2012年06月11日

ベーシックインカム

とある高収入タレントの母親が、生活保護を受給していたとの問題が発覚しました。
生活保護は所得があると支給されず、その支給額が最低賃金を上回ると、働かない方が得になるモラルハザードが生じます。



そこで浮上してくるのが、ベーシックインカム(BI)。政府がすべての国民に対し、最低限の生活を保証するために現金を支給する制度です。働いて得た分は上乗せとなるので、生活保護のように労働するインセンティブは失われません。起業や転職へのチャレンジも容易となります。
ベーシックインカムの目的は、単なるセーフティネットではありません。年金・雇用保険・生活保護などのあらゆる社会保障をベーシックインカムに一本化すれば、行政コストが大幅に削減されます(フラットタックスと併せて考える論者もいます)。行政がスリム化されると公務員が失業して、ベーシックインカムのお世話になる人が増えるかもしれませんが(笑)
個人に支給するのか世帯に支給するのか、収入に関係なく全ての国民に一律に支給するのか、運用については意見が分かれるでしょう。また、不正な受給(不正な住民登録等)の防止も必要です。

ベーシックインカムと同様のアイデアは、既に半世紀も前に考案されていました。
ミルトン・フリードマンが1962年に著した『資本主義と自由』では、負の所得税が提唱されています。所得が基礎控除額を下回る場合に(基礎控除額−所得)×所得税率を支払うというものです。
フリードマンは、教育バウチャーも提案しています。子供のいる家庭に、教育費に相当するクーポンを支給するのです。収入に関係なく現金がバラ撒かれる「子ども手当」では、政府の支出が育児や教育に使われるとは限りません。

『資本主義と自由』では、政府がしてはいけない政策の数々が糾弾されるとともに、それに代わるアイデアが掲げられています。今年でちょうど出版から50年。読んで楽しい類の本ではありませんが、未だに新しい経済学の古典です。
新装版の解説は「霞が関埋蔵金」を暴いたことで知られる元財務官僚、高橋洋一が書いています。

(1月1日読了)


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2011年11月14日

TPP交渉参加を支持します

11月11日、野田佳彦内閣総理大臣が「APEC首脳会合においてTPP(Trans Pacific Partnership:環太平洋戦略的経済連携協定)交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と表明しました。
野田内閣総理大臣記者会見(首相官邸)

民主党内の反対勢力に配慮した玉虫色の表現ではありますが、TPP推進論者である野田総理のこれまでの言動から、参加宣言に他ならないと思います。それなのに反対派の山田正彦元農林水産大臣が「これは参加表明ではない」と満面の笑みで総理の会見を歓迎していたのは、何度見ても笑えます。総理の慎重な発言を引き出したことで、農水族として最低限の仕事を果たし、これで有権者に顔向けができると安堵しているのでしょうか?(笑)

生産者が作りたい物を作り、商業者が売りたい物を売り、消費者は買いたい物が買える。自由な市場・自由な貿易は、世界のあるべき姿です。また、なんでもかんでも自給自足するよりも、自国で生産すれば高コストなものは輸入するのが、有限な地球の資源の効率的な分配であると思います。
ところが最近、保護貿易主義を掲げる論者が現れています。経済産業省官僚の中野剛志です。ブロガーの池田信夫から「読んではいけない本」の著者として名指しされたことで、かえって読んでみたくなりました。2ちゃんねるからデビューした経済評論家の三橋貴明、ジャーナリスト・東谷暁との共著によるTPP反対論です。



TPPといえば、日本の農業が壊滅するという話題ばかりが先行しがちです。しかし本書がいうようにTPP=農業問題ではありません。TPPには農業だけでなく24の作業部会があります。

1.物品市場アクセス
2.原産地規則
3.貿易円滑化
4.SPS(衛生植物検疫)
5.TBT(貿易の技術的障害)
6.貿易救済(セーフガード等)
7.政府調達
8.知的財産
9.競争政策
10.越境サービス貿易
11.商用関係者の移動
12.金融サービス
13.電気通信サービス
14.電子商取引
15.投資
16.環境
17.労働
18.制度的事項
19.紛争解決
20.協力
21.分野横断的事項

※物品市場アクセス分野は工業、繊維・衣料品、農業の三つの部会に分けられる。
※特定の分野を扱わないが、首席交渉官会議も一つの部会である。

本書の主張を要約すれば、TPPとは実質的に日本とアメリカの二国間協定であり、アメリカ政府の陰謀である。賛成派はTPPのごく一部に過ぎない農業を悪者にして、アメリカによる日本支配の片棒を担いでいる…ということになります。

「TPP=農業問題ではない」という主張には、大いに賛同します。ただし、私の場合は本書の著者たちとは違って、TPPという外圧がなくても日本の過剰な農業保護は断固廃止すべきとの立場です。
コメくらいは100%自給を維持しても良いと思いますが、778%ものバカげた関税は撤廃し、所得補償が必要ならば専業農家だけにすべきです。兼業農家は日本から消えてしまっても構いません。そもそも公務員の副業は法律で禁止されていますし、副業を社則で禁じる民間企業もありますが、なぜ農業の兼業は不問なんでしょうか。家業だから仕方なくやっている方も少なくないでしょうが、そんな農家に日本の食糧生産を支えてもらいたくはありません。
先ごろ、世界の人口は70億を超えました。TPPに参加すると日本の食糧輸入が増えて、世界の食糧価格が高騰するとの懸念も聞かれます。しかしながら世界の食糧生産は過剰であり、アメリカ・フランスなどの農業大国は国外に市場を求めています。
その一方で、深刻な飢餓に苦しむ貧困国があることも確かです。アフリカでは、植民地時代に部族や宗教を無視して引かれた国境線のせいで、未だ内戦が絶えません。政情不安定な国に、健全な農業を育成することが求められます。まずは、アフリカの内戦国に武器を輸出している世界第2位のGDP大国へのODAを、即刻停止しましょう。その分を貧困国の支援に回したらどうでしょうか。

日本の市場は既に十分開放されており、TPPに参加する理由はないとの意見もあります。それならばTPPに参加したところで国内産業にほとんど影響はなく、反対する理由もありません。むしろTPPへの参加で輸出がしやすくなります。
自動車には関税による保護が全くありませんが、輸入車のシェアは1割もありません。自動車は日本が最も高い競争力を誇る分野であると思われるでしょうが、自動車ほど輸入品の評価が高くて国産品の評価が低い商品はないでしょう。
混合医療を認めれば国民皆保険制度が崩壊するとの主張も、よくわかりません。保健診療に自由診療を併用すると保健診療対象分まで自己負担にされるなんて、おかしくはありませんか。
自由な市場では、消費者に商品を選択する権利があります。良くも悪くもTPPで私たちの生活は大きく変わらないでしょう。
いったん交渉に参加すると、日本に不利な条件になっても抜けられないと言うのなら、TPPそのものではなく、日本政府の交渉力のなさを批判すべきです。国際会議で各国のエゴが剥き出しになるのは当然のこと。それが嫌なら鎖国するしかないでしょう。かつて世界史上稀にみる経済成長を遂げた東洋の神秘的な島国として、孤立衰退の道を歩むのも悪くはないと思いますが。

TPPはシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国で発足しました。経済規模や文化の似た国同士なら締結しやすいでしょうが、多国間での合意となると、かなりハードルが高くなります。
それならば多国間で数多くの分野を合意せねばならないTPPよりは、個別にFTA(自由貿易協定)かEPA(経済連携協定)を、なるべく多くの国と結ぶのが良いのではないかと思います。もっとも、日米の二国間協議だとアメリカに圧倒されがちですが、多国間での交渉ならアメリカの横暴を防ぎやすいというメリットはあるでしょう。
国会議員ばかりでなく、都道府県知事にもTPP反対派がいます。日本が国を挙げてTPPに参加することに不安があるのでしたら、先行して市場開放を実施するTPP経済特区を、政府が募集してはどうでしょうか。経済特区となった地方自治体に、企業が進出したり人口が増加に転じたりすれば、頑固な反対派も考えが変わることでしょう。
いずれ日本がどこかの自由貿易圏に入らざるを得ないのであれば、出来てしまったルールに従うよりは、ルールの作成段階から参加するのが賢明というものです。

(6月13日読了)★★★
ラベル:農業
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 17:21| Comment(9) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月21日

中東危機は終わらない

国内観測史上最大のMw9.0を記録した東北地方太平洋沖地震から10日が経過。福島第一原子力発電所の状況とともに気がかりなのが、内戦が続くリビア情勢です。
3月19日、国連安保理決議に基いて多国籍軍が「オデッセイの夜明け」作戦を開始しました。まずフランスの戦闘機がリビア政府軍の車両を破壊、アメリカ・イギリスは艦船から巡航ミサイル「トマホーク」112発を撃ち込みました。

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チュニジアで起こった民主化運動(ジャスミン革命)の波は、鉄壁を誇った中東諸国の長期独裁政権に衝撃を与えました。中東の雄を自認するエジプトでは、30年もの長期政権を維持してきたムバラク大統領が退陣。そして40年以上も最高指導者として君臨し続けるカダフィ大佐のリビアでも、反政府運動が激化しています。
世界を民主主義で覆うことを是とする欧米諸国は、中東諸国の反政府運動を弾圧することはしませんが、新しく生まれた政権が親欧米路線を採るとは限りません。

アメリカはなぜ中東で戦争を仕掛けるのか。本書は戦争経済で潤うアメリカの軍産複合体と、それを支えるイスラエル・ロビーの動向を分析しています。
著者・宮田律は、東西冷戦下で対米追随路線に異を唱えた石橋湛山を評価し、アメリカに対して主張できない現代の政治家を批判します。
ポツダム宣言受諾後に北方領土を占領したロシア(旧ソ連)、竹島を実効支配する韓国、秘密裏に核兵器開発を進める北朝鮮、そして尖閣諸島の領有を不当に主張する中国。これら周辺国を批判しながら対米追随を止めろと主張するのは、日本は自主防衛せよという論理につながるかと思うのですが、そこまで突っ込んだ議論はありませんでした。

(3月7日読了)

【不純文学交遊録・過去記事】
ドバイはヤバイ?
よ〜く考えよう、石油は大事だよ♪
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 15:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月31日

今年もいろいろありました

まもなく過ぎ去ろうとしている平成22年。今年もいろいろありましたが、とりわけ秋には日本の安全保障を揺るがす事態が立て続けに起きました。
9月7日、中華人民共和国の漁船が尖閣諸島付近で海上保安庁の巡視船に衝突。
11月1日には、ロシア連邦のメドベージェフ大統領が国後島を訪問。
さらに11月23日、朝鮮民主主義人民共和国が大韓民国の延坪島を砲撃。
極東アジアが世界の火薬庫であることを、改めて思い知らされました。

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その中国・ロシア・北朝鮮の三国を猛毒国家と呼ぶのが本書。
チャイナウォッチャーとして知られる宮崎正弘と、外務省のラスプーチンこと佐藤優による対談です。

時事的な要素よりも、比較文化論的な視座で中国とロシアの国柄・国民性を論じているのが本書の特徴(北朝鮮のことはオマケ程度)。
単純に金持ちが尊敬される中国は商人の国、一方、土着の情念が強く農本主義的なのがロシアです。
あとがきによると、対談から刊行まで1年のタイムラグを要したため、時局の話題は削除したとのこと。おかげで主旨が明確になった気がします。

真正保守の復権を掲げる両者ですが、とりわけ佐藤優が「超越性」を唱えているのが印象的でした。これは天皇の問題とも関わってきます。
本書は宮崎正弘の新刊として手に取ったので、佐藤優の思想に触れたのは偶然でしたが、超越性の問題は、保守とは何かを考えるヒントになってくれそうです。

(12月28日読了)★★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
国難は海からやってくる
不思議の国・ロシア
新たな冷戦
ロシアより“哀”をこめて
リトビネンコ氏は、なぜ殺された?
パイプラインの国際政治学
あかきゆめみし
竹島、尖閣、北方領土…
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 17:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月13日

食料自給率は、上げられない。

日本の食料自給率は約40%(カロリーベース)。
このままでは日本は食料危機に陥ると心配しているみなさん、自給率を上げる必要はありません。世界の食料は過剰生産気味で、世界食料危機が起こる可能性は極めて低くなっています。さらに日本の食料輸入先は先進国であり、政治的な理由で輸入がストップする可能性もほとんどありません。
そして…これ以上、食料自給率は上げられないのです。

「食料自給率」の罠

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日本の食料自給率の低さが問題視されていますが、穀物自給率に至っては32%。
食料自給率の高い国は、穀物自給率の高い国であり、穀物の生産には広大な土地が必要です。人口密度が高く平地の少ない日本で、穀物を低コストで生産することは非常に困難です。
休耕田や耕作放棄地をフルに活用して小麦を自給しても、食料自給率は50%程度。トウモロコシや大豆を自給するには、さらに広大な土地が必要となります。
仮に小麦を自給しても、一戸あたりの農地が狭い日本の農家では採算が合いません。採算を合わせるとなると小麦の価格は国際価格の7倍にもなり、国民生活に大きな打撃を与えます。小麦の自給は、生産者も消費者も幸せにはしないのです。

日本の農業生産額は世界第五位ですが、それは決して農業の強さを示すものではありません。
農産物の輸出額から輸入額を引いた純輸出額で見ると、世界最強の農業国は、穀物自給率がわずか14%のオランダです。オランダは日本と同様に人口密度が高く、穀物の生産には不利なのですが、広い土地を必要とせず付加価値の高い農産物に特化しています。
日本に適しているのは、野菜や畜産(牛を除く)といった広い土地を必要としない農業、言い換えれば工業化しやすい農業です。

著者は『「食糧危機」をあおってはいけない』が話題となった川島博之。豊富なデータで、日本の農業の真実の姿を明らかにしています。これほどわかりやすい農業の本は、他にないでしょう。
数字ばかりでなく、日本人の土地への執着と政治の問題という、農業における「情」の部分に切り込んでいるのも本書の読みどころです。

(9月11日読了)★★★★★

【不純文学交遊録・過去記事】
食料自給率に騙されるな!(前編)
食料自給率に騙されるな!(後編)
食糧危機は、やってこない。
農政に「NO」を!(前編)
農政に「NO」を!(後編)
ラベル:農業
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 16:28| Comment(4) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月17日

地球の危機か自由の危機か

2009年11月、英国イースト・アングリア大学の気候研究ユニットから、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のデータが捏造されていることを示唆するメールが流出しました(クライメイトゲート事件)。
地球温暖化そのものが陰謀だとは思いませんが、地球温暖化対策は自然科学の範疇を超えて、各国の政治的・経済的利害と密接に関わっています。そして地球温暖化対策が絶対の正義となってしまうと、それに対して疑問を呈することは非常に難しくなってきます。



ヴァーツラフ・クラウスはチェコ共和国第2代大統領(2003年より現職)であり、フリードリヒ・A・ハイエクやミルトン・フリードマンの自由主義思想を受け継ぐ経済学者でもあります。
第二次大戦後、社会主義体制となったチェコは、1989年のビロード革命で民主化を達成しました。自由が著しく制限された時代を体験したクラウスは、自然保護を絶対視する環境主義が、社会主義に代わって自由を脅かすことに危機感を表明しています。

経済学者であるクラウスは、環境主義者が掲げる予防原則に異を唱えます。すべての発電所を風力や太陽光に代えることが、エネルギー効率が良いわけではありません。環境対策は費用便益分析でなされるべきであり、未来への投資は割引率と時間選好によって決定すべきだとします。
環境主義による統制よりも、価格メカニズムや経済成長による技術革新が、環境問題を解決するとの主張です。

チェコの大気汚染は、社会主義時代よりも大幅に改善されました。だからといって市場原理に任せておけば環境問題が解決するとは思いませんが、イデオロギーが自由を危機に陥れるとのクラウスの警告は、環境問題に限らず肝に銘ずべきです。
宗教のもつ明確な特徴のひとつは、事実を突きつけらても信仰が揺るがないことだ
‐マイクル・クライトン


(8月9日読了)★★★★

【不純文學交遊録・過去記事】
泰平の眠りを覚ます宇宙線
空に太陽がある限り
温暖化論議は冷静に(後編)
温暖化論議は冷静に(前編)
底抜けニッポン(中編)
エコロジーの国際政治学
地球温暖化リテラシー
マルクスさんとマルサスさん
地球寒冷化に備えよ!
温暖化詐欺にご用心!(前編)
温暖化詐欺にご用心!(後編)
地球温暖化は繰り返す(前編)
地球温暖化は繰り返す(後編)
悪魔は目を覚ますのか?
マイナス6%の覚悟
地球の現代史・不確かな真実V
不確かな真実U
不確かな真実
悲観も楽観も、いけません。
ラベル:地球温暖化
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 00:42| Comment(31) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月21日

ドルの時代は続くのか

大幅な経常収支赤字が続き、消費過剰・貯蓄過少のアメリカ。
一方、輸出で外貨を獲得して貯蓄過剰のアジア新興国。
このような状態(グローバル・インバランス)は、いつまで持続可能なのでしょうか。



アメリカの経常赤字にも関わらず、ドルが下落せずに基軸通貨であり続けられたのは、アメリカが魅力的な輸出市場であり、流動性の高い発達した金融システムを備えていたからです。また、突出した軍事的優位性もあるでしょう。
各国は輸出に有利なよう、自国通貨の増価を抑えるためにドル買いし、ドルで外貨準備を蓄積しました。

かつてのブレトンウッズ体制は、OECDに加盟する比較的同質な経済体制をもつ国々によって成り立っていました。
しかし現在の世界金融市場(新ブレトンウッズ体制?)にはアジア・ラテンアメリカ・中東諸国などが加わり、ブレトンウッズ体制よりもはるかに同質性が低くなっています。これまでのように、各国が協調してドルを買い支えることで、国際金融システムの安定が図られるとは限りません。加えてユーロという選択肢もあります。

本書は国際金融論の大家であるバリー・アイケングリーンが、今後の通貨体制のあり方を歴史から検証しています。特にブレトンウッズ体制を水面下で支えた「金プール協定」の存在は、興味深い記述です。
日本が固定相場制から脱却した過程は、中華人民共和国の人民元が変動相場制へ移行する際のモデルとなるでしょう。
国際金融史がよくわかる本ですが、刺激的な提言や大胆な未来予測はありません。

原著は2006年の刊行。世界金融危機が表面化する前であり、当然ながら昨今のギリシア危機は織り込まれておりません。
著者は、複数の通貨がドルと並んで準備通貨の地位を分け合うシナリオを示唆していますが、さまざまな経済・財政状況の国家を抱えるユーロの脆弱さが露呈した現在では、ユーロの評価が過大な気がします。

(6月14日読了)★★★★

【不純文學交遊録・過去記事】
これがバブルだ!
アメリカは自滅したがっている?
それでもバブルは繰り返す
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 01:56| Comment(7) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月20日

食料自給率に騙されるな!(後編)

コメを減反しながら毎年約80万トンも輸入される、ミニマムアクセス米。
転作奨励金を払って生産しているのに質が悪くて使われない、国産小麦。
乳製品は豊富なのにバターだけが店頭から消えた、不透明な利権の存在。

無駄な農業保護を止めれば、財政支出を大幅に削減できるだけでなく、生活必需品である食料品の価格を下げることができます。そうすれば低所得者の可処分所得が増えて、消費の回復につながるでしょう。
農水省の廃止こそ、最強の経済政策ではないでしょうか。



やるべきことは日本の農業の効率化であり、安定した食料の確保です。
やるべきことをやった結果、自給率が上がろうが下がろうが関係ありません。
自給率を目的にすべきではないのです。

それでも食料はすべて自給すべきとの反論はあるでしょう。
例えば、フードマイレージやバーチャルウォーターの問題。食料の輸出入には、当然ながら多くのエネルギーを消費します。なるべく地産地消すべきだとの理屈に異論はございません。
では、工業製品はどうでしょう。日本がCO2排出を負担して製造した太陽電池やハイブリッドカーで、他国がCO2排出を削減しているわけですが、馬鹿馬鹿しいからやめろとでも言うのでしょうか。
何でも自給自足することが、経済効率が高いわけではないのです。
当blogにコメントを下さったyutakarlson様は、バーチャルCO2という概念を提唱しています。

あるいは、農業が日本の風土や文化を育んできたのであり、農業に経済の論理を持ち込むべきではない、農業は聖域だとの反論もあるでしょう。
私も、農業の文化的な価値を否定はしません。機械や化学肥料に頼らず、昔ながらの田園風景や里山を保全し、農耕神事などの伝統を継承する農家は、農業としてではなく重要無形文化財として保護すれば良いのです。

ツイッターで当方の提言に賛同された皆様、ありがとうございました。

(6月7日読了)★★★★★

【不純文學交遊録・過去記事】
食料自給率に騙されるな!(前編)
食糧危機は、やってこない。
農政に「NO」を!(前編)
農政に「NO」を!(後編)
ラベル:農業
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 22:29| Comment(6) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月18日

食料自給率に騙されるな!(前編)

本年1月1日から、Twitter(ツイッター)を始めました。
最初は140文字以内のつぶやきを投稿するだけでしたが、言論プラットフォーム『アゴラ』が提唱するツイッター討論「食料自給率を上げるべきか?」(#jikyuritsu)に参加したことで、ハッシュタグやリツイートといった、ツイッターの機能を理解することができました。
自分の発言が気に入ってもらえると、他の参加者がリツイートしてくれます。



日本の食料自給率は約41%で、先進国中最下位の危機的な状況にあるとして、政府・農水省は「FOOD ACTION NIPPON」なる国民運動を展開しています。
ところがコメはもちろん、スーパーの店頭に並ぶ肉や野菜はほとんどが国産品です。41%という数字は一体どこから出てきたのでしょうか。

農水省が発表する自給率は、カロリーベースの数値です。
国内で生産された農産物のカロリーには、農家が自給して市場に出回らない作物、生産過剰や規格外で廃棄される作物は含まれていません。実際の国内農業の生産力よりも過小評価されています。
また畜産物の場合、飼料自給率が乗じて計算されるため、輸入飼料で育った家畜は、国産であっても自給率ゼロです。

もうひとつの自給率の算出方法は、生産額ベースです。この場合、日本の自給率は約66%に跳ね上がります。さらに農業生産額は約8兆円、日本は世界第5位の農業大国なのです。
実は、食料自給率とは日本だけの政策目標であり、他国にはそのような指標すらありません。他国の自給率は、日本の農水省が計算したものです。
意図的に低くされた日本の食料自給率は、農産物の輸入自由化を阻止し、国内の農業利権を保護するための方便に過ぎないと著者・浅川芳裕(月刊『農業経営者』副編集長)は糾弾しています。

いくら生産額ベースの自給率が高くても、家畜の飼料は大部分を輸入に頼っており、貿易がストップしたら国内で肉の生産が出来なくなるとの反論があるかもしれません。
しかし、家畜の飼料だけを問題にしても意味はありません。石油の輸入がストップしたら、農業そのものを続けることが出来ないのです。
ちなみに貿易がストップすれば、食料自給率は100%になります。

6月19日放送のNHK教育テレビ『青春リアル』に登場する農水省キャリア官僚は、食料自給率100%を目指しているようです。頼むから止めて欲しい…

つづく
ラベル:農業
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 00:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月25日

改革者か?独裁者か?

4月18日、山田宏杉並区長をはじめとする地方自治体の首長らが、日本創新党を旗揚げしました。近年、東国原英夫宮崎県知事、橋下徹大阪府知事など中央に物申す改革派首長が注目を集めています。
ここにまたひとり、メディアを賑わせる首長が現れました。市職員の給与公開、辞めさせたい議員アンケートなど、ブログでの言動が波紋を呼んでいる鹿児島県阿久根市の竹原信一市長です。



独裁者“ブログ市長”の革命

鹿児島県北西部に位置する、人口二万四千人の阿久根市。農業と漁業が盛んですが、多くの地方自治体と同様、人口減少と高齢化に悩んでいます。市民の平均年収は200〜300万円程度。
ところが市職員の平均年収は655万円、しかも過半数の職員が700万円以上。退職金に至っては、一部上場企業・国家公務員をも上回る高額なものでした。

市民の利益よりも、自分たちの既得権益を優先する市職員。
市職員の言いなりで、議論をしない市議会議員。
父の経営する建設会社で働いていた竹原は、市役所や市議会の腐敗を告発するチラシ「阿久根時事報」を刷り、バイクで市内一万世帯へ配る活動を始めました。これが現在のブログ「住民至上主義」へとつながっています。

市民感覚とかけ離れた市役所と市議会に立ち向かう、竹原市長。たった一人(刺される覚悟で)、市政批判に立ち上がった勇気には、率直に敬意をします。
ブログでの問題発言や市議会との激しい対立から「独裁者」と批判され、どこかオカシイ人かと思っていましたが、語り口は意外にも冷静です。

地方分権、さらには地域主権という言葉が定着しつつあります。
道州制が導入されて県がなくなり、州のすぐ下が市町村になったら、今度は州都に一極集中するだけで地方はますます疲弊するのではないか…というのが本書を読んでの感想。

(4月19日読了)★★★★
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 22:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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