そういえば、イオ・ミン・ペイが造ったルーブル美術館中庭の「ガラスのピラミッド」も、同様の批判に晒されました。
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賛否はともかく、アニメーションをはじめとする日本のポップカルチャーは、海外で広く受容されています。
なぜ日本のポップカルチャーは、クールだと認識されたのか。クールジャパンは、日本経済を牽引するソフトパワーとなるのか。そしてオタクは、国籍・人種を超えたアイデンティティとなりうるのか…
本書は、東浩紀を中心とした東京工業大学世界文明センターでの国際シンポジウムを書籍化したものです(東京“工業”大学世界文明センターは、いまや貴重な人文知の発信の場なんだとか)。
シンポジウムには批評家だけでなく、現代美術家の村上隆、映画監督の黒沢清という製作者も参加。さらに海外の日本文化研究者も加わっており、日本的クールさとは何かを客観視できる内容です。
海外の研究者は「クールとは何か」について、未知であること(ジョナサン・エイブル)、非生産的であること(へザー・ボーウェン=ストライク)を挙げています。
アカデミックな話題であっても、シンポジウムとなると話し言葉で書かれるので、分かりやすくなります。
面白いのは、第2部の討論。
オタクよりもフリーターの方がグローバルな問題だと語り、クール・ジャパノロジーが安易にナショナリズムと結びつくことを危惧する毛利嘉孝に対し、東浩紀が猛反撃。追い討ちを掛けるように、自称ワーキングプアの若者なんて仕事を選んでいるだけだと、一蹴する宮台真司。議論はカルスタ(カルチュラル・スタディーズ)批判の様相に。
本書の構成は時系列とは逆に、1日目の内容が第2部、2日目が第1部です。
1日目(第2部)の討論には大塚英志も参加していたのですが、彼は書籍化を固辞したため、残念ながら発言が削除されています。
東浩紀の新刊に村上隆が出ているということで、なんとなく手に取ったのですが、意外に楽しめました。
(9月26日読了)★★★★
【不純文学交遊録・過去記事】
萌える資本主義
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あと海賊版の大活躍があります。
若者論を語る人は、統計を無視する傾向があります。
http://d.hatena.ne.jp/kensyouhan/20100926
東浩紀といえば、一方的にキレるという印象があります。
笠井潔との往復書簡『動物化する世界のなかで』は、確かに笠井は昔話ばかりで東の問いに正面から答えていない気がしますが、何もそこまでキレることはないだろうと思いました。
今回は、毛利嘉孝の方からケンカを売っていますが。
現代思想系インテリは喧嘩が好きという印象があります。
でも勝ち負けの基準がないので、無意味な戦いなんですけど。
みんな想像の怪物と戦っているだけですから。
東浩紀は、自分は高尚な思想家ではなく一介のオタクに過ぎないと自覚しているようですが。
東浩紀と毛利嘉孝の論争は、オタク派とストリート派の争いのようにも見えます。
文章からは、毛利が東・宮台連合軍の前に撃沈…といった感じです。
と言うか、なぜこのシンポジウムにオタク文化と相容れそうにない人を呼んだのでしょう。最初からハメるつもりだった?
オタク論とフリター論が、若者論ということで一括りにされると、怪しさ倍増です。
宮台さんは幅が広いので、どんなことでも論じることができます(信頼性は低いけど)。
宮台さんは倫理学や政治学の抽象的なモデルとしては参考になりますけど。
現代思想でオタク文化を理解する学者でマトモな人がいない気がします。
http://d.hatena.ne.jp/kensyouhan/20100907
編集者で原作者の大塚英志さんはかなり資料を丁寧に扱っている方だと思うのです。
一次資料を丁寧に読むという作業をしないと、文化論は怪しくなってしまうと思うのです。
個人の経験だと百人いれば百通りの文化論ができてしまうというのは大袈裟ですが、通じ合う人同士はわかるけど、そうじゃない人とは平行線のままという感じなので。
そして語れないはずなのに、語れるのはパラドックスで、「日本が部分的に西洋化しているから」というのは論理が破綻しているとしか思えません。
西洋思想はオーダーメイドの服じゃないんですから。
ある趣味に耽溺する人を「〇〇オタク」と呼ぶことがよくありますが、そういう趣味人・道楽人は昔からいました。また、内向的な人・インドア派の人がオタクというわけでもないでしょう。やはり狭義のオタクとは、アニメ・ゲーム等「電子娯楽メディア」の愛好家であることと不可分だと思います。
宮台真司は、オタク文化もストリート文化も論じることができますね。
初期の著作である『サブカルチャー神話解体』には、未だに強い自信を持っているようです。また、雑誌『ダ・ヴィンチ』で映画評論(オン・ザ・ブリッジ)をやっていただけあって、本書でも映画のタイトルが次々と出てきました。
思想に勝ち負けはないといっても、このシンポジウムの勝敗は明らかですね。
最近は海外のオタクを紹介した本がかなり出ています。
日本の場合は宮崎勤事件の印象が未だに大きいと思います。
こないだのアキバ事件でも犯人はオタクではありませんが、オタク論で語られたりします。
シンポジウムでは私の好きなホラー映画監督である黒沢清さんが出ているので良かったです。
東さんの紹介している映画『回路』の場面は、ユチューブでも見ることができます。
宮台真司批判としては『おまえが若者を語るな!』(角川oneテーマ21新書)があります。
丁寧でわかりやすい宮台論でもあります。
「宮台真司は何故転向したのか?」という分析も見事です。
大塚英志は、敢えて「オタク」ではなく「おたく」を自称していますね。カタカナ表記の「オタク」には、旧来の「おたく」が持っていた負のイメージがないとかで。