2009年03月23日

バラク・オバマと7つのアメリカ

2009年、第44代アメリカ合衆国大統領に民主党のバラク・オバマ氏が就任しました。
史上初の黒人大統領は、いかにして誕生したのか。その複雑なプロセスを越智道雄氏が追いました。



誰がオバマを大統領に選んだのか

アメリカは北から順に4つの文化圏に分けられ、それぞれの担い手は、出自も移民した時期も異なります。
北部帯文化圏
移民第2波で、ニューイングランドに上陸したピューリタン。民主的に運営される共同体(タウンシップ)は、WASP文化の良き遺産。
ミッドランド文化圏
クェーカー教徒による移民第3波。他宗派・他民族に寛容で、女性の地位も高い。
高地南部文化圏
最後発の移民で、荒涼たるアパラチア山脈に入植した荒くれ者。終末思想・キリスト教右翼と親和性が高い。歴代大統領を最も多く輩出している集団でもある。
沿岸南部文化圏
ヴァージニアに入植した最初の移民たち。イギリスから奴隷制度を持ち込んだ。
※WASP=White,Anglo Saxon,Protestant(白人・アングロサクソン・プロテスタント)

以上に加えて、さらに3つの文化圏を見だすことができます。
大盆地文化圏
モルモン教徒の聖地・ソルトレイクシティ周辺。
大ニューヨーク文化圏
数多くの人種が混在する、非WASPの首都。
南カリフォルニア文化圏
有色人種の人口が白人を上回る、ロサンゼルスが中心。

オバマ氏を支持したのは、ミレニアルズ(またはジェネレーションY)と呼ばれる人種を超えた若年層と、タウンシップの精神を継承する高給取りの白人男性層でした。
黒人とはいえ白人女性を母にもつオバマ氏は、奴隷の子孫ではなく(Obamaはアフリカ姓)、公民権運動への参加経験もありません。そのため当初は、黒人層の間でも彼への反発がありました。
しかも彼はアメリカ本土ではなく、ハワイ州の生まれ。オバマ氏はアメリカ社会における、絶対的アウトサイダーだったのです。

本選で敗れはしたものの、共和党の大統領候補者ジョン・マケイン氏が魅力的な人物であることも、本書は伝えています。
党派を超えた議会活動で、保守派よりもリベラル派から高い支持を得る「一匹狼」マケイン氏もまた、アウトサイダーです。そんなマケイン氏を擁しても、共和党はオバマ旋風に勝てませんでした。
これでますます共和党は右傾化し、南部を支持基盤とした地域政党に転落するとの見方を本書は示しています。

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2009年02月16日

農政に「NO」を!(後編)

「農業に経済の論理を持ち込むべきではない」とか「一生懸命お米を作るお百姓さんは美しい」などと、情に訴える農業聖域論にはウンザリします。
農業は自由化すべきだと考えていた私が共感できたのは、20年ほど前に出会った叶芳和氏の著作です。残念ながら、最近目にした彼の名前は選挙の落選結果でした(笑)。脳衰症…じゃなかった、農水省を飛び出した山下一仁氏には、是非とも期待しています。



農協の大罪 山下一仁

ウルグアイ・ラウンドの農産物自由化交渉に対し、農協はコメの自由化によって、日本の文化や生態系が破壊されるとのキャンペーンを張りました。
確かに水田には、水資源の涵養や洪水の防止といった、経済的な指標では計れない重要な機能があります。しかしながら、日本の風土を守るべき水田の減反を推し進めてきたのは、他ならぬ農協なのです。
また、農協が保護してきた兼業農家は、農業に手間暇をかけないために、大量の農薬や化学肥料を使用しています。実は大規模な農家ほど、環境負荷は低いのです。

農業の担い手は農家でなくて構いません。農業を企業化し、大規模化・高効率化を進めるべきです。
「農業はキツイ、ダサイ」では、農家に後継者がいなくなります。一方で農家の出身でなくても、農業に就きたい人はいます。日本の農業を持続させるためにも、農業を企業化すべきなのです。
たとえ安全で低コストであっても、大規模な機械化された農場で、サラリーマンによって生産されたコメや野菜なんて認めないと言う貴方。そんな貴方は、昔ながらの手作業で丹精込めて作った、高級ブランド作物をどうぞ。
農業の工業化を推し進める一方で、顔の見える農業も維持すべきです。職人的なカリスマ農家は、農作業神事の伝承やグリーンツーリズムといった、農業の文化的側面をも担います。こういった農家の保護・育成には、補助金を投じても良いでしょう。
どちらも受け容れられないと言う方は、どこでどう作られたのか判らない輸入作物を食べてください(笑)

私は決して食糧安全保障だの、食糧自給率向上だのを掲げるつもりはありません。
農業にまつわる規制や利権を撤廃し、農業をやりたい人や企業が、やりたいように出来る環境をつくる。その結果、農業が活性化すれば良いのです。

(2月10日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
農政に「NO」を!(前編)
ラベル:農業
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2009年02月15日

農政に「NO」を!(前編)

相次ぐ食品擬装に毒入りギョーザ事件、世界経済を襲った食糧・原材料価格の高騰…私たちの食への不安はつのるばかりです。
しかし我が国の食糧自給率は、わずか40%(カロリーベース)。
こんな日本に誰がした?



農協の大罪 山下一仁

こんな本を待っていました!
日本の農業をダメにした農協農林族議員農林官僚。「農政トライアングル」の大罪が、いま暴かれます。

コメには輸入禁止に等しい、778%もの高関税が課されています。
WTO(世界貿易機関)はコメの高い関税を認める代わりに、日本が低関税で一定量のコメを輸入(ミニマムアクセス)することを求めています。汚染米の不正転売事件の背景にあったのが、このミニマムアクセス米でした。
農業協同組合(農協)が高い関税を維持したいのは、コメの高い国内価格を維持したいからです。コメが高く売れれば、農家に高い肥料や農薬が売れます。
高い米価を支えているのはコメの供給制限、つまり減反です。政府は減反した農家に対して、補助金を出しています。補助金の原資は私たちが納めた税金であり、消費者は税金を払って高いコメを買わされているのです。

コメの内外価格差が縮小した現在、778%もの関税は必要ありません。関税を引き下げて減反をやめれば、コメの価格は大きく下がります。そうなれば日本のコメにも競争力が生まれます。
平時にはコメを輸出し、緊急時に備えて自給率を高める…本書は、自由貿易と食糧安全保障は両立するとの主張です。
日本の農業のGDPは4.7兆円(2006年)ですが、これは農業保護額とほぼ同じ。つまり保護がなければ、日本の農業のGDPはゼロ%なのです。
無駄な農業補助金をやめれば、財政支出は削減され、食料品の価格も下がり、農業が活性化します。これぞ景気対策ではありませんか!

以上は、ほんの序の口。
金融や保険の分野においても、わが国トップレベルの巨大企業体である農協。その真の姿を明らかにする、中身の濃い新書です。

つづく
ラベル:農業
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2009年02月03日

不思議の国・ロシア

賄賂、暗殺、不正選挙…まるでスパイ小説のような世界が現実に繰り広げられている国、それはロシア連邦です。



ロシアはどこに行くのか 中村逸郎

2007年12月の下院選挙では、ウラジーミル・プーチン大統領(当時)を比例代表名簿の筆頭に掲げた政党、統一ロシアが大勝。そして2008年3月の大統領選挙では、プーチンが後継指名したドミトリー・メドヴェージェフ第一副首相(当時)が、これまた圧倒的な勝利で第3代大統領に選出されました。
これらの選挙結果の背景には、やはり不正があったようです。本書には、実際に区議会議員から不正投票を指示された、区役所職員が登場します。
不正投票は行政ぐるみ。メドヴェージェフの得票率が90%に達した区では、不正を疑われることを恐れ、区長が得票率を80%に下げるよう支持を出しました。
一方、野党候補の得票を下回った村では、政府に水道を止められたとか…

メドヴェージェフ大統領とプーチン首相の、二頭立て馬車で引っ張るロシアの政治体制を、中村逸郎氏は「タンデム型デモクラシー」と呼んでいます。
しかし相変わらず存在感を示しているのは、大統領職を退いたプーチンです。
北京オリンピックに沸く2008年8月、ロシア軍のグルジア攻撃に世界は震撼しました。欧米諸国の批判に対し、メドヴェージェフは「新しい冷戦を恐れない」と、強硬な態度に出ます。
ところが、この発言はプーチンの不興を買ったようです。
強い指導者像を打ち出したメドヴェージェフに対し、プーチンはメドヴェージェフが実質的な最高権力者の座を奪おうとしていると受け取ったのです。その後、メドヴェージェフの外交姿勢は軟化しました。

プーチン政権を批判し続けたアンナ・ポリトコフスカヤアレクサンドル・リトビネンコの死は、未だ深い闇に包まれています。
謎の多いこの国から、今後も目を離すことができません。

(2月1日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
新たな冷戦
ロシアより“哀”をこめて
リトビネンコ氏は、なぜ殺された?
パイプラインの国際政治学
あかきゆめみし
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2009年01月04日

それでもバブルは繰り返す

本日は、世界金融危機を理解するのに非常に有効な一冊です。
サブプライムローンとはいかなる金融商品で、いかにして崩壊の道をたどったのか。本書には詳細な解説がなされています。



資本主義は嫌いですか 竹森俊平

サブプライムローンは、信用力の低い個人向けの住宅融資で、所得なし(No Income)・職業なし(No Job)・資産なし(No Asset)でも通ってしまうことから、NINJA(忍者)ローンとも呼ばれます。
数多くの住宅ローン債権を束にした証券が作られ、それに格付け機関がトリプルAのお墨付きを与えて売り出されました。まさに忍術のような金融商品です。
ところがサブプライムローンの歴史は浅く、債務不履行率のデータはごく短期間しかありません。しかもその間、アメリカの住宅価格は上昇傾向にあり、サブプライムローンの安全性は過大評価されました。
サブプライムローンの債務不履行の増加につれて、住宅バブルは崩壊しました。

アメリカの住宅バブルは、なぜ起こったのでしょうか。
明確な結論は下せないとしながら、本書では低金利政策に加えて、人々が住宅価格の上昇を期待した心理的な要因を挙げています。
世界各地でバブルが頻発する背景には、「金融資産の超過需要」と「実物資産の超過供給」という、世界経済の不均衡があるといいます。そこで新たな投資対象を作り出して、バブルが生み出されているのです。

世界経済の不均衡とは、世界的な貯蓄過剰であり、それは経済成長率の高い新興国の貯蓄過剰です。
バブルを起こさないには、どうすればよいのでしょうか?
ひとつは、世界経済全体を低成長にすることです。経済成長率が低下すれば、資源・食糧価格の高騰や地球温暖化も緩和されます。
経済成長を維持するのであれば、新興国での投資対象を増やす方法があるでしょう。
しかし、いずれも容易ではありません。

バブル経済を発明したのは、稀代の天才にして詐欺師と評価されるスコットランド生まれの実業家ジョン・ローであるといわれます。
本書の第T部では、ジョン・ローで始まりジョン・ローで終わる物語を通して、資本主義経済の本質が浮かび上がってきます。
第U部と第V部は金融についてのテクニカルな議論ですが、第T部は経済を学んだことのない人にも読みやすい内容です。

(1月4日読了)
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 17:40| Comment(2) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月02日

2009年、世界をより良くするために

皆様、あけましておめでとうございます。
昨年は(も)、金融危機や無差別殺傷事件といった、暗いニュースが数多くありました。今年は良い1年でありますように…
しかし、祈るだけでは社会は良くなりません。
世界には戦争・飢餓・環境破壊など、さまざまな難題が山積しています。これらの課題に私たちはどう取り組むべきなのでしょうか。



五〇〇億ドルでできること ビョルン・ロンボルグ

世界のために500億ドルを自由に使えるとしたら、なにを優先に、いくらお金を注ぎ込むべきか…ノーベル賞(スウェーデン銀行賞)受賞者を含む、世界の著名な経済学者が、デンマークのコペンハーゲンに集結して、議論を戦わせました。
地球温暖化・感染症・内戦・教育・政治腐敗…など、それぞれのテーマごとに対策の費用対効果が論じられ、さらに別の論者が反論を加えているのが本書の特徴です。
最も緊急で効果が高いと判定されたのは、HIV感染症対策でした。次いで栄養失調対策。3番目には、全く費用がかからずに経済効果が大きいとして、自由貿易の促進が挙げられています。

コペンハーゲン・コンセンサスを主催したのは、環境保護主義を批判して賛否両論を巻き起こした、統計学者のビョルン・ロンボルグ。ランク付けされた17の対策のうち、気候変動に関するものがワースト3を占めたことで、大きな注目を浴びました。
また地球温暖化論批判か…と言われそうなので付け加えておきますと、炭素税や京都議定書は費用が便益を上回るとして否定されましたが、炭素削減技術への投資は比較的高く評価されています(第2回会議では30項目中14位)。国際金融の不安定性については、複雑で不確実なことから、ランク付けすらされていません。

本書に対して、全く質の異なる問題を比べて優先順位をつけるべきなのか、費用便益だけで物事を決めてよいものかと、批判される方もいらっしゃるでしょう。
では、日々の政策決定は、本当に合理的になされているのでしょうか?
政治家や官僚や企業・団体の利権、マスコミの注目度などに左右されてはいないでしょうか?
そこに気付くだけでも、読む価値のある一冊ではないかと思います。
国際会議の報告書なので、読み物としては面白くありませんが…

COP15(気候変動枠組条約第15回締約国会議)は、今年12月にデンマークのコペンハーゲンで開催されます。コペンハーゲン・コンセンサスの影響はあるのか…非常に気になるところです。
麻生総理も「2兆円で出来ること」をじっくり考えたうえで、政策を決定してくださいね。

(1月2日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
悲観も楽観も、いけません。
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 23:48| Comment(6) | TrackBack(2) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月30日

「トヨタショック」は超えられるか

まもなく過ぎ去ろうとしている2008年。
前半は原材料価格の高騰、後半は金融危機と世界経済が大きく揺れた1年でした。
アメリカ発の金融危機を受けて、東京株式市場も暴落。さらに急激な円高が日本の輸出産業を襲いました。
昨年は日本企業で初めて2兆円を超える利益を計上したトヨタ自動車が、本年度は一転して通期で赤字になる見通しを発表(12月22日)。自動車産業をはじめとする製造業は、非正規雇用者の契約を打ち切る「派遣切り」を実施。「トヨタショック」は今も続いています。



クルマ界のすごい12人 小沢コージ

本書の発行は、今年6月。原油高の影響は出ていますが、世界金融危機が顕在化する前です。日米の自動車市場は縮小しつつあるが、BRICsなど新興国市場は順調に伸び続け、トヨタは2009年にも年間1000万台を突破するだろうとの見込みのもとに書かれています。
世界経済の混迷に加えて、環境・エネルギー問題もあり、自動車産業が今後も成長産業たりえるかは不透明な情勢です。それでも人間に移動欲、所有欲、そしてスピードへの欲望がある限り、自動車は大きな産業であり続けるでしょう。

本書に登場する偉大なクルマ業界人は、輸入車販売大手ヤナセの故・梁瀬次郎氏やスーパーカー「大蛇」を生んだ光岡自動車の光岡進氏などビジネス界でもおなじみの面々から、ゲームソフトやチューニングカーなどサブカルチャー分野に至るまで、総勢12人。いずれも特異な才能や、誰にも負けない執着心を持った達人たちです。
クルマに興味がない方でも、起業家列伝として読み応えがあります。
個人的には、日産自動車からアウディへ移籍したデザイナー・和田智氏が出ていたのが嬉しかったです。

日本は少子高齢化による市場縮小に加えて、若者のクルマ離れが指摘されています。クルマがかつてのような憧れの存在でなくなり、若者の娯楽が多様化したことが背景として挙げられるでしょう。それに加えて、日本の自動車メーカーが「クルマの白物家電化」を推し進め、スポーツカーの開発に消極的になったことも大きな要因ではないでしょうか。
しかしながらゲームソフト「GranTurismo」シリーズは、何千万本も売り上げた大ヒット作。もしかすると日本の若者は、3次元のクルマを所有することよりも、2次元のクルマを操ることに「萌えて」いるのかも?

(12月30日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
リコール!その時あなたは…
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 23:13| Comment(4) | TrackBack(3) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月15日

「埋蔵金男」の告白

12月1日に発表された、2008ユーキャン新語・流行語大賞。身近で「グ〜」なんて言ってる人を見たことはありませんが、「埋蔵金」「居酒屋タクシー」「あなたとは違うんです」など、政治から生まれた言葉が多かったのは印象的でした。
霞ヶ関埋蔵金の存在を暴いたのが、財務官僚だった高橋洋一氏です。



さらば財務省! 高橋洋一

高橋洋一氏は1980年、大蔵省(現・財務省)に入省しました。
東大法学部同窓会のような財務省において、東大理学部数学科出身の高橋氏は、まさに異色の存在です(大蔵省の採用には「変人枠」があるとか)。
中学生で大学レベルの数学を理解できたという高橋氏は、研究者の道を志していたのですが、ゼミ仲間がみんな公務員試験を受けるというので、ついでに受けたところ見事合格。官僚への道を歩み始めます。

数学とは縁のない世界に入ってしまったと少し後悔した高橋氏ですが、大蔵省で頭角を現すきっかけとなったのは、天性の数学の才能でした。
大蔵省が郵便貯金を借り入れて、政府金融機関や特殊法人に融資する財政投融資(財投)。高橋氏は、財投が全く金利リスクを考慮していないことに気付いたのです。大蔵省にリスク管理システム(ALM=Asset Liability Management)を導入した高橋氏は、大蔵省中興の祖とまで呼ばれました。

高橋氏の人生を大きく変えたのが、入省三年目に大蔵省に出向してきた、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)の竹中平蔵氏との出会いでした。小泉内閣が発足し、竹中氏が経済財政政策担当大臣に就任すると、高橋氏は旧知の竹中氏からブレーンとして招かれます。
日本道路公団の民営化論争では、債務超過だとされた道路公団が、将来の収入を含めて計算すると資産超過であることを明らかにし、民営化を大きく前進させました。
そして郵政民営化では、郵便・郵貯・簡保に窓口業務を行う郵便局会社を加えた四分社化を提案し、民営化に移行する際のシステム構築に尽力しました。

麻生太郎首相は、3年後の消費税率アップに言及しています。
日本の政界には、経済成長によって増収を目指す「上げ潮派」と、消費税率アップによって財政再建を図る「財政タカ派」があります。さて、日本の財政は本当に危機に瀕しているのでしょうか?
日本国は800兆円もの債務を抱えていますが、一方で500兆円に上る多額の資産も保有しています。日本の財政赤字が騒がれて日本の国債の格付けが引き下げられた際に、財務省は「日本は財政危機ではない」と反論しました。財務省は「埋蔵金」の存在を認めたのです(ただし、年金制度は破綻寸前)。
財政再建のシナリオは、まずデフレ脱却⇒政府資産の圧縮⇒歳出削減⇒制度改革。そして最後が増税です。

官僚すべてを敵に回した高橋氏。もう霞ヶ関には戻れなくなりました。しかしコンテンツ・クリエーターとして多くの政策を実現した高橋氏に、心残りはありません。
変人宰相と呼ばれた小泉純一郎氏は、変人とは変革する人のことだと切り返しました。ただし、変人が常に大物になれるわけではありません。変人が変革者になれたのは、凡人にはない特技(高橋氏の場合は数学)があったからだと思います。

(12月14日読了)
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 18:30| Comment(0) | TrackBack(2) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月24日

お金の価値はどこにある

アメリカのサブプライムローン崩壊に端を発した、世界金融危機。失われた資産は1兆4千億ドルにも達する(ゴールドマンサックス)そうです。
あっという間に弾け飛んでしまった、世界中の膨大なお金。文学部出身である私は、経済・金融政策よりも、そもそも「お金とはナニモノなのか?」に強い興味があります。



貨幣の経済学 岩村充 著

本書は、お金=貨幣とは何か、貨幣の価値はどこから生まれているのか、基本に立ち返って考えようとの主旨です。
まずは貨幣の起源から幕末の日本を襲ったインフレ、金本位制の時代を経て現在の変動相場制に至る、お金の歴史が語られます。
お金の価値とは、全くのバブルに過ぎないのでしょうか。それとも社会には、お金の価値をつなぎとめるアンカー(錨)のような存在があるのでしょうか。
お金の価値の拠り所となるものとして、金や土地や株式などが候補に挙げられます。そして最終的には財政(具体的には国債)こそが貨幣価値のアンカーであるというのが、本書の主張です。

わが国は600兆円もの国債残高を抱えています。このままでは日本国は破産してしまうのでしょうか?
本書の回答は「NO」です。政府の財政力が不十分なら、国債の価格は下落します。国債の実質価値が値下がりするということは、貨幣価値の低下を意味します。貨幣価値の低下とはイコール物価の上昇であり、国の財政力に不安が生じたときに起こるのはインフレであって、国家の倒産ではないのです。
ただし国家が倒産しないのは、国債が自国立て通貨である場合に限ります。外貨建て国債は、その国の財政不安から通貨価値が下落しても、実質返済負担は変わりません。外貨建て国債を大量に発行している国は、税収不足に陥ると破綻します。

麻生内閣は景気対策として、すべての国民に総額2兆円の定額給付金を支給することを決めました(具体的な支給方法や高額所得者への給付をどうするかで、もめていますが…)。一人当たり1万2千円(子供と高齢者は2万円)、果たして効果はあるのでしょうか?
ここに「マイナス金利の貨幣」というアイデアがあります。時間が経つと価値が減少していくお金で、もともとは「地域通貨運動の教祖」シルヴィオ・ゲゼルが提案したものです。単なるバラマキでは貯蓄に回ってしまうお金も、時間とともに価値が下がるのであれば、価値があるうちに使わざるをえません。
ゲゼルは紙幣にスタンプを押すことでマイナス金利を実現しましたが、現代には電子マネーというものがあります。電子マネーならば、貨幣そのものにプラスでもマイナスでも、自由に金利が付けられます。
自然利子率(モノの価値)がマイナスになった時は、名目金利(貨幣の価値)をマイナスにすることで、流動性の罠(金利が一定水準を下回ると、いくら貨幣の供給を増やしても消費や投資が増えない)を回避することができるというのです。

本書は経済学を学んだことがない人にでも、インフレやデフレのメカニズムが解りやすく書かれています。
ただ、文末の記述は「思っている」「考えている」が多くて、金融理論には確たるセオリーはないのかな?とも感じました。

最後まで読んでも私には、やはりお金の価値とはバブルではないかとの疑念は晴れませんでした。
ヒトはなぜお金(マネーおよびゴールド)に魅せられるのか?
実は経済そのものが、人類が生み出した巨大なバブルではないのか?
…文学的な問いには、そう簡単に解答を得られそうにありません。

(11月17日読了)


マイナス金利をめぐって
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 19:43| Comment(26) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月04日

エコロジーの国際政治学

不純文學交遊録は、地球環境問題に関する書物といくつか交遊してきました。
地球温暖化は、いつ頃から世界的な関心を集めるようになったのでしょうか。
久しぶりに古い本(1994年刊)を引っ張り出してみました。



地球環境問題とは何か 米本昌平 著

1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された、地球サミットを受けて書かれた本です。医療・生命倫理についての著作で知られる米本昌平氏は、NGO(町田の自然を考える市民の会)のメンバーとして地球サミットに参加しました。
当時は地球環境問題といえば、熱帯雨林の減少が最も世間の関心を集めていたと記憶しています。だからこそ世界最大の熱帯雨林・アマゾンを擁するブラジルが、サミットの会場となりました。熱帯雨林は生物資源の宝庫でもあり、生物多様性の保護が謳われたのも地球サミットの特徴です。

本書を改めて読み返してみますと、温暖化は地球サミット以前から既に国際的な議題となっていました。
二酸化炭素の増加による温暖化は古くから指摘されていましたが、地球温暖化が政治の表舞台に登場したのは、1988年にアメリカ上院公聴会でなされたJ・ハンセン氏の証言です。アメリカの穀倉地帯は前年から大干ばつに見舞われており、ハンセン証言は地球規模の異変を強く印象付けることになったのです(ただし実際の大干ばつの原因は、エルニーニョ現象だったようです)。

米本氏は、地球環境問題が国際政治の議題となった背景に、東西冷戦の終結があると指摘します。
そして地球環境問題は、安いエネルギー価格による大量消費を是としてきたアメリカ的価値観に終焉を迫るものです。
一方でアメリカには圧倒的な科学研究の蓄積があり、地球環境問題はアメリカのデータをもとにアメリカを批判するという不思議な様相を呈しています。

かつても今も、地球環境問題には先進国と途上国の対立があります。既に豊かさを享受している先進国に対し、これから経済成長を目指す途上国にとって、消費の削減は容易に受け入れられるものではありません。
では、どうすれば良いのでしょうか。一例として、これまた古い本ですが、栗本慎一郎氏は『幻想としての文明』(1990年刊)で「南米は酸素を商品として世界市場に供給せよ」と提案していました。

以下、米本氏の地球環境問題に対する立場を引用します(47〜48P)。
来世紀になって地球温暖化の予測が誤りであることがわかったとしても、後世に残るのは、省エネルギーや公害防止に対するノウハウとその装置の山である。地球環境問題とは、将来の世代にとって、何と幸いな脅威であろう。
この本の中で私は、地球温暖化論の科学的根拠が曖昧であることを指摘はするが、それは私が、それを理由に、世界が地球環境問題の対策に邁進することに反対であることを意味しない。
(中略)
現代社会は、地球環境問題という新しい課題を発見し、これへの対応をやれるだけやってみたらよい。こういう視角から社会も国も企業も個人も揉まれ、もう一段高い質の社会に到達すればよいのである。

(11月3日再読)


地球温暖化に対する当blogの見解
ラベル:地球温暖化
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