2008年10月20日

教科書は変わる

髪を振り乱し馬に跨った勇猛な足利尊氏像。有名なこの絵のモデルは、近年では尊氏の執事であった高師直だとする説が有力です。
国宝で肖像画の傑作と名高い源頼朝像にも、尊氏の弟・足利直義ではないかとの新説が出されています。
大きく変わりつつある歴史の常識。高校の日本史の参考書が大幅改訂されたことも話題となりました(池田信夫blog 変わる日本史の常識)。

私たちが学んだ日本史で最も大きな見直しが迫られているのは、645年の大化の改新でしょう。
天皇をないがしろにして専横の限りを尽くした逆臣・蘇我入鹿を、中大兄皇子(後の天智天皇)・中臣鎌足(後の藤原鎌足)らが暗殺し、律令国家の基礎を築いたとされる出来事です。
現在では蘇我入鹿暗殺事件を乙巳の変、翌年からの政治改革を大化の改新と呼ぶようになっています。



「大化改新」隠された真相 谷口雅一 著

奈良県明日香村の甘樫丘東麓遺跡は、蘇我入鹿の邸宅跡だと考えられています。
甘樫丘の入鹿邸と蘇我氏の氏寺・飛鳥寺そして蘇我馬子の邸宅は、天皇の宮殿を取り囲むように防衛する要塞だった…最新の発掘成果をもとに大化の改新を捉え直す番組が、NHKスペシャルで放映されました。本書はその書籍化であり、著者は番組のディレクターです。

大化の改新は本当にあったのか、異論は古くから出されていました。
改新の詔には地方行政単位として「郡」という語が出てきます。しかし「郡」が用いられたのは後世の大宝律令以降であり、当時の表記は「評」でした。
日本書紀は漢字で書かれていますが、漢文の原音に忠実な部分と、明らかに原音を知らない者が書いた部分とがあります(森博達氏の説)。
原音と異なる表記の部分は、後世の加筆・潤色による疑いがあり、劇的な入鹿暗殺シーンがまさにそうなのです。
(長槍を構えて待機していた中大兄皇子が、なぜか入鹿に剣で斬りつけています)

「韓人、鞍作臣(入鹿)を殺しつ」(『日本書紀』古人大兄皇子の弁)
韓人とは、韓すなわち百済を支持する人物・中大兄皇子を指すというのが本書の解釈です。
百済は古くから日本の友好国であり、中大兄皇子は滅亡した百済の王子・豊璋を日本に匿い、百済再興を支援するために白村江で唐・新羅連合軍と戦います。
(中大兄皇子が、そこまで百済に肩入れする理由はなに?)
7世紀の大陸には隋・唐という強大な統一王朝が誕生し、朝鮮半島にも圧力を及ぼしていました。緊迫する大陸情勢を探るために蘇我氏政権が送ったのが遣隋使・遣唐使であり、要塞のような飛鳥の都は隋・唐の侵略に備えて築かれたと考えられます。
全方位外交を目指す開明派の蘇我入鹿と、百済との同盟を重視する保守派の中大兄皇子。クーデターの背景には外交政策の違いがあったようです。
(白村江で日本・百済連合軍は大敗。「大化の改新」とは「大過の反動」だった?)

本書の結末では、歴史教育において大化の改新が重要視されてきた理由を推理しています。

(10月20日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
黒幕は誰だ?


posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 16:36| Comment(2) | TrackBack(1) | 歴史・民俗交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
fujunさん、こんにちは。
「絶大な権力を誇った蘇我本家の滅亡」は史実でしょう。問題はこれが「中大兄と鎌足だけのお手柄譚」として創られているところですね。史実は、日本書紀を「ウソかホントか」などという単純な分析からその成立環境の詳細な分析に踏み込むことで見えてくるかと思います(森博達さんは素晴らしいですね)。
「日本紀の局(通)」といわれた紫式部は『源氏物語』蛍の帖で、光源氏をして「日本紀などはただ片そば(端っこ)ぞかし」と言わしめています。「常識」を拠り所として生きている現代人よ、ガンバレ!


Posted by ペンタクロス at 2008年10月22日 11:08
私たち現代人よりも、平安時代の紫式部の方が柔軟な歴史観を持っていたのですね。

『源氏物語』では、臣籍降下した光源氏の不義の子が天皇に即位しています。
現代ではとても書けない、恐ろしい物語です。
Posted by 管理人 at 2008年10月22日 22:40
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『まんが日本史』で勉強する。
Excerpt: 昔、テレビで放映されていた『まんが日本史』。Youtubeでアップされているものをすべて網羅します。
Weblog: 『まんが日本史』で勉強する。
Tracked: 2008-10-21 10:40
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