2011年05月16日

原子力に未来はあるか

5月6日、菅直人総理大臣は中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の運転停止を要請し、14日には全ての原子炉が運転を停止しました。東海地震の予想震源域に立地し、活断層に囲まれていることから「世界一危険な原発」と揶揄する声もあった浜岡原発を止めたのは、菅総理の「英断」といえるでしょう。
福島第一原子力発電所の事故は津波による電源喪失が原因であり、原子炉自体は地震の揺れに耐えたとして、菅総理の要請に疑問を呈する声があります。しかし実際には、津波が到達する前に地震で損傷していたことが明らかになってきました。
先ほど菅総理の「英断」と書きましたが、唐突さは否めません。果たして総理に原発を止めた後の見通しはあるのか、甚だ心配です。ポスト・フクシマのエネルギー戦略を示すことが、政治の最大の責任であると思います。
また浜岡原発5号機は、外部冷却装置が故障しても原子炉自体が冷却を行う第3世代原子炉(ABWR)です。浜岡5号機がダメなら、日本にある原発のほとんど(第2世代原子炉)が危険ではないでしょうか。5号機は止めなくても良かったのでは。

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ポスト・フクシマの日本のエネルギー戦略はどうあるべきか。
そのものズバリなタイトルの本があったので読んでみました。

まず、石油はなくなりません。使われなくなるだけです。エネルギーの主役が石炭から石油に代わったのは、枯渇したからではなく、それまで使い道のなかった石油を使えるようにする技術が生まれたからでした(ただし石炭は今でも現役であり、息の長いエネルギーです)。
石油はあと30年でなくなると、30年以上前から言われ続けてきたのに一向になくならないのは、確認埋蔵量が増えたことに加えて、産油国や石油メジャーが価格を維持するために可採年数をコントロールしてきたからです。埋蔵量が多すぎると原油価格は下がりますし、少なすぎると消費国は石油に代わる資源を模索し始めます。2008年の原油価格高騰は、消費国の石油離れを加速させました。

化石燃料がなくなることはありませんが、地球温暖化問題もあってシェアは低下します。風力や太陽光などの再生可能エネルギーは、補完的なエネルギーに留まりそうです。また燃料電池は、天然ガスや電気から生産された水素を利用する技術であって、資源問題の解決にはなりません。そうなると次代を担うエネルギーは、原子力ということになります。
20世紀を大きく変えた石油文明を生み出したのは、19世紀に開発された科学技術でした。すると21世紀を変えるのは、20世紀に生まれた量子力学や相対性理論です。相対性理論から生まれた原子力は軍事面では世界を一変させましたが、原子力発電の他には医療分野で用いられるくらいで、日常生活を大きく変えるには至っていません。つまり原子力エネルギーによる本当の革命はこれからだというのです。
ドイツは再生可能エネルギーの利用率が高い国ですが、不足する電力は隣国フランスから購入しています。そしてフランスの電力は8割が原子力です。

当分の間は石油が枯渇する心配はなく、極端な原油価格の高騰もないのなら、なにも原子力にシフトせずとも石油をクリーンに使い続ける選択肢もありではないかと思いました。ただ、日本の石油需要は政情不安定な中東に依存し過ぎているので、石油よりも埋蔵量が豊富で地理的な偏在もなく、CO2排出量の少ない天然ガスにシフトするのが良いかと思います。
それでも私は、原子力というオプションは放棄すべきでないと考えます。研究を続けていれば現在よりも安全で低コストな原子炉が実現するかもしれませんし、たとえ国内の原発がゼロになっても技術を海外へ輸出することが出来ます。40年以上経過した原子炉は順次運転を停止し、その間に第4世代原子炉であるトリウム溶融塩炉の開発を進めてはどうでしょう。

本書の発行は2010年2月。今年3月の東北地方太平洋沖地震で起きた福島第一原発の事故は未だ収束には至らず、原子力をめぐる状況は一変しましたが、エネルギー問題の全体像を俯瞰するのに役立つ一冊です。
個々のエネルギーの技術的な評価のみならず、人類がエネルギーを使う仕組みを作る人々(石油メジャー・核不拡散体制・気候変動に関する政府間パネル)の存在についても一章を割いています。また地球温暖化には異論があること、京都議定書には問題点が多いことも指摘しており、バランスの取れた本であると好印象をもちました。本書を読んでから再生可能エネルギーや次世代の原子力発電など、個々のエネルギーについて調べると良いでしょう。
近ごろ話題のトリウム溶融塩炉は、本書でも有望視されています。

(5月1日読了)★★★★★


ラベル:エネルギー
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 22:16| Comment(16) | TrackBack(0) | 科学技術交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月04日

日本に平野はなかった

3月11日に起きた東方地方太平洋沖地震を受けて、この国のインフラやエネルギー政策はどうあるべきか、今年は国土観というテーマを掲げて書物と交遊したいと思っています。
国土というと、なんだか国家主義的で嫌だと感じる方は、日本列島と言い換えても良いでしょう。そう、日本列島のグランドデザインです。

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蹴裂(けさき)という見慣れない言葉に出会いました。
版元は建築・土木関連の書籍で知られる鹿島出版会。その名から察せられる通り、大手ゼネコン鹿島建設の関連会社です。土木工学と民俗学という異色のコラボレーション。

日本は、国土の約7割が山です。より細かく見ると、平地と水面と山地の比率(本書は国土のスリーサイズと呼ぶ)が「26:4:70」で、日本は水の豊かな国であることがわかります。さらに古代の日本は平地:水面:山地が「5:25:70」で、平地がほとんどなかったというのです。
氷河時代の地球は、気候が乾燥していました。一万数千年前に地球が温暖化すると、海面が上昇するとともに、雨が多く降るようになります。日本の平地は、かつて湖沼地帯でした。
激しい雨は山崩れや土砂崩れを引き起こし、水面を埋め立てて、現在見られる沖積平野となったのです。梅雨・豪雪・地震・津波・火山の噴火など、日本の国土は天災が生んだともいえます。

日本の湖沼を平野に変えたのは、自然現象ばかりではありません。蹴裂伝説とは、クマやカニやネズミといった野生の動物、ヤマトタケルのような神話の英雄が、山や岩場を蹴り裂いて水を流し、湖沼を平地に変えたという国土創成の物語です。
蹴裂伝説は、単に過去の天災を象徴的に語り継いだだけかもしれませんが、実際に古代の人々が行った土木工事だったとも考えられます。日本の平地が湖沼地だったのは遠い地質時代の出来事ではなく、蹴裂伝説は歴史上の事件だったのです。
日本列島の地質的な成り立ちばかりでなく、古代国家の成立過程をも解き明かそうという、学問の枠を超えた壮大な試み。発想が飛躍し過ぎでは、と感じられる記述も多々ありますが、文系読者も理系読者も楽しめる掘り出し物の一冊ではないでしょうか。

(4月29日読了)★★★★★
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 17:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 科学技術交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月03日

うげらぽん!

これまでメフィスト賞作家を追いかけてきましたが、失礼ながら生理的に受け付けない作風の作家さんもいらっしゃいます。
例えば、やたらとルビを振った文章が目障りで、とても読むに堪えないのが古野まほろ。女子バレー部と書いて「じょしばれ」と読ませる「厨2」なセンスも、ちょっと…

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しかし、これなら読めそう。
「雪の山荘、謎めいた招待状、犯行予告、密室、ダイイング・メッセージ、名探偵など、本格ミステリのあらゆるガジェットを駆使」したという新作『群衆リドル』。出版社のキャッチコピーを読む限り、正統派のミステリではありませんか。

浪人生・渡辺夕佳のもとに、大日本帝国政府の迎賓館「夢路邸」で催される祝宴の招待状が届きます。差出人は外務省大臣官房儀典長の鳳林寿太郎。夢路邸の所有者でもあります。
祝宴に招待されたのは大学病院の医師に、その教え子である研究者、新聞社の科学論説委員、元警察官の探偵、消費者金融の支店長、そして京都の女子高校生。面識のある者同士もいますが、見事にバラバラの顔ぶれ。しかも彼らに送られた招待状は、すべて差出人が異なっていました。夕佳の招待主である鳳林もまた、外務省の部下によって招待された宴客のひとりに過ぎなかったのです。
探偵役は夕佳の先輩で、天才ピアニストの八重洲家康(これまた大層なお名前)。吹雪のなか、陸の孤島と化した迎賓館で起こるマザーグースに見立てた連続殺人。全く無関係に思われた被害者たちを、ひとつに結ぶものは何なのか。

副題は「Yの悲劇’93」となっていますが、エラリー・クイーンの作品を読んでいる必要はありません。
密室殺人のトリックや、登場人物をひとつに結ぶ事件は、かなりトンデモ。それでも普通に読めて普通に楽しめる作品ではないかと思います。
普通に読めるとは言っても、そこは古野先生。意味不明なセリフ多し。「うげらぽん」ってなに…(笑)

(4月18日読了)★★★★
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 14:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月02日

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり…

NHK大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』は、上野樹里演じる江が本能寺の変の真相を明智光秀に問い質したり、織田信長の幽霊が現れたりと、かなりトンデモな設定が話題だそうです。
気が早いですが、来年の大河ドラマは『平清盛』(主演:松山ケンイチ)に決定しています。

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祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響あり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰のことはりをあらはす
おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし
たけき者も遂にはほろびぬ 偏に風の前の塵に同じ

有名な『平家物語』に書かれたように、武家として初めて太政大臣となり位人臣を極めた平清盛には、悪人とのイメージが定着しています。
後白河法皇を幽閉し、東大寺大仏を焼き払い、禿(かむろ)と呼ばれる少年スパイを都に放って政権批判を抑え込むなど、数々の悪行の報いで熱病(マラリア?)に倒れたとされる清盛。その4年後、栄華を誇った平氏一門は壇の浦で滅亡しました。
権力におごる暴君・清盛に対し、長男の重盛は『平家物語』で父を諌める賢人の役割を演じています。しかし実際には、重盛も結構あくどい事をやったようです(殿下乗合事件)。また「平家にあらずんば人にあらず」(此一門にあらざらむ人は皆人非人なるべし)と豪語したのは清盛ではなく、妻の時子の弟である平時忠でした。

歴史の常識を疑うのが好きな私は、平清盛をはじめ蘇我馬子・明智光秀・田沼意次など世間一般で悪役とされている人物に好意を抱くようになりました。
清盛は貿易によって国を富ませるヴィジョンを描き、交易の要衝である大輪田泊(現在の神戸市)を改修しました。その際、人柱を立てるべきとの公家の意見を退け、石に経文を書いて埋めたというエピソードが残されています。平安京という狭い世界で迷信に囚われて生きてきた摂関貴族にはない、先見性と開明性を持った政治家といえましょう。

(4月17日読了)★★★★
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 00:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史・民俗交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月01日

クルマがわかれば世界がわかる

管理人の座右の銘(のひとつ)は「クルマがわかれば世界がわかる」であります。
クルマとは、単なる移動の手段や趣味の一ジャンルに留まりません。
自動車産業の動向は、世界経済を大きく左右します。文明社会の原動力である自動車は、環境・エネルギー問題とも密接です。
デザインは消費者が自動車を選ぶ際の重要な要素であり、一台のクルマの造形には生産国の歴史や文化が色濃く反映されています。また、F1やWRCなどのモータースポーツには根強い人気があります。
クルマについて知ること考えることは、政治・経済・社会・科学・芸術・スポーツなど幅広い分野の知に目を向けるきっかけとなるのです。

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そんな私の主張に同意するかのような一冊が出ました。
1945年から2010年までの日本の現代史を、毎年3ページずつ、その年を代表するクルマとともに振り返ります。
戦後の復興と高度経済成長とともに発展した日本の自動車産業。70年代にはオイルショックと排気ガス規制という逆風に見舞われるものの、80年代には世界一の自動車生産国となり、性能面でも欧米の名車と渡り合える車種も現れました。バブル崩壊後は合理化と世界的な自動車メーカー再編の嵐が吹き荒れ、21世紀に入った現在、地球環境を考慮した持続可能なモビリティ社会の構築が求められています。

本文は300ページほどですが、当初の原稿は3倍もの分量があったそうです。詳細に論じるクルマが1年に1車種だけでは、ちょっとボリューム不足。特に1989年〜90年は、日本車が世界レベルに到達したエポックメイキングな年ですから、特別扱いしても良かったような…
ちなみに1989年はGT-Rが復活した8代目スカイラインに、デザインの評価が高い4代目フェアレディZ、世界の高級車市場に打って出た初代セルシオとインフィニティQ45、世界で最も売れたスポーツカーとしてギネスブックに認定された初代ロードスター、今日のスバルの礎を築いた初代レガシィなどがデビューしています。
1990年には本格スポーツカーNSX、FF車の走りを極めた初代プリメーラ、革新的なレイアウトのミニバン・初代エスティマが登場しました。日本カー・オブ・ザ・イヤーは初代ディアマンテが受賞、税制改正によって3ナンバー車が普及したのもこの年でした。
クルマの資料としては物足りませんが、戦後日本の事件や世相・流行を振り返るのには便利な一冊です。

(3月21日読了)★★★
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 00:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・思想交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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