2012年08月27日

ものを書くということ

8月26日、福井県立図書館で作家・雀野日名子氏の講演会「ものを書くということ―私と福井」を拝聴しました。 
幽怪談文学賞短編部門大賞および日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した雀野さんは、福井市出身。私の高校の先輩でもあります。



早く親元を離れたかったという雀野さん。大阪の大学に進学しましたが、卒業後は家庭の事情で実家に戻りました。仕方なく福井に戻った雀野さんは、書店と図書館に足繁く通うようになります。本は読む者を拒まず、時代と場所を超えて友達になってくれます。それまでの雀野さんは、受験の参考書以外、あまり本を読まなかったそうです。
塞ぎ込みがちだった雀野さんは、母親から「あなたは本が好きだから」と、気分転換に文章教室へ通うことを勧められました。コンテストに入選するうち、雀野さんに物書きになりたいという夢が芽生えてきました。家族には内緒で新人賞に応募し始めたのですが、父親にばれた時は「作家なんかで親を養っていけるのか」と怒鳴られ、一晩中殴られたと言います。
二次選考、そして最終選考までは進むものの、雀野さんに受賞の知らせは訪れませんでした。その間、洋画の翻訳ノベライズやゴーストライターの仕事をしていたそうです。
転機は、福井城址のお堀端を歩いていた時のこと。アメリカ人らしき外国人が、堀にガムを吐き捨てました。福井城址の堀は、昭和20年の米軍による空襲で、炎から逃れようと飛び込んだ市民が数多く犠牲になった場所。母親から戦災の悲劇を聞かされて育った雀野さんは、福井市民にとって特別な場所が汚されたことで、薄れていた郷里への思いが甦ったのです。
そこで福井に題材を採った作品で新人賞に応募したところ、それまで落選続きだったのが嘘のように、一発で受賞。小説家としてのスタートを切りました。

講演が予定の時間よりも早く終わったので、質問に答えてくださいました。
Q.雀野さんといえば怪談作家ですが、〇〇作家と呼ばれることは、作家にとってプラスですかマイナスですか?
A.怪談・ホラーのつもりで書いたわけではない作品を、これって怪談だよねとか、ホラーなのに怖くないねとか言われるのは困るかな。
Q.ペンネームの由来はなんですか?
A.当時は勝ち組・負け組なんていう言葉が流行っていたが、弱ったスズメの雛が頑張って生きている姿に共感して。
Q.『トンコ』でブタを主人公にした理由は?
A.料理を作ろうと冷蔵庫から豚肉を取り出したとき、肉の模様がみな同じで、これって一頭のブタだったんだなと思ったのがきっかけ。人間社会を擬豚化した作品だと言った書評家もいるが、そんな高尚な理由はない。
Q.これから獲りたい文学賞はありますか?
A.そんなことを言える立場ではありません。作品で福井のイメージを悪くしてしまったので「福井の足を引っ張ったで賞」なら貰えるかも。
Q.『山本くんの怪難』が面白かった。続編の予定はありますか?
A.3.11前に書いたのですが「福井に新幹線を誘致しないと、原発を停めるぞ」なんていう話ですから、問題があり過ぎてもう書けません。
Q.雀野さんと同じ高校の出身です。学園ものを書くつもりはありますか?
A.高校にも学校の七不思議って、あるのかな。あったら教えて欲しい。

今回の講演会の予習として読んだのが、第15回日本ホラー小説大賞短編賞作『トンコ』(角川ホラー文庫)。終始、高速道路で横転事故を起こしたトラックから、逃走したブタの視点で描かれる物語です。これがホラー?どこが怖いの?と突っ込みを入れる方も多かろう作品ですが、このなんとも奇妙な世界「感」は唯一無二でしょう。
よりホラーらしいのは、同時収録の『ぞんび団地』と『黙契』ですが、どちらも怖さよりは哀しさが強く残る作品です。ただ、グロテスクな描写が多いので、私のように活字が脳内で映像に変換されてしまう方は、ご注意ください。

地元の伝説や怪談を作品のモチーフに採り入れている一方で、学生時代はとにかく福井から出たかったと語る雀野さん。実は福井の県民性とか地域社会のしがらみといったものが、お嫌いな印象を受けました。



posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 01:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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