2006年07月17日

生命の神秘

1994年、タイトルなし、横書き、写真入りという不思議な作品が芥川賞候補となりました。『平成3年5月2日,後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士,並びに,』です(『平成3年…』はタイトルではなく、実は作品冒頭の一文であります)。
内容はAIDSについてではなく、北海道に棲むハネネズミという架空の生物の研究者たちの物語なのですが、研究レポートのような体裁で、不思議なリアリティがありました。
作者・石黒達昌は、ガン研究に取り組む現役の医師でもあります。

冬至草



石黒 達昌著



本書には、医学や生命に題材を採った6篇が収められています。

『希望ホヤ』
弁護士のダンは、娘のリンダが神経芽細胞腫という難病に冒され、余命いくばくもないことを知らされました。
リンダは、絵本で読んだ「希望の浜」へ行きたいと言い出ます。希望の浜のレストランには「希望ホヤ」という不思議なメニューがあり、ダンはこの生物に娘の命を救うヒントがあると直感します…

『冬至草』
放射能を帯びた新種の植物・冬至草。しかも人間の血を養分として発光するという、異様な生態が明らかに…

『月の…』
天体望遠鏡で月を見ていた「私」は、落雷のような閃光を感じ、以来、右手の上に月が見えるようになりました。
夜空の月は「私」の目には見えず、そのかわり誰にも見えない右手の月があります。「私」は、おかしくなってしまったのか…

『デ・ムーア事件』
「火の玉を見た」と訴える患者が、ほどなくガンで亡くなるという不思議な症例。
その背後には、ジェーン・デ・ムーアという名の技師が実験室で生み出したウイルスが関与しているらしい…

『目をとじるまでの短い間』
終末医療の現場を描いた、石黒達昌3度目の芥川賞候補作。

『アブサルティに関する評伝』
科学論文捏造問題をテーマにした作品。

いずれも不思議な架空の生物が登場したり、医療の現場が舞台になっていたりと、理科系テイストに溢れています。
私のお気に入りは『希望ホヤ』と『デ・ムーア事件』です。

(7月17日読了)


posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 18:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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