2011年01月24日

ミステリ好きならバカミスを読め!

ミステリには、バカミスと呼ばれるジャンルがあります。
意外な結末で読者を感嘆に導く文芸がミステリですが、意外性を過剰なまでにバカバカしく追求し、読者を笑い(時には怒り)へと至らせるのがバカミスです。
バカミスは作者が意図的に書く場合が多いですが、時には作者が大真面目に書いているのに、あまりにも非現実的な事件や非常識な登場人物のせいで、読者によってバカミスと認定されてしまう作品もあります。

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倉阪鬼一郎は怪奇・幻想小説を得意とし、翻訳家としても知られていますが、年に一冊は必ずバカミスを手掛けています。
本書は、著者が自らバカミスであると高らかに宣言した作品です。

ロンドン在住の女殺し屋シンディが、ボスの指令でニューヨークに赴任。新世界アメリカ大陸で、新たなミッションに従事します。
このシンディ、時には西海岸のサンフランシスコへ出張し、さらには大西洋を股にかけて前任地のロンドンでも暗殺者稼業を続けます。まさに時空を超えた不可能犯罪…
日常の瑣末な事件の捜査に飽き足りない上小野田警部は、本格ミステリに登場するような芸術的な犯罪を解決する日を心待ちにしていました。
そんな上小野田警部が、特命でニューヨークへ。シンディこそ、長らく追い求めた芸術的な犯罪者に違いないと目星をつけた警部は、身の危険も省みず、彼女の館へと乗り込んだのです。

最初からバカミスとの断りがあるので、登場人物の言動には注意して読みました。人間だと思わせておいて、実は動物だったりしないか…とか。
シンディとの面会を待つ上小野田警部が時間を潰したレストランのメニューが、事件の真相と深く関わっているのは、すぐに察しがつきました。
とにかく、呆れるほどにバカバカしい結末。終盤で、伏線を張った部分を(〇〇頁)と、いちいち注釈を付けているのは目障りでした。

(1月10日読了)★★

【不純文学交遊録・過去記事】
ミステリの主役は「館」


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2010年12月12日

世襲する探偵



奇妙な因習の残る人里離れた山村、複雑な血縁関係で結ばれた一族、そして風変わりな名探偵…これぞ麻耶雄嵩というべき作品。

隻眼の少女

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1985年、冬。
信州の山奥にある栖苅(すがる)村を、自殺志願の大学生・種田静馬が訪れました。両親を凄惨な殺人事件で失った静馬は、死に場所を求めてこの村へやって来たのです。
村には千年以上昔、たびたび洪水を起こして村人を苦しめた龍を、娘が琴を弾いて退治したとの伝説があります。娘はスガル様と呼ばれ、村人の篤い信仰を集めてきました。その娘の子孫が、琴折(ことさき)家です。

スガル様が龍を退治した場所だとされる奇岩「龍ノ首」に静馬が腰掛けていると、下から若い女の声がしました。平安時代のような装束(水干)を身に付けた少女の名は、御陵みかげ。自ら探偵だと称します。
その二日後、龍ノ首で次代のスガル様を継ぐことになっていた琴折家の娘が、首を斬られた死体で発見されました。静馬はみかげとともに、事件の真相を探るべく琴折家に乗り込みます。そこでも新たな殺人が…

実は御陵みかげは二代目で、母もまた水干姿で左目が義眼の名探偵でした。
現代に生きるシャーマンのスガル様と、伝説の名探偵である御陵みかげ。どちらも女系の世襲というのが面白いですね。皇位継承問題を意識しているのでしょうか。

本作は、二部構成。
あれから18年経った2003年の冬、琴折家で再び連続殺人事件が発生します。
いかにも麻耶雄嵩らしい舞台設定で十分に楽しめましたが、サプライズ度はそれほどでも。種田静馬は、やはり名前の通りだったし…(笑)
しかし麻耶雄嵩ビギナーには、この結末は衝撃かも。

(11月23日読了)★★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
推理しない探偵
Firefly
ラベル:麻耶雄嵩
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2010年11月22日

前代未聞の誘拐事件



奇想に富んだ(トンデモな)ミステリとの出会いを追い求める、不純文學交遊録。今回の交遊は誘拐モノです。
身代金目的の誘拐事件が発生し、ターゲットとされたのは新聞社。全く無関係な人質を救うために新聞社は身代金を支払うのか…

リスの窒息

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全国紙「秋津新聞」の読者投稿コーナーに届いた、一通の不審なメール。
タイトルは「身代金要求の件」。中学生を誘拐した、身代金は3,000万円、警察へ通報したら殺す…さらに添付ファイルには、手足を縛られた制服姿の少女と、彼女のものと思われる学生証の写真が。

犯人はなぜ被害者の家族ではなく、新聞社に脅迫状を寄越したのか。実は秋津新聞社には、報道によって自殺者を出した忌まわしい過去がありました。しかも犯人はご丁寧に「秋津新聞」の天敵である「週刊道標」にも同じメールを送り付けていたのです。
誘拐犯との遣り取りは、逐一「週刊道標」編集部に転送されています。人質に何かがあっては、再び「週刊道標」からのネガティブキャンペーンに晒されるでしょう。社会正義か企業の存続か…秋津新聞社の面々は苦しい選択を迫られます。

秋津新聞社に身代金を要求したのは、人質となった女子中学生自身(ネタバレではありません、最初から明かされています)。
こんな稚拙なやり方では狂言誘拐ってバレバレだろう…と思った手口が、かえって企業の論理にどっぷりと浸かった大人たちを翻弄してしまうのが、本作の読みどころ。いくらイマドキの中学生でも、ここまで悪辣な発想をするのかというツッコミは措くとして。
本作は『小説トリッパー』連載の単行本化で、あろうことか版元は朝日新聞社。作者の石持浅海は一部でエロミスの名手として名高く、本作でも小説トリッパーならぬ小説ストリッパーぶりを如何なく発揮しています(笑)

(11月15日読了)★★★★
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月03日

書き上手は読み上手



出版界最高の賞金額(2,000万円)で知られるポプラ社小説大賞に、齋藤智裕の『KAGEROU』が選ばれました。
ポプラ社小説大賞
受賞者は水嶋ヒロの名で俳優として活躍中ですが、作家への転向を宣言。有言実行したわけですね(水嶋さんの出演作は見たことがありません。スミマセン…)。
世の中には、作家を目指す人のための指南書が数多くあります。作家になるための読書ガイドは、作家志望者でなくても、面白い本を探すのに役立つと思って読みました。

読まずに小説書けますか

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本を読まなくても小説は書けますが(実際に、本を読んでいない作家もいる?)、良く読む者が良く書くが文芸の基本。かといって読んでばかりいたら、書く時間がなくなってしまいます。
そこで書きたい小説のジャンルごとに必読書を紹介するのが、本の雑誌『ダ・ヴィンチ』の辛口批評でおなじみ岡野宏文と豊崎由美のコンビ。

ファンタジー小説を書くなら『ハリー・ポッター』に学べと言いながら、ハリポタをベタ褒めするわけではなく(むしろ苦言が多い)、さらに関連する他の作品も紹介することで、ファンタジー小説の「型」が浮き彫りとなります。
二人の対話は「私たちは、こんなにいっぱい本を読んでるんだよ」って自慢話のようで鼻につく部分もありますが、これから読むための参考になりました。小説を巧く書くためのツボは、読む側が楽しむツボでもあるわけですね。

巻末には、膨大な読書日記で知られる桜庭一樹を迎えての鼎談。完成品としての本を批評する評論家と、今まさに書いている仕事場の感覚で作品の選評をする作家とでは、書評の視点が違うのが印象的でした。
わが『不純文學交遊録』は、読む量は少ないけれど、読むジャンルの支離滅裂さでは他に類を見ないと思っていますが、どうでしょう?(笑)

(11月3日読了)★★★

【不純文學交遊録・過去記事】
読書クラブに入りませんか
ハリー・ポッター、最後の戦い(下)
ハリー・ポッター、最後の戦い(上)
半純血のプリンスとは…(下)
半純血のプリンスとは…(上)
今さらですが…
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 22:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月24日

季節は謎を紡ぐ



学園ミステリ小説は数多くありますが、鮎川哲也賞を受賞してデビューした七河迦南の作品の舞台となる七海学園は、一般の学校ではなく児童養護施設です。両親の離婚や虐待など、わけあって家庭では暮らせない子供たちが寮生活を送っています。

アルバトロスは羽ばたかない

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25歳の北沢春菜は、児童養護施設「七海学園」で働き始めて3年目の保育士。高校時代はバドミントン部のキャプテンを務めた体育会系で、問題を起こした児童がいると、自分が担当する寮生でなくても、プライベートな時間を犠牲にしてまで世話を焼いてしまいます。
そんな春菜が気にかけているのが、最近入ってきたばかりの女子高校生、鷺宮瞭。偏差値の高い名門私立高校に通っていたものの、母親を殴って児童相談所行きとなり、この七海学園に入所してきたのです。クールで気高く、周囲に心を開かない瞭に、職員たちは手を焼いていました。

物語は、七海西高校の学園祭で起こった転落事故が、自殺なのか殺人なのかをめぐって進展します。
季節ごとのエピソードが連作短編集のように並べられており、それぞれのエピソードを「サッカー場から消えた少年」「盗まれた寄せ書き」「再生できないCD-R」など「日常の謎」を解くミステリとして読むことができます。
そして主題となる転落事故の真相は、終盤にドンデン返しが待っており、思わず「やられた!」と声に出してしまいました。最初の章におかしな記述があって、深くは疑わなかったのですが、あれが伏線だったんですね。

巧妙に仕組まれた作者の罠とともに、トラウマを背負った子供たちの心理描写が繊細で、物語の世界に引き込まれました。これはオススメです!

(10月24日読了)★★★★★
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2010年10月10日

女は妖(あやかし)

古今東西の呪物を商う玩具館「三隣亡」を訪れる客が、経営者の兄妹を前に語りはじめる奇妙な体験談…
ミステリともホラーとも一味違う幻想小説を、時にユーモアを交えながら綴る作家が石神茉莉です。

音迷宮

音迷宮

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表題作『音迷宮』をはじめ、妖(あやかし)の世界を描いた10篇からなる短編集。
読み進めるうちに妙なことに気付きました。最初は単なる誤植かと思ったのですが、それにしても気持ちが悪い…実は本書のある部分に、それぞれの作品のモチーフとなった妖怪の名前が隠されています。
人の視線を極度に怖れる子役少女を描いた『眼居』はまさしく現代版×××ですし、消息を絶った友人の行方を追う『I see nobody on the road』は西洋風の××××です。
(ここで妖怪の名前を出してしまっては、面白くない!)

妖という文字は、なぜ女偏なのか…
秋の夜長に読者を妖奇なる世界へと誘います。
ただ、眠る前に読むのは夢見が良くないかもしれません。
(特に『Rusty Nail』とか)

(10月7日読了)★★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
あなたが王になれるとしたら…
人魚の歌は死の調べ
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 18:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月20日

かぐや姫は火の女神

いまは昔、竹取の翁と云ふものありけり…おなじみ『竹取物語』の冒頭です。
光る竹の節から現れた赤子は美しく成長するも、貴公子たちの求婚を退け、天皇からのお召しをも拒絶し、最後は月の世界へ帰ってしまいます。
しかし『竹取物語』は、単なる異世界ファンタジーではありません。かぐや姫に求婚する五人の貴公子には実在のモデルがおり、非常に政治色が濃い作品であることはよく知られています。

かぐや姫と王権神話

かぐや姫と王権神話

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本書のサブタイトルは、『竹取物語』・天皇・火山神話。
かぐや姫と火山神話がどう繋がってくるのか、興味が湧きます。
物語のラストで天皇は、かぐや姫の置き土産である不老不死の薬を、富士山の頂で焼き捨ててしまいます。もしかして、かぐや姫の正体は木花咲耶姫だとか…

『竹取物語』を丁寧に読み解いていくと、舞台となった具体的な地名や、竹取の翁を輩出した氏族が明らかになってきます。
そして物語に登場する五人の貴公子は、天武・持統朝に活躍した実在の人物たちです。本書は、天武天皇が創始した宮廷舞踏会(五節舞)が、物語のベースになっているとします。
さらには物語が成立した平安時代前期のリアルな政治事情までもが、『竹取物語』には反映されています。

平安時代前期の日本列島は、火山の活動期でした。富士山の史上最大の噴火(864年)が起きたのも、この頃です。古代の人々は、火山の噴煙に天上の世界を幻視したことでしょう。
『竹取物語』が書かれた時代、それは「神話の時代の終わり」でもありました。神道が国家によってシステム化されるとともに、女性は司祭の地位から追われたのです。
(失われた火山神話を掘り起こす試みは、石黒耀の小説作品にも見られます)

とにかく中身が濃くて面白いので、歴史好き・文学好きには超オススメです。
巻末に『竹取物語』全文が掲載されているのも、嬉しい大サービス!
作者を文官貴族としながらも、誰かは特定していないのは、ちょっと物足りないかな…

(9月20日読了)★★★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
本当にキケンな源氏物語
富士山大噴火
女帝・かぐや姫
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 23:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月06日

病み付きになりそう?

ラノベ風の表紙に躊躇し、探偵が特殊能力で推理するなんてアンフェアでは…と思いつつも、想像をはるかに超えた結末で驚かせてくれた、天祢涼のメフィスト賞受賞作『キョウカンカク』。
この勢いで、共感覚探偵シリーズ第2弾とも交遊しましょう。

闇ツキチルドレン

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小さな地方都市で、犬や猫が殺される事件が続発。ついには会社帰りのサラリーマンが襲われる事態にまでエスカレートしました。襲撃者は、子供のように甲高い笑い声をしていたことから「チャイルド」と呼ばれています。
共感覚探偵・音宮美夜の雇い主である、警察官僚の矢萩によれば、チャイルド事件の容疑者は、元エリート警察官僚の最上倉太朗。サラリーマンが襲われた犯行現場に、彼の名前が入った懐中時計が落ちていたというのです。

元エリート警察官僚が容疑者…警察としては表沙汰にするわけにいきません。
最上倉太朗は、18年前にX県警本部長に就任。いずれは警察庁長官と目されていたものの、ほどなく娘夫婦を交通事故で失くしたショックで辞任しました。不本意な形で職を退いたとはいえ、未だ警察組織に隠然たる影響力をもっています。
矢萩は、この事件を最大限に利用して、警察内部の権力掌握を狙っているようです。

プチ家出女子高生やヘンタイ大学生に付きまとわれながら、倉太朗の隠された過去を追う美夜。前作同様、猟奇犯「チャイルド」の正体はすぐに目星が付きますが、本作は最後にもうひとひねりあります。
ただ、随所に美夜が共感覚を発揮していた前作と違い、本作はじわじわと心理戦で追い詰める感じで、前作ほどの病み付きになるような面白さはありませんでした。
それでも美夜と矢萩の謎めいた関係は、ますます気になるところ。銀髪の共感覚探偵さんとは、もうしばらくお付き合いすることになりそうです。

(8月28日読了)★★★

【不純文學交遊録;過去記事】
殺意の声が見える
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 20:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月19日

殺意の声が見える

ロナルド・ノックスの探偵小説十戒に「探偵は超自然能力を用いてはならない」あるいは「偶然や第六感で事件を解決してはならない」というものがあります。探偵が超能力で犯人を名指して事件は解決…では、ミステリは面白くありません。
では、探偵がある特殊な能力によって犯人が分かってしまったうえで、成り立つミステリはあるのでしょうか。



とある地方都市で、女性を殺害して焼却する猟奇事件が続発。犯人は遺体を焼くことから「フレイム(炎)」と呼ばれています。高校生の甘祢山紫郎は、フレイムの手によって幼なじみの少女・神崎花恋を失いました。後追い自殺を企てた山紫郎を救ったのは、派手な銀髪を腰まで伸ばした若い女でした。
彼女の名は音宮美夜。田舎のヤンキーみたいな風貌ですが、物腰には育ちの良さも感じられます。美夜は、音を聴くと色や形が見える共感覚の持ち主で、山紫郎の声が蒼く糸を引いて見えたことから、彼が自殺志願者だと見抜きました。美夜はその能力(というか体質)を買われて、ある人物からフレイム事件の捜査を依頼されていると言います。

美夜は、音が見え過ぎて精神に負担が掛かるため、普段はコンタクトレンズで視覚を調整しています。状況に応じてコンタクトを取り替えるなんて面倒なことをしなくても、サングラスを掛ければいいのに…と思うのですが、そこには彼女のもうひとつの「キョウカンカク」が隠されているのです。
犯人と思しき人物は早い段階で目星が付きますし、美夜も彼の声に濃厚な殺意の色を見ます。しかし彼には鉄壁のアリバイがあり、美夜の共感覚以外に犯行を裏付けるものは何もありません。読者の想像を遥かに超えた真相が待っています。

第43回メフィスト賞受賞作(著者・天祢涼)。
いかにもなイラストの表紙に、特殊な能力をもつ美少女探偵が主役ときたら、どうせ「キャラ萌えラノベ」だろうと思って手に取るのを躊躇していましたが、かなり楽しめました。書物を外見で判断してはいけませんね。
ただ、美夜のもうひとつの「キョウカンカク」は、ちょっとやり過ぎでは…

(8月9日読了)★★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
ミステリに中国人が登場したっていいじゃない
生物界という密室(クローズド・パラダイス)
究極のトリック
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 21:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月20日

推理しない探偵

俗世と隔絶した館や孤島、超自然的な事件や現象、歴史や因習にまつわる宿命など、ゴシック小説の流れを受け継ぐ本格ミステリ。
私が最初に読んだ新本格ムーブメントの作品は、島田荘司・綾辻行人・法月綸太郎の3氏が推薦する麻耶雄嵩のデビュー作『翼ある闇』でした。
『翼ある闇』では、京都近郊にある中世の古城のような館で、エラリー・クイーンの国名シリーズに見立てた連続殺人事件が発生し、事件を解決するはずの探偵まで殺されてしまいます。最後には、謎の老婦人は〇〇〇〇〇〇だった…というトンデモ歴史解釈まで飛び出す弾けっぷりです(ネタバレ自主規制)。

ミステリの探偵は大抵が素人ですが、時間に余裕のある人物でなくてはなりません。警察官が主役のミステリもありますが、現実の警察官が事件に対する義憤や好奇心で動くはずはありません。
探偵役に相応しいのは、暇な学生とか売れない作家とか、警視総監を兄に持つルポライターだったりします。あるいは、こんなお方とか…



麻耶雄嵩、5年ぶりの新作。
貴族探偵を自称するのは、口髭を蓄え、皇室御用達の店で誂えた高級スーツに身を包んだ、20代後半の青年。
「貴族は労働しない」がモットーで、事件を捜査するのは執事の山本、メイドの田中、運転手の佐藤。いつもの麻耶ならメルカトルだのわぴこだの珍名人物が続出するのですが、使用人たちは平民っぽさを強調するためか平凡な名前です。
自ら足を使って捜査しないで頭脳プレーに専念する、いわゆる安楽椅子探偵かと思いきや、推理を披露するのも探偵の使用人たち。なんと探偵でありながら推理すらしないのです。その間やることといったら、紅茶を飲みながら現場に居合わせた女性を口説くだけ。

本作には麻耶作品でおなじみの、古城のような洋館とか、奇妙な因習や複雑な血縁で結ばれた一族といった大仰な舞台設定はありません。
これは謎や推理よりも、貴族探偵というキャラクターを楽しむ小説ですね。あるいは、確信犯的バカミスか…(笑)

(7月19日読了)★★★

【不純文學交遊録・過去記事】
本格ミステリとの出会い(前編)
Firefly
ラベル:麻耶雄嵩
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 21:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学・小説交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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