2007年02月10日

アニミズム革命

メデューサメドゥーサ)といえば、髪の毛は蛇で、その姿を見た者は石になるという、恐ろしい女の怪物です。
ところが本来、メデューサは豊穣をもたらす大地の女神であって、キリスト教の普及とともに禍々しい怪物の地位に貶められてしまったのだそうです。
随分昔の話ですが、TBSテレビの『日曜特集・新世界紀行』で、このような内容の番組が放送されました。番組終了時のテロップでネタ本として紹介されていたのが、安田喜憲氏の『大地母神の時代』で、この本によって環境考古学という学問の存在を知りました。
環境考古学とは、遺跡から発掘される植物の花粉を分析し、当時の自然環境を再現する学問です。その結果、気候変動や環境破壊と古代文明の盛衰の関連が明らかになってきました。
安田氏は環境考古学のパイオニアであり、自然と文明が共存するためにアニミズムの復権を主張しています。


一神教の闇



安田 喜憲著



自然そのものを神として崇めるアニミズムは、山・川・動植物など、ありとあらゆる事物に神が宿ると考える多神教です。
ユダヤ教キリスト教イスラム教は、唯一絶対の神を戴く一神教です。一神教が生まれたのは、厳しい砂漠の環境でした。自然は、人間が支配し生活に役立てるために、神が創り賜いし物だと考えます。
一神教的世界観は、文明を発展させ科学技術の進歩をもたらしました。しかし、自然は征服されるべきものとの思考は、環境破壊・資源の枯渇を招いています。また、他の宗教に対する非寛容さは、戦争の原因ともなります。

あらゆる宗教を否定した共産主義もまた、一党独裁を是とする一神教的世界観の産物です。著しい経済成長を続ける中国の地球環境への影響に、安田氏は随所で強い懸念を表明しています。一方で、中国にはまだアニミズムの精神が生き残っていると、期待もしています。その象徴がドラゴン)の信仰です。
なお安田氏は本書で中国を「わけなし」の国と呼び、「日本は憲法を改正し、中国や韓国からの不当な内政干渉があった時は、日米同盟を基軸として、断固としてはねのけるべし…」と書いています。

人類の二大脅威である環境問題と国際紛争を克服するには、一神教的世界観を見直し、かつて人類が普遍的に持っていたアニミズム的世界観を取り戻さねばなりません。
ただ、こうした主張は“ベタな西洋近代文明批判”と受け取られる危惧があります。
実際に安田氏は「二項対立論者だ、西洋文明との対決を言っている」と批判されたり、「西洋ではアニミズムとは野蛮な概念である、別の用語にしてはどうか」とありがたい忠告を受けたこともあるそうです。
この本の文章には、攻撃的な感じが否めなかったことを記しておきます。

「あなたの信教は何か?」と問われたなら、私はアニミズムだと答えます。
アニミズムの復権を唱える安田氏とは、共感できる部分が多くあります。
ただし、アニミズムの復権と言っても、人間中心主義自然中心主義を置き換えただけでは、佐倉統氏が指摘するように「自然VS人間」の二項対立の構図を裏返したに過ぎません(現代思想としての環境問題)。
環境問題とは、人間が今後も文明を享受したいがゆえに生じる問題です。文明を放棄すれば良いとか、地球の敵である人間は滅びてしまえば良いと言うのなら、そもそも環境問題は存在しません。
環境問題は、人間中心主義でしか有り得ないのです。
しかしこれからは、人間も自然界の生物の一員に過ぎないことを自覚した“謙虚な人間中心主義”です。
私たちが生きている限り、環境問題は「解消」しません。「緩衝」するしかないのです。

(2月8日読了)


posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 01:50| Comment(16) | TrackBack(1) | 歴史・民俗交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
実は私も宗教は?と聞かれたとき「アニミズムが好き」と答えています。自然のスピリットを大切に思っているのだと言うことなんですけど、西洋人は「ああ、ギリシャ風ね」と反応するし、今いるインドネシアでは「バリ島の宗教と一緒?」と言われます。
今ではあんまり不信感を抱かれません。
アニミズムが復権するといいですね。
Posted by mika at 2007年02月10日 14:58
mika様、いらっしゃいませ。

私は自然の存在そのものに、人知を超えた畏敬の念を感じます。
人間は宇宙の物質から生まれ、あらゆる生命体と遺伝子を共有しています。
そして、この世界は「熱」で出来ていると思います。
(宇宙は灼熱のビッグバンから誕生し、今も膨張をし続けています。宇宙全体が絶対零度の均衡に冷えきったときが「世界の終わり」でしょう)
私の場合、無知ゆえに自然に畏れを抱く古代人とは違い、科学にも基いたアニミズムです。
私は自称リバタリアンなので、既存のあらゆる宗教に与しません。
もちろん教祖は私、信者も私一人です(笑)

アニミズムは、他の宗教の存在に対しても寛容です。
一神教を否定したり、東洋VS西洋の文明の衝突を煽ることなく、世界中で宗教の共存が実現するといいですね。
Posted by 管理人 at 2007年02月11日 10:18
はじめまして。
私のブログへもお越しいただき有り難うございます。
いつも、興味津々でお邪魔するのですが、実は私の環境では文字同士が重なり合い、何が書かれているのか拝読出来ません。
他にもそういう方がいらっしゃるのではと、僭越ながら思い切ってコメントしてみました。
古い記事は、正常に拝読出来るのですが。

今後とも宜しくお願いします。
Posted by テイト at 2007年02月20日 10:33
テイト様、いらっしゃいませ。

現在のデザインは「Win+I.E.」以外の環境では、正常に表示されないようですね。
以前のデザインに戻してみます。
ご指摘ありがとうございました。
Posted by 管理人 at 2007年02月20日 12:53
こんにちは。

わがまま申しましてすみません。
でも、拝読出来るようになり、嬉しく存じます。
有り難うございました。
Posted by テイト at 2007年02月21日 17:16
テイト様

ご迷惑をおかけしました。
3カラムにカスタマイズしていたのですが、正常に表示されない環境もあるようで…
またいろいろと研究してみます。
今後もご意見がございましたら、お気軽にお寄せください。
Posted by 管理人 at 2007年02月21日 22:40
月刊誌『諸君』の最新号に安田先生と心理学者(インチキ?)の岸田秀とあともう一人の先生との鼎談が掲載されています。

内容は環境問題と宗教です。環境問題は、宗教学や歴史学の視点で分析する方が理解しやすいのではないでしょうか?

「地球温暖化・対策」も、ガイア論の延長で考えると納得です。地球や自然を知性ある生命体や神として考えるとか、『ゲド戦記』かな?
「水に感情があるブーム」もアニミズムの流れと考えれば納得です。アニミズムは科学の仮面を被って復活しているのです。スバラシイ!!
Posted by おおくぼ at 2007年06月10日 22:38
おおくぼ様

アニミズム的思考は、自然に畏敬の念を感じるとか人間以外のすべての生命を尊厳するとかの宗教的・倫理的面だけでなく、自然エネルギーの活用や生物体の構造に学んだ科学技術(バイオミミクリー)といった、サイエンスの新しいフロンティアを拓く視点として有効だと思います。

リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』なる用語が一般に浸透したのも、遺伝子には自らの複製を生み出そうとする「意思」があるかのように解釈する、アニミズム的な心性が背景にあるのかもしれませんね。ドーキンス自身は徹底した無神論者ですが。
「水に感情があるブーム」とは初めて目にした言葉です。そんなものがあるんですね。
「ナントカ還元水」はアニミズムの流れではなく、不正な金の流れです(笑)
Posted by 管理人 at 2007年06月11日 00:03
「水に感情がある」ブームは江本勝のベスト・セラーから来ています。「と学会」でもとり上げられました。ちなみに江本さんの本は英訳版も売れています。まさに国際的なブームです。


有名な自然科学者でも信仰に篤い人は多いですね。アメリカは特に。
Posted by おおくぼ at 2007年06月11日 01:56
おおくぼ様

水に声をかけたり文字を見せたり音楽を聞かせたりすると、結晶が変わるんですか…(絶句)
水に「江本勝」という文字を見せたらどうなるんでしょう。水を愛する人だから美しい結晶ができるのか、それとも疑似科学で世を惑わせる罪で乱れた結晶になるのか(笑)

「波動」はアニミズムとはちょっと違う気がします。人類がみな良い思いを念じれば、未来が変わるとか宇宙が浄化されるとかの類ですね。
きれいな言葉を心掛ければ人間関係をスムーズにし、しいては世界平和につながるとか、純粋に道徳として語ればよいものを、波動だとか結晶だとか何でも「科学」に結びつけようとするから無理があるんです。



Posted by 管理人 at 2007年06月11日 19:19
あの〜、江本さんの本は難しく考えずに言うと、「水は動物と同じで感情がある」という主張なんです。

人形に感情があるとか、ロボットに感情があるとか、絵が生きているという主張と同じです。

波動は、感情を表現するための手段にすぎません。心と体は分離しているという説だと思います。だから民俗信仰に近いと思います。

ところでコメントに、リンクを入れるとエラーになるのですが・・・。禁止設定されているのでしょうか?
Posted by おおくぼ at 2007年06月11日 22:21
おおくぼ様

スミマセン…コメント欄は半角英数のみ場合、禁止設定しています。
URLに「%」が入るとダメみたいですね。一時解除します。
スパムコメントがあった場合、また禁止設定するかもしれません。

江本勝氏についてはWikipediaで調べたのですが、ちょっと違うのでしょうか?

世の中でこのようなブームが起きているとは、このたび初めて知りました。
江本氏に心酔している著名人が結構いらっしゃるようですね。

Posted by 管理人 at 2007年06月11日 23:27
>「江本勝氏についてはWikipediaで調べたのですが、ちょっと違うのでしょうか?」

Wikipediaの江本勝氏のページにリンクしてあった菊地氏の<ニセ科学入門」はどうでしょうか?

ところで、私は「と学会」の本は、ほとんど読んでいるので流行に強いです(笑)。最近、日本史版が出ました。必読です(笑)。

心酔していた有名人では、飛び下り事件前の俳優の窪塚さんがそうですね。「仙人になる」みたいなことを言ってたそうです。だから事件も仙人修行の一環だったらしいです。


ところで・・・URLに「%」が入ってないのですが、やはりエラーになります。
Posted by おおくぼ at 2007年06月12日 01:11
おおくぼ様

Wikipediaには江本氏および彼の著作について、水の結晶が「波動」によって変化すると解説されていたもので・・・
もっと突っ込んで調べてみると面白そうです。

と学会には、歴史に強い人がいたりアニメに強い人がいたりと、さまざまな得意ジャンルを持ったトンデモ・ウォッチャーが揃っていますから、と学会年鑑を読んでいると流行に強くなりそうですね(笑)

安田喜憲氏は海外の学会で「アニミズムという語には野蛮で原始的なイメージがあるから、西洋で受け入れられるためには名前を変えたほうがいい。スピリチュアリズムなんてどうか?」と提案されたそうですが、断固拒否したそうです。正解ですね。
スピリチュアリズムというと、心霊現象やチャネリングのイメージが強いですから。
Posted by 管理人 at 2007年06月12日 13:01
同じく、アニミズムの復権を唱えるものです。
自然のあり方に畏敬の念を抱く自然観の重要性を感じつつも、難しい問題もありますね。

>「アニミズムという語には野蛮で原始的なイメージがあるから、西洋で受け入れられるためには名前を変えたほうがいい。スピリチュアリズムなんてどうか?」

言葉の問題もあれば(他の差別や言葉狩り同様、概念自体が残る以上言葉を変えても意味がない)そもそもアニミズムという概念自体が、一神教以外の文明に普遍的に認められるものなのだから、西洋対それ以外、キリスト教対異教、といった不均等な比較を苦々しく思っています。それでも、西洋文明に染まった現代を受け止めた上で自然との関係を模索していくほかないでしょう。
また、安易な文明批判となってしますと、そうした口実ででてくる精神世界やスピリチュアルといった疑似科学がウジャウジャあるので、科学の自然観の中でアニミズムとの癒合が求められると思います。

>これからは、人間も自然界の生物の一員に過ぎないことを自覚した“謙虚な人間中心主義”です。

まさに適切な表現ですね
Posted by volclex at 2007年07月23日 05:59
volclex様、いらっしゃいませ。

アニミズム的思考をいかに西洋近代文明に融合させるか…なかなか難しい課題ですね。

人間を自然界の一員とする世界観、それを「神道」と呼んでも良いのですが、それでは日本のナショナリズムを海外に押し付けるような誤解を与えますし、梅原猛氏の言う「森の思想」では自然界すべてを包括した表現にはなりませんから、やはりアニミズムの語が妥当なのかな…と思います。
しかしアニミズムを安易な文明批判や自然中心主義への転換として唱えることには、ご指摘のように疑似科学やカルト思想と結びつく懸念があります。

かつてその受容をめぐって大論争となった、ダーウィンの進化論(アメリカではまだ論争中ですが…)。今では科学の発展により、人間はサルはおろかアメーバとも同じDNAでつながった生物であることが常識となりました。
サイエンスとアニミズムは融合できると思います。

なお私は、聖書は進化論を否定していないと解釈するトンデモさんです(笑)
神がアダムを土くれから創ったことは、人間がすべての生命と同じ物質から出来ていることの証であり、知恵の実を食べたイヴが産みの苦しみを背負うようになったのは、人間が直立二足歩行と脳の巨大化によって出産の困難を伴ったことを表していると、勝手に解釈しています。

Posted by 管理人 at 2007年07月23日 19:11
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