2008年09月07日

新たな冷戦

北京オリンピックが開幕した2008年8月8日、グルジア共和国は同国からの分離独立を図る南オセチア自治州に武力侵攻、これに対しロシア連邦が軍事介入しました。
ロシアは南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の独立を承認し、グルジアはロシアとの外交関係断絶を表明。事態は混迷を深めています。

スターリンの出身国として知られるグルジア。ソビエト社会主義共和国連邦の崩壊によって独立し、親欧米路線を強めています。
旧東欧諸国が次々とNATO(北大西洋条約機構)に加盟し、ポーランドにはアメリカのMD(ミサイル防衛システム)が導入されました。欧米諸国の包囲網に警戒を強めるロシア。これは新たな冷戦の幕開けなのでしょうか。



ロシア語られない戦争 常岡浩介 著

ロシアとグルジアの対立は、チェチェン紛争とも無関係ではありません。
グルジアはチェチェン紛争に中立的な立場をとっていますが、チェチェン独立派がグルジア国内を移動することを事実上黙認しています。
チェチェン人はイスラム神秘主義(スーフィ)を信奉する、カフカース地方(黒海とカスピ海に挟まれた地域)の先住民族。チェチェン独立派は、自らを聖戦士(ムジャヘッド)と呼んでいます。

日本で報道されるチェチェン紛争はロシア側の主張ばかりであるとして、チェチェン・ゲリラに従軍取材したのは、ジャーナリストの常岡浩介氏。
数々の戦地を訪れてきた常岡氏にとっても、チェチェンでの取材は生死の淵をさまよう苛酷なものでした。三週間も食糧補給がなく、極限の飢えと渇きのなかでカフカス山脈を行軍。その間、仲間たちは敵弾で次々と命を落とします。
生き残った者も、その後の戦闘やロシア軍の掃討作戦によって「殉教」したそうです。

本書は終始チェチェン人側の立場から書かれており、著者自身、この本一冊でロシアについての理解を完結すべきではないと語っています。それでもロシアの民族紛争の実態に迫った、貴重な記録であることに変わりはありません。
巻末には、2006年11月にロンドンで放射性物質ポロにウムを盛られて暗殺されたアレクサンドル・リトビネンコ氏のインタビューを掲載。FSB(旧KGB)の不気味さが印象に残ります…

(9月1日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
リトビネンコ氏は、なぜ殺された?
ロシアより“哀”をこめて


posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 23:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月20日

いつか石油が無くなる日

今年(2008年)1月、ニューヨークの原油先物市場価格は史上初めて1バレル=100ドルを突破しました(1バレル=158.987295リットル)。
7月に入って原油価格は、ついに145ドルを記録。このところ下落しているものの、依然として高い状態にあります。

原油高の背景には商品市場への投機マネーの流入、新興国の経済成長による石油需要の伸びが挙げられます。今のところ、石油が不足しているわけではありません。
しかしながら近い将来、石油の生産量が頭打ちになり、需要の伸びを満たせなくなる日が来るとの予測があります。それがピークオイル論です。



地球最後のオイルショック デイヴィッド・ストローン 著

石油産出量がピークに達すると、その後減少に転じ、二度と上昇することはない。
ピークオイル論は、1956年にマリオン・キング・ハバートが米国石油協会で発表した論文に端を発しています。ハバートの予言どおり、アメリカの石油産出量は1970年以降、減少に転じたのでした。
ピークオイルは石油の枯渇ではありませんが、石油の埋蔵量の半分が採掘されたことを意味し、その後は石油を増産することは不可能です。
石油業界は既にピークオイルが近いことを認識しており、それは2010年代の半ばに訪れると考えられています。

石油に代わるエネルギーを手に入れることは、人類の大きな課題です。
水素・風力・太陽光などの研究がなされていますが、水素の生産には大量のエネルギーを消費し、風力で電力をまかなうには膨大な数の風車、太陽光発電には想像を絶する面積のソーラーパネルが必要となります。代替エネルギーに対する本書の展望は、かなり否定的です。
石油は燃料のみならず、原料(プラスチック)としても広く用いられています。植物からプラスチックを製造することは可能ですが、それには大量の穀物を転用することになり、バイオ燃料と同じ問題を抱えることになります。
農業生産に石油が欠かせないことも、忘れてはなりません。現代文明は、石油なしに成り立たないのです。

著者デイヴィッド・ストローン氏はイギリスのジャーナリストで、本書の執筆にあたり世界の石油関係者170余名に取材したといいます。イラク戦争の舞台裏から代替エネルギーの展望まで、石油をめぐる世界の動きを追った読み応えのある一冊です。
埋蔵量の豊富な石炭や天然ガスの利用は、石油よりも二酸化炭素の排出量が増えるから良くないとの主張は、いかにもIPCC発祥の地であるイギリスの人ですね(笑)

食糧・エネルギー問題は、地球温暖化よりもはるかに重要です。
いまも地球の人口は増え続けており、新興国の経済成長によりエネルギー消費は増加の一途をたどっています。
人類の歴史の大部分は、化石燃料なしでやってきました。化石燃料が枯渇しても人類は生きて行けますが、維持できる人口はかなり少なくなるでしょう。
文明を永続させるためには、もしかすると人類の二人に一人は安楽死を選択せざるを得ない時代がやって来るのかもしれません。
あるいは、人類はこのままエネルギーを過剰に消費し続け、狂乱のさなか滅亡に至るというバタイユ的世界観も、私は否定しませんが。

(7月20日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
パイプラインの国際政治学
よ〜く考えよう、石油は大事だよ♪


続きを読む
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 23:55| Comment(14) | TrackBack(3) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月30日

小粒でもピリリと辛い国

8月8日に北京で開幕する第29回オリンピック。
前回(2004年)のアテネ大会には、202の国と地域が参加しました。

世界には193の独立国(国際連合加盟の192ヶ国とバチカン市国)がありますが、うち44ヶ国は人口が100万人に満たない小国家です。



世界の小国

太平洋には小さな島嶼(とうしょ)国が数多くあります。
人口が一万人に満たないツバル。海抜はわずか数メートルで、サンゴ礁の土壌は農業には適していません。水損資源は豊富ですが、自前で大規模な漁業は行えず、外国漁船から入漁料を徴収しています。
そんなツバルの意外な収入源が、ドメイン名ビジネスです。日本に割り振られたドメインは「.jp」で、ツバルなら「.tv」。これがテレビ局にとって非常に魅力的で、アメリカのdotTV社が支払ったドメイン使用料でツバルは国連加盟を果たしました。

太平洋のミニ国家が産業に乏しく国民所得が世界の最貧レベルなのに対し、カリブ海地域は比較的裕福です。
主な産業は砂糖やバナナなどの農損物ですが、モノカルチャー経済からの脱脚を目指し、カリブ海諸国は観光業に力を入れています。巨大市場アメリカから地理的に近いことも、観光客の誘致に有利です。
とりわけ国民所得の高いバハマは、観光に加えて世界的なタックスヘイブン(租税回避地)として知られています。
タックスヘイブンとほぼ同義語にオフショアがありますが、オフショアの意味は「沖合い」です。本国から離れた沖合いの小島が、本国よりも自由な経済環境によって金融資産を集めたことに由来します。

第二次世界大戦後に独立した太平洋・カリブ海諸国と異なり、ヨーロッパの小国は長い歴史を持っています。大国が覇権を競うなか、したたかに生き抜いてきた国々です。
なかでもルクセンブルクは、高い経済成長率を維持し、一人当たりのGDI(国民総所得)は世界一です。かつて産業の主力は鉄鋼業でしたが、現在は金融業にシフトして世界各国から投資を集めています。
隣接するドイツとフランスの領土的野心に晒されてきたルクセンブルクにとって、ヨーロッパの平和と安定は悲願であり、EU統合の中心的な役割を果たしてきました。資源や領土に恵まれなくとも、巧みな外交で存在感を示しているのです。

世界第2位の経済大国・日本ですが、今後人口は減少に向かっています。
労働力として、積極的に移民を受け入れるのか。
東洋のオフショアとなり、金融大国を目指すのか。
歴史と自然を生かして、観光立国で生きてゆくのか。
それとも独自の外交で、超大国と互角に渡り合うのか。
日本の未来を考えるうえで、小国たちの生き残り戦略には大いに学ぶべきものがありましょう。

(6月29日読了)
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 01:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月02日

ロシアより“哀”をこめて

経済成長が著しい国といえば中華人民共和国インドの名が挙げられますが、忘れてはならないのがロシア連邦です。
ロシア(JETRO国・地域別情報)
原油をはじめとする原材料の国際価格が高騰するなか、資源大国ロシアはますます存在感を強めています。オイルマネーに潤う経済、そして退任後も最高権力者として影響力を行使し続けるであろうウラジーミル・プーチン大統領、これはロシア帝国の復活なのか…
ロシアの動向からは今後も目が離せません。



虚栄の帝国ロシア

好調なロシア経済を支えているのは、1500万人もの旧ソビエト連邦諸国からの不法就労者なのだそうです。
プーチン政権が、旧ソ連諸国からの出稼ぎ労働者を積極的に受け入れる政策を打ち出す一方、就労許可申請はなかなか下りず、結果として彼らは不法就労者となります。
彼らの出身国はタジキスタンアゼルバイジャンアルメニアモルドヴァなど。建設現場、フリーマーケット、清掃作業などの低賃金労働に従事しています。朝からウォッカをあおるロシア人と違って、酒も煙草もご法度のイスラム教徒は、とても勤勉との評判です。
ロシア経済の影の部分を担う彼らは、黒い髪の色とあいまって「黒い労働者」と呼ばれています。

モスクワへ向かう出稼ぎ列車の車掌は、無料で配られるはずのロシア出入国カードを乗客に売りつけます。
不法就労者を取り締まる警察官は、彼らの職場を訪れて、見逃すかわりに賄賂を要求します。
正規の雇用契約のない彼らに代わって、企業に名義を貸すことで不労所得を得ている一般のロシア市民もいます。
不法就労者たちは、あらゆる場面でお金を巻き上げられているのです。
そして、事故や病気と隣り合わせの劣悪な労働環境。また、スキンヘッドの不法移民反対運動組織も彼らの平穏な生活を脅かしています。
それでも本国の平均賃金の何倍もの収入を手にする「黒い労働者」たち。
ロシア以外の旧ソ連諸国の経済が、いかに疲弊しているかがわかります。
ロシアとは、周辺諸国からピンハネすることで経済が成り立っている、虚栄の帝国だったのです。

著者・中村逸郎氏は、モスクワ留学経験のある政治学者。
不法就労者とその雇い主、労働者の実態を見て見ぬ振りする役人、そしてスキンヘッド・グループの代表に接触するなど、ロシアの暗部に生々しく迫った渾身のレポートです。

(4月28日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
リトビネンコ氏は、なぜ殺された?
パイプラインの国際政治学
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 18:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年04月06日

その道路、必要ですか?

2008年4月1日、長年続いてきた揮発油税・自動車取得税などの暫定税率が期限切れとなりました。ガソリンの価格は揮発油税と地方道路税をあわせて、1リットルあたり約25円引き下げられたことになります。
原油高をはじめとする、物価上昇に直面している国民生活にとって歓迎すべき事態ですが、一方で地方自治体の首長からは「必要な道路が造れない」と暫定税率復活を強く求める声が上がっています。



この高速はいらない。

日本中で計画されている高速道路、果たしてそれらは必要な道路なのか。ちょっと古い本(2002年刊)ですが、気になったので読んでみました。
著者・清水草一(またの名をMJブロンディ)氏は、自動車雑誌を中心に活躍しているライターです。『港区ではベンツがカローラの6倍売れている』、『フェラーリがローンで買えるのは、世界で唯一日本だけ!!』などユニークなタイトルの著作で知られ、道路問題にも積極的に取り組んでいます。

清水氏は、全国各地の高速道路計画地の既存道路を実走して、その区間の高速道路の必要性を検証しました。
高速道路の必要度は、1.渋滞緩和効果、2.時間短縮効果、3.ネットワーク効果(他の路線と接続効果)、4.地域振興効果として採点しています。その地域に有力な産業や魅力的な観光地がなければ、高速道路はかえって人口を吸い出す結果ともなりかねません。
また、道路建設費が料金収入でペイするかどうかは、コストパフォーマンス指数として評価しています。ただ、道路は公共財ですから、必要度が高ければ収入は多くなくとも建設は進めるべきです。

まず検証されるのは北海道。高速並みのペースでスムーズに流れる立派な国道があるのに、並行して高速道路を建設しても、わずかな時間短縮のために料金を払うドライバーはいません。
「北海道には、これ以上高速道路はいらない」と主張する清水氏は、80〜90km/hの最高速度を許容する快速国道を提案しています。既存の国道の歩車道分離を徹底し、中央分離帯を整備して、高速道路並みに流れるようにするのです。一方、住宅地や商業地を通過する部分は、制限速度を抑えて取り締まりも強化し、安全を確保します。本書にはこの快速国道が、高速道路の必要度が低い地域の代替案としてたびたび登場します。

日本で最も道路整備が遅れているという、東国原英夫知事の宮崎県はどうでしょうか。
本来は直線的に建設されるべき高速道路ですが、鹿児島市と宮崎市を結ぶ東九州自動車道のルートは、地形に関係なく不自然に遠回りしているのです。「わが町にも高速を」の声に応えようと、それぞれの地方都市を通過させた「いらない高速道路の見本」だと清水氏は酷評しています。

清水氏が最も整備が必要だと訴えるのは、慢性的な渋滞に悩まされる首都高速道路です。建設コストは莫大ですが、それでも最優先で取り組むべしと。
ただし、首都圏の慢性的な渋滞を根本的に解決するには、東京一極集中の見直しが求められるでしょう。清水氏は理想的な道路環境にあるとして、名古屋への遷都論に触れています(皇居は東京に残し、政治は名古屋、経済と文化は東京と首都機能を分業)。

本書で論じられる日本全国の高速道路。その評価が妥当かどうかは、地元の読者ひとりひとりに判断していただきたいと思います。

(4月1日読了)

【関連サイト】清水草一オフィシャルサイト
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 23:40| Comment(6) | TrackBack(1) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年03月16日

現代の予言者

パソコンに携帯電話に薄型テレビ…次々と新製品が発表されるデジタル家電は、いつが買い時なのか多くの人が迷います。

より小型化・高性能化するデジタル機器。現在のIT産業の急激な発展を、半世紀前に予言した人物がいます。
1956年、ゴードン・ムーアは半導体の集積度は毎年2倍の比率で増加し、この傾向は今後も続くと述べました。この経験則がのちに修正され「半導体の集積度は18ヶ月で2倍になる」というムーアの法則が生まれたのです。
自動車のコストダウンをいくら進めても、原材料の鉄の価格以下にはなりません。しかし半導体の材料となるシリコンは地球上に豊富に存在し、資源の希少性がボトルネックとならなかったのです。



過剰と破壊の経済学

あまり多くのサイトに目を通していない私ですが、池田信夫blogは愛読しています。本書で池田氏は、ムーアの法則がもたらしたインパクトを踏まえて、今後の日本のIT社会が進むべき道を指南しています。

半導体の集積度だけでなく、ハードディスクの容量や光ファイバーの通信速度も劇的に増加しています。インターネットでの動画視聴もスムーズになりました。
テレビ番組がデジタル化されれば、放送専用の設備は必要なくなり、インターネットで番組を流すことが出来ます。地上デジタル放送なんて必要ありません。電波の空きが増えれば、携帯電話がさらに有効に使えます。
しかし、放送と通信の融合に猛反対しているのがテレビ局です。いまや日本のIT産業発展のボトルネックとなっているのは、電波の希少性でも光ファイバーの通信速度でもなく、既得権益者であるテレビ局なのです。

IT産業のように変化が急激で予測困難な分野で、政府が閣僚や財界トップによる戦略会議なんかを開くのは、全くもって有害無益。選択肢を狭めて産業をミスリードするだけです。iPod、iMacなどのヒット作を生み出したスティーブ・ジョブスのビジネスだって、その多くは失敗でした。しかしIT産業では一発大きく当てればいいのです。
それでも1億人以上の人口を有する日本では、ある程度の市場が確保できるため、国際競争力のないメーカーが何社も共存できてしまいます。これがパラダイス鎖国と呼ばれる状態です。典型的なのが携帯電話端末で、世界市場での主要業者は5社しかないのに、世界シェア9%の日本市場には11社(外資と合弁のソニーエリクソンは除く)がひしめき合っています。

今後のボトルネックは著作権プライバシー権だと池田氏は言います。
IT社会のみならず、日本経済の未来を展望するうえで刺激的な提言にあふれた一冊です。

(3月10日読了)

【関連サイト】
池田信夫blog
【不純文學交遊録・過去記事】
発覚!あるある大利権
日本のメディアは杉林
2011年、テレビをまだ見てますか


管理人のひとりごと
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 11:38| Comment(18) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月26日

保守が保守であるために

構造改革の名のもとに行われた新自由主義的な経済政策。
靖国神社の参拝を公約に掲げたり、戦後レジームからの脱却を主張した総理大臣。
反日的な態度をとる諸外国(特定アジア)に反発する若者たち。
近年の日本は「若者の右傾化」「一億総保守化」などと言われますが、本当にそうなのでしょうか?
今の保守は「アンチ左翼」でしかないと訴える中島岳志氏が、戦後日本を代表する保守思想家と仰ぐ西部邁氏に対談を望みます。



保守問答

人間の理性を最大限尊重し、社会は人間の手によって理想的な形に設計することが可能だとする近代主義。
しかし、人間の理性には限界があることを悟るのが保守主義です。

フランス革命の掲げた「自由・平等・博愛」は左翼の言葉であり、左翼とは別名・純粋近代主義です(社会主義も近代主義の1ヴァリエーション)。そしてフランス革命の理想を最もラディカルに体現した国アメリカこそ、世界一の左翼国家であると西部氏は言います。
アメリカ追従が「保守」ではないのです。

「公の精神」とは「お上への従属」であるとするのも自称・保守の勘違いです。
公(おおやけ)とは市民的公共圏であるとする中島氏は、政府が間違った方向に進もうとしている時に言論や行動でもって正すことも、重要な公の精神であると言います。
ただし、政府が横暴をすることもあるからといって「政府はいらない」というのは、保守にあるまじき暴走です。

しりあがり寿氏のイラストが表紙のソフトカバー、そして対談形式なので読み易い本かと思いきや、古今東西の思想家の名前が次々と登場する、結構お堅い内容の本です。
中島氏の投げかける質問はアカデミックなのですが、受ける西部氏は難解な話題を大衆レベルにわかりやすく噛み砕いてくれます。

保守とは皇室を崇拝することでも、靖国神社に参拝することでも、市場経済を徹底することでもなさそうです。
では、保守思想が保守すべきモノはなんなのでしょうか。
私は、保守とは具体的なイデオロギーではなく、歴史の叡智に学ぶ態度であり、それは社会を生きる人間の一種のたしなみなんだと解釈しました。

二人の対談からは、言葉へのこだわりも強く感じました。
言葉の意味を突き詰めて語源通り正しく使うことは、正しい保守であるための第一歩なのでしょう。

(2月24日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
当たり前の話…日本は核武装せよV
ほどほどで行こう。

posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 21:19| Comment(0) | TrackBack(1) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年01月02日

地獄を見たら…

ここは新宿歌舞伎町。
ラブホテルとピンクサロンにはさまれた古い雑居ビルの一室に、チラシを持った相談者がやってきます。
チラシには次の一文が…「相談無料。地獄を見たら亜玖夢へ」



亜玖夢博士の経済入門

亜玖夢三太郎(あくむ・みたろう)博士は海外の著名な大学で十余りの学位を取得、万巻の書を読破して学問を究め、齢70にして民衆の救済に立ち上がりました。博士の民衆救済事業に賛同した歌舞伎町のポン引きが、仕事の合間にチラシを配っています。
多重債務者、麻薬の売人、いじめられっ子の小学生、マルチ商法のセールス、自分探しの少女…人生で地獄を見た人たちが、一縷の希望を求めて博士のもとを訪れるのです。

ここに千円札があります。千円札で買えるものは誰が使っても同じです。しかし、その日の食べるものに困る生活をしている人と、一生働かずに暮らせる億万長者とでは、千円札の価値はまるで違ってきます。
今すぐにもらえる1万円札と10年後にもらえる約束の1万円札を比べると、(10年後の物価水準が同じでも)後者の1万円はほとんど無価値です。また、今払わねばならぬ1万円は損失感が大きいですが、支払いが先になればなるほど、人間は関心を失います。
人間にとって目の前の現金の方が、将来の返済額よりもずっと価値が高い。これが亜玖夢博士の語る行動経済学の真髄です。
そんな亜玖夢博士が、多重債務に悩む男に示した処方箋とは…

亜玖夢博士の処方箋を実行するのは、助手であるファンファンリンレイの中国人姉弟。
特に弟リンレイの行動がぶっ飛んでいます。70年代アイドル風の衣装に身を包み、さわやかな笑顔を振り撒きながら、次々と悪巧みを実行していきます。でもリンレイには罪の意識は全くない!
相談者たちが見るのは天国への近道か、それともさらなる地獄か…

亜玖夢博士が身近なたとえを使って行動経済学、囚人のジレンマ(ゲーム理論)、ネットワーク経済学、社会心理学、そしてゲーデルの不完全性定理までを解説。お金のもつ魅力と魔力を、存分に味わわせてくれます。
著者はマネーロンダリングなどお金の裏側に精通した、橘玲氏。
藤子不二雄A氏の『笑ウせぇるすまん』みたいな感じのお話です。
2008年、初笑いはこの本で!

(12月29日読了)

【不純文學交遊界・過去記事】
お金に国境はない!
イケナイコトカイ?
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 10:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年12月29日

政権交代に秘策あり

今年も残りわずか。
重大ニュースを振り返ってみますと、国内政治だけでも大きな出来事が目白押しでした。
7月の第21回参議院選挙では自由民主党が大敗し、与野党の勢力が逆転。「ねじれ国会」の呼称が生まれました。
参院選後も続投を表明していた安倍晋三内閣総理大臣(当時)が、突然の辞任。安倍内閣では日本の政治史上例のない現職閣僚の自殺をはじめ、閣僚の問題発言や不正な政治資金処理が相次ぎました。
一方、躍進した民主党でも、大連立構想をめぐって小沢一郎代表の辞意騒動。
国会は宙に浮いた5000万件の年金記録や、テロ対策特措法の延長問題、防衛省の守屋武昌前事務次官の接待疑惑、自衛隊の給油活動の虚偽報告、薬害肝炎訴訟など難題が山積みとなっています。
10大ニュースが政治ですべて埋まってしまいそうです。

激震続きだった今年の政界。その舞台裏では一体なにが起こっていたのでしょうか。
村上正邦平野貞夫筆坂秀世の政界三浪人が再び集結しました。



自民党はなぜ潰れないのか

まず語られるのは、安倍前総理の辞任劇〜福田内閣誕生の真相です。
「戦後レジームからの脱却」や「主張する外交」など強いリーダーシップを掲げた安倍前総理ですが、実像はおとなしい3世政治家であり、自ら作り上げた虚像に追い詰められてしまったのだと分析しています。
最も得意とする北朝鮮拉致問題で、成果を出せずに終わった安倍前総理。村上氏は、日本の政界には「権力者は自分の得意技で身を潰す」ジンクスがあると語ります。
福田康夫総理大臣と後継総裁の座を争ったのは、麻生太郎幹事長(当時)でした。彼がどこで間違いを犯したのかも明かされます。そして麻生氏をめぐる自民党内の私怨も…
小泉内閣が最後まで強い求心力を持ちえたのは、小泉純一郎氏が負けても負けても総裁選に出馬し続けて、ようやく勝ち取った総裁の座だからでした。安倍氏にしろ福田氏にしろ「担ぎ出された」総裁では、ここ一番の危機に耐えられないとのことです。

長く続いた自民党の一党支配。その実態はライバルの日本社会党が裏でおこぼれを預かる、事実上の自社連立政権でした。これが55年体制の実態です。
半世紀も同じ政権が続けば腐敗も生じます。自民党が野党になるとか民主党政権になるとかではなく、日本を政権交代ができる国にしなければならない…これが三者の共通意見です。
そして政権交代・政界再編のキーパーソンとなるのは、やはり小沢氏。
本書は小沢氏の国際貢献論を評価しています。アメリカに対して主張すべきことは主張する、それが真の同盟関係です。
ただ、最近のアメリカと北朝鮮の接近を見ていますと、日米関係が軽視されていないか不安になります。アメリカの戦争の正統性には疑いの目を向けねばなりませんが、テロ特措法延長反対で突っ張り通すのは良いことなのか…難しいところです。
また、小沢氏の手腕を高く評価するのは結構なのですが、本書が著名政治家の疑惑の数々を暴露している以上、小沢氏の不動産取得問題について触れないのは不公平な気がします。

自民党が結党以来初めて野に下り、政権交代を実現したのが平成5年の細川護煕内閣でした。非自民八会派による連立政権はいかにして誕生したのか、たいへん興味深い内容です。
さらに最終章では亀井静香国民新党代表代行が飛び入り参加し、自民党が政権を奪還(村山富市内閣)した生々しい舞台裏が初めて明かされます。
2008年、果たして政権交代は実現するのでしょうか?

(12月25日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
いる?いらない?参議院


管理人のひとりごと
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 15:38| Comment(0) | TrackBack(1) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月15日

リトビネンコ氏は、なぜ殺された?

昨年(2006年)11月23日、元ロシア保安庁(FSB)職員でイギリスに亡命中のアレクサンドル・リトヴィネンコ氏が死亡しました。彼の体内から検出されたのは、猛毒の放射性物質ポロニウム210

先日交遊した『世界新資源戦争』では、豊富な資源を武器に強引な外交戦略を展開する、現在のロシアの姿が描かれていました。
ウラジーミル・プーチン大統領は元FSB長官であり、ツァーリ(皇帝)と呼ばれるほどに独裁色を強めています。
ロシアではプーチン政権に批判的な人物が次々と謎の死を遂げ、政府が暗殺に関与しているのではないかとの疑惑が絶えません。最も衝撃的だったのが、放射性物質が凶器に使われたリトヴィネンコ氏暗殺事件です。

※FSBの前身は、ソ連国家保安委員会(KGB



暗殺国家ロシア

1998年11月、リトヴィネンコ氏は同僚とともに記者会見し、ボリス・ベレゾフスキー氏の暗殺命令を受けていたことを告発しました。
FSBを批判したリトヴィネンコ氏は、権限踰越の容疑で逮捕。のちに釈放され出国禁止命令を受けた彼は、2000年11月、トルコ経由でイギリスに亡命します。正式な英国市民権を得たのは、死の一ヶ月前でした。

ベレゾフスキー氏は、ソ連崩壊を機に誕生したオリガルヒ(新興財閥)の代表格です。エリツィン政権下では閣僚にもなり、政界に隠然たる影響力を及ぼしました。
しかしプーチン大統領は、政権に批判的なマスメディアを経営するオリガルヒを弾圧。そして基幹産業の再国有化を推し進めます。日本の商社が出資する石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」も、承認が取り消されました。
政界を追われたベレゾフスキー氏は、現在イギリスに亡命中。「プーチンを倒すためなら何でもする」と公言してはばかりません。リトヴィネンコ氏のロンドンの住まいは、隣人でチェチェン亡命政府のアフメド・ザカーエフ氏の住居とともに、ベレゾフスキー氏が提供したものです。

プーチン政権の秘密警察政治やチェチェン紛争への対応を批判し続けたリトヴィネンコ氏。彼はプーチン政権を批判するジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ氏の射殺事件の真相を追っていました。
2006年11月1日。リトヴィネンコ氏は射殺事件の調査に関して、イタリア人の自称学者マリオ・スカラメラ氏と寿司レストランで会食後、体調に異変が生じます。
同じ日には、元FSBの同僚であったアンドレイ・ルゴヴォイドミトリー・コヴツン両氏とも面会しています。また、この会合には第三の人物が同席したともいいます。

リトヴィネンコ氏に毒を盛ったのは、一体誰なのか?

(11月11日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
パイプラインの国際政治学
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 23:52| Comment(15) | TrackBack(0) | 政治・経済交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。