さらですが…
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 22:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月01日

ビッグバンで宇宙は生まれない?



宇宙は百数十億年前に起こった大爆発「ビッグバン」から始まった…これが一般に広く知られている宇宙の起源です。
宇宙のもとになったのは、あらゆる物質を超高密度で閉じ込めた微小な点だったといいます。それは物理法則が破綻した極限状態=特異点であり、ビッグバン理論では物理学を超越した「神の領域」が存在することを認めざるを得ません。

インフレーション宇宙論

インフレーション宇宙論

価格:840円(税込、送料別)



ビッグバン理論だけでは説明できない宇宙創生の神秘を、物理の法則で解き明かすのがインフレーション理論です。
ビッグバン理論では、初期の宇宙がなぜ火の玉になったのか、どうやって星や銀河を生み出す密度の濃淡が生じたのかなどを説明できませんでした。
インフレーション理論は、宇宙が誕生した10のマイナス36乗秒後に、急激に加速度的な膨張が始まったとします。そのときに発生した膨大な潜熱が、宇宙を火の玉にしたというのです。

宇宙論の世界標準となったインフレーション理論の提唱者の一人が、著者の佐藤勝彦です。私が小学生の頃に読んだ科学雑誌では、気鋭の若手研究者として紹介されていましたが、時が経つのは早いもので2009年に東京大学を停年退官されました。
本書では、インフレーション理論から導き出される1000億年後の宇宙像や、宇宙は多数存在するというマルチバース、超ひも理論、さらには宇宙の人間原理についても述べています。

超ひも理論には、10次元とか11次元の時空が出てきますが、それは数学的に都合がいいから仮定しているのであって、実体はどうなのか全く分からなくても問題はないそうです。
本書には、数式はほとんど出てきません。理系読者には易し過ぎて物足りないでしょうが、素人が秋の夜長に宇宙への想像を膨らませるには、丁度いいと思います。

(10月31日読了)★★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
5次元は、どこにある?
やっぱり宇宙は面白い
2005年は、宇宙の年!
はじまりの物語
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 20:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 自然科学交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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