2007年06月18日

昔、毒ありけり

昔、男ありけり…
この一文から始まる歌物語が『伊勢物語』。
主人公の「男」は、平安時代のちょいワルオヤジ(?)在原業平がモデルとされています。火遊びが過ぎて東国へ追放になったとの逸話があるほどです。
今回は『伊勢物語』にまつわるミステリ小説です。



毒草師



毒草師

東京は隅田川近くの南業平にある旧家、鬼田山(きたやま)家。
鬼田山家の先々代当主・俊春は、この辺りには業平様の怨念が棲みついており、日が暮れると一つ目の鬼が現れる…と言い聞かされて育ちました。
ある日幼い俊春は、夕暮れの川沿いの道で一匹の子山羊と出会います。その子山羊の顔の中央には、大きな目がひとつ。こいつがあの一つ目の鬼なのか…驚いた俊春は、落ちていた棒切れで子山羊を撲殺しました。
成人した俊春は、千葉の豪農の娘・香苗と結婚します。しかし最初に身ごもった子供は死産でした。そして、その子の顔の中央には目がひとつしかなかったのです。
業平様の祟りか…
以後、鬼田山家では「一つ目の鬼を見た」と言い残して、屋敷の離れに内側から鍵をかけて閉じこもる人間が相次ぎます。そして誰もが密室状態の離れから、忽然と姿を消してしまうのでした。まるで『伊勢物語』の「鬼一口」の場面のように…
『伊勢物語』第六段
求愛していた姫君をなんとか連れ出した「男」は、降りしきる雨のなか姫君を荒れ果てた蔵の中に押し入れます。「男」は外で夜明けを待ちますが、蔵の中へ入ってみると姫君の姿はありません。
鬼に一口で食べられてしまった…

鬼田山家の人々はなぜ密室から消えたのか?
そして一つ目の鬼の正体とは?
事件の謎を解くのは『QED』シリーズに登場する無表情な長髪の男、御名形史紋(みなかた・しもん)です。自ら毒草師を名乗るだけに、本作ではある毒物が事件の重要な鍵となります。

この先ネタバレはありません
但し、本作品に対する管理人の個人的な評価を記しています。未読の方はご注意ください。

高田崇史氏の『QED』シリーズをお読みの方には、一つ目の鬼はおなじみですね。古代の製鉄の神です。またか!とお思いの方もいらっしゃるでしょうが、本作では深い言及はありませんのでご安心ください(笑)

高田氏はこれまでの作品で、歴史に秘められた呪術的側面と、歴史の表舞台から消された敗者の真の姿を描き出してきました。本作『毒草師』もこの路線上にありますが、これまでの高田史観をまとめたダイジェスト版という感じです。

終盤はもっと深く(歴史の謎や鬼田山家の闇に)突っ込んで欲しかった気もしますが、ミステリとしては面白い作品です。
高田作品初心者には『QED』よりもこちらがオススメ。これを機にライトユーザー向けに『毒草師』をシリーズ化し、『QED』シリーズはもっとコアな歴史の謎に迫って欲しい。

今後『QED』シリーズは九州の河童伝説を採り上げるようですが、九州まできたら是非とも「天岩戸神話と邪馬台国」に期待したくなります。そして「大化の改新」の真犯人を突き止めて、日本の歴史を「Q.E.D.〜証明終わり」としてもらいたいものです。

(6月17日読了)


posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 18:20| Comment(2) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。初めて書き込みさせていただきます。

高田さんの『QED』シリーズは私も大好きです。
あの本を読むたび、
「自分は歴史の明るい部分しか見ていなかった」
という事を実感します。
とはいえ、自分はあそこまで調べ考える事は不可能(笑
彼の本で勉強したいと思っています。

いい本の紹介、お願いしますね(笑
他力本願ですいません。また、遊びに来ます。
Posted by クロム at 2007年06月19日 21:50
クロム様、いらっしゃいませ。

『QED』シリーズは、歴史と薬とお酒の薀蓄が豊富。
そして歴史のミッシングリンクがパズルのようにはまっていく展開が見事ですね。
高田氏は研究者ではありませんから(薬学部出身)、必ずしも正しい歴史解釈ではないかもしれませんが。

当blogは、歴史ネタになるとコメントが増える傾向にあります。
面白い新説を思いつきましたら是非どうぞ。

Posted by 管理人 at 2007年06月19日 23:37
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