2009年06月22日

「自然保護」は正しいか

日本で野生のトキは絶滅しましたが、人工繁殖されたトキが佐渡島に放鳥されています。ところが今度は、トキが希少な新種のカエルをエサにしていることが判明しました。人工的に放たれたトキは、佐渡島の生態系のバランスを壊すことになるのかもしれません。

エコカー減税とか、家電のエコポイントとか、エコと名が付けば全て通るような風潮にある昨今。私たちが正しいことだと信じている「自然保護」が本当に良いことなのか、改めて考えてみませんか。



自然はそんなにヤワじゃない
花里孝幸 著

私たちが「保護」しようとする生物は、見た目が綺麗な生物や、食用などの役に立つ生物、クジラのように知能の高い生物に限られます。
人間による開発や乱獲で、数が激減した生物を保護するのは、結構なことでしょう。しかし熱帯林の奥地で発見された新種が絶滅危惧種だった場合、それは人間のせいではなく、現在の地球環境に適応できない生物です。その生物を保護するために、人間が環境に手を加えることは、かえって他の生物を絶滅に追いやるだけかもしれません。

水辺に大量発生するユスリカは、人を刺しはしませんが、人から迷惑がられています。しかし諏訪湖でユスリカが減ると、それをエサにしていたワカサギが小さくなり、漁業に打撃を与えました。ユスリカが減ったのは、諏訪湖の水質改善が進んでアオコが激減したからです。
水質が改善されて澄んだ湖は、栄養が不足していて植物プランクトンが少なく、植物プランクトンが少なければ生息できる魚も少なくなります。きれいな湖よりも、濁った湖の方が生物の多様性は高いのです。
人間が美しいと思う環境が、生物にとって棲み良い環境だとは限りません。

私たちが環境(=人間が好ましいと感じる環境)を破壊し尽くして人類が絶滅しても、地球は滅びません。人間がいなくなった、新たな地球の生態系がそこにあります。自然はとてもタフなのです。もちろん、人間とともに絶滅する生物種も少なくないでしょうが。
人類が絶滅したあとの地球の姿を予測したドイツの映画『アフター・デイズ』のDVDは、こう結んでいます。
地球に人間はいらない。だが、人間には地球が必要なのだ

本書は新潮選書の一冊です。選書には地味でお堅い印象がありますが、本書は易しい文章で、生態系や生物多様性についての理解が深まります。170ページほどの気軽に読めるボリュームです。
ありきたりのエコロジー賛美に食傷気味の方、反エコロジー論にもいかがわしさを感じる方に、おすすめいたします。

(6月22日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
ムシの眼から見る世界


posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 21:47| Comment(10) | TrackBack(0) | 自然科学交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「反エコロジー論にもいかがわしさを感じ」たことは、一度もないんですけど・・・・。
Posted by おおくぼ at 2009年06月25日 15:24
どんな方でも、読んでいただいて構いません(笑)
私は、おおくぼ様を「反エコロジー」論者ではなく、「反エコロジスト」論者なのだと思っています。
Posted by 管理人 at 2009年06月26日 23:09
たしかにそうかもしれません。

例えば、武田邦彦先生は「反エコロジー」論者か、「反エコロジスト」論者か悩みます。
私は、武田邦彦先生が大好きなのですが、特に最近のタイトルが凄いです。

『つくられた「環境問題」―NHKの環境報道に騙されるな!』

『偽善エコロジー―「環境生活」が地球を破壊する』

『暴走する「偽」環境ビジネス』

タイトルだけで、お腹いっぱいという感じです。


Posted by おおくぼ at 2009年06月27日 22:08
おおくぼ様はご自身のblogで、通俗的なエコロジー論を批判するだけでなく、地球温暖化懐疑論や武田邦彦氏の著作に対してもツッコミを入れていたので、「反エコロジー論にもいかがわしさを感じ」ていると思っていました。

私は、世の中がひとつの方向に向かうと、ふと「本当にそれでいいのか?」と疑問を抱く性質です。エコロジーのように基本的に正しいことであっても、それに対する異論はないのか、常に耳を傾けるようにしています。
単に、人と違うことに自分の存在価値を見出している、ひねくれ者なだけかもしれませんが(笑)
Posted by 管理人 at 2009年06月29日 00:56
私も「ひねくれ者」を自称しています(笑)。
また多数派よりも、少数派であることが好きです。
流行が好きなのですが、「反流行」的な態度が好きだったりもします。

けれど、私がエコロジー主義者に反対する理由は、彼ら(彼女ら)のが、反人間中心主義の持ち主であるということなのです。
私は人間中心主義でいいんじゃない?というか、人間中心主義で行くべきだと思っているのです。
この点は、「ひねくれ」でもなければ、「反流行」的態度でもありません。
Posted by おおくぼ at 2009年06月29日 01:11
すべての人類が同じ方向に向かっていて、その道が間違っていたら、人類は滅亡してしまいます。常に一定の層のひねくれ者が存在することは、人類の生物多様性保全につながっていると思います(笑)。

手付かずの自然を残すことや、化石燃料を全く使用しないことが、環境問題の解決であるならば、答えは簡単です。人類が滅亡するか、文明を放棄すればいいのです。
環境問題とは、人類が文明を享受しながらも、自然の風景や豊富な資源も維持したいから起こる問題です。したがって、人間中心主義でない環境問題は有り得ません。
Posted by 管理人 at 2009年06月29日 20:12
>「人類が滅亡するか、文明を放棄すればいいのです。」

テロリストには、そういう思想の人がいる気がします(笑)。

ところで最近は、古代の宇宙象の本を読んでいます。
コペルニクスが地動説を唱えることが出来たキッカケは、宗教観の違いです。
天動説と同じように環境問題の常識が間違っている可能性はあります。
けれど、現実には懐疑派が正しいとはなかなかならない気が・・・・。
(^^:)
最近の傾向は・・

偽エコロジスト(他称) 対 真エコロジスト(自称)

それに

権力派 対 反権力派

という構図だったりします。
私は、この構図からできるだけ、関係なくありたいと思っています。
ロンボルグや山形浩生を私が信頼するのは、対立関係と無関係に天上天下唯我独尊でいるからです。

Posted by おおくぼ at 2009年07月03日 22:12
反人間中心主義エコロジーは、テロリズムと親和性が高そうですね。
テロによって自らの理想が実現できるとの思想は、過度の自己信頼であり、極端な人間中心主義と見ることもできますが。

エコロジーと反権力も、結びつきやすい気がします。
例えば、代替エネルギーの推進は、化石燃料中心の現代文明の転換であり、それが世直し・反権力運動へつながると。
思想対立から離れて、科学的にも経済的にも、効率的なエコロジーを目指すべきと思います。
Posted by 管理人 at 2009年07月05日 10:35
最近、『崖の上のポニョ』を見ました。
宮崎駿の映画はエコロジーがテーマになっている作品が多いです。
『風の谷のナウシカ』、『もののけ姫』などなどです。
それらの作品では、人類の危機と危機から人類を救う主人公達が出て来ます。
『ポニョ』には元人間のマッド・サイエンティストが登場します。
人類と文明を嫌悪し、地球を古代の生態系に戻す薬品を開発しています。
Posted by おおくぼ at 2009年07月05日 18:45
なるほど…テロリズムの思想では人類も自然も救えないことを、宮崎駿監督は理解されているようですね。
Posted by 管理人 at 2009年07月06日 00:37
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