2010年07月20日

推理しない探偵

俗世と隔絶した館や孤島、超自然的な事件や現象、歴史や因習にまつわる宿命など、ゴシック小説の流れを受け継ぐ本格ミステリ。
私が最初に読んだ新本格ムーブメントの作品は、島田荘司・綾辻行人・法月綸太郎の3氏が推薦する麻耶雄嵩のデビュー作『翼ある闇』でした。
『翼ある闇』では、京都近郊にある中世の古城のような館で、エラリー・クイーンの国名シリーズに見立てた連続殺人事件が発生し、事件を解決するはずの探偵まで殺されてしまいます。最後には、謎の老婦人は〇〇〇〇〇〇だった…というトンデモ歴史解釈まで飛び出す弾けっぷりです(ネタバレ自主規制)。

ミステリの探偵は大抵が素人ですが、時間に余裕のある人物でなくてはなりません。警察官が主役のミステリもありますが、現実の警察官が事件に対する義憤や好奇心で動くはずはありません。
探偵役に相応しいのは、暇な学生とか売れない作家とか、警視総監を兄に持つルポライターだったりします。あるいは、こんなお方とか…



麻耶雄嵩、5年ぶりの新作。
貴族探偵を自称するのは、口髭を蓄え、皇室御用達の店で誂えた高級スーツに身を包んだ、20代後半の青年。
「貴族は労働しない」がモットーで、事件を捜査するのは執事の山本、メイドの田中、運転手の佐藤。いつもの麻耶ならメルカトルだのわぴこだの珍名人物が続出するのですが、使用人たちは平民っぽさを強調するためか平凡な名前です。
自ら足を使って捜査しないで頭脳プレーに専念する、いわゆる安楽椅子探偵かと思いきや、推理を披露するのも探偵の使用人たち。なんと探偵でありながら推理すらしないのです。その間やることといったら、紅茶を飲みながら現場に居合わせた女性を口説くだけ。

本作には麻耶作品でおなじみの、古城のような洋館とか、奇妙な因習や複雑な血縁で結ばれた一族といった大仰な舞台設定はありません。
これは謎や推理よりも、貴族探偵というキャラクターを楽しむ小説ですね。あるいは、確信犯的バカミスか…(笑)

(7月19日読了)★★★

【不純文學交遊録・過去記事】
本格ミステリとの出会い(前編)
Firefly


ラベル:麻耶雄嵩
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 21:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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