2011年05月16日

原子力に未来はあるか

5月6日、菅直人総理大臣は中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の運転停止を要請し、14日には全ての原子炉が運転を停止しました。東海地震の予想震源域に立地し、活断層に囲まれていることから「世界一危険な原発」と揶揄する声もあった浜岡原発を止めたのは、菅総理の「英断」といえるでしょう。
福島第一原子力発電所の事故は津波による電源喪失が原因であり、原子炉自体は地震の揺れに耐えたとして、菅総理の要請に疑問を呈する声があります。しかし実際には、津波が到達する前に地震で損傷していたことが明らかになってきました。
先ほど菅総理の「英断」と書きましたが、唐突さは否めません。果たして総理に原発を止めた後の見通しはあるのか、甚だ心配です。ポスト・フクシマのエネルギー戦略を示すことが、政治の最大の責任であると思います。
また浜岡原発5号機は、外部冷却装置が故障しても原子炉自体が冷却を行う第3世代原子炉(ABWR)です。浜岡5号機がダメなら、日本にある原発のほとんど(第2世代原子炉)が危険ではないでしょうか。5号機は止めなくても良かったのでは。

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ポスト・フクシマの日本のエネルギー戦略はどうあるべきか。
そのものズバリなタイトルの本があったので読んでみました。

まず、石油はなくなりません。使われなくなるだけです。エネルギーの主役が石炭から石油に代わったのは、枯渇したからではなく、それまで使い道のなかった石油を使えるようにする技術が生まれたからでした(ただし石炭は今でも現役であり、息の長いエネルギーです)。
石油はあと30年でなくなると、30年以上前から言われ続けてきたのに一向になくならないのは、確認埋蔵量が増えたことに加えて、産油国や石油メジャーが価格を維持するために可採年数をコントロールしてきたからです。埋蔵量が多すぎると原油価格は下がりますし、少なすぎると消費国は石油に代わる資源を模索し始めます。2008年の原油価格高騰は、消費国の石油離れを加速させました。

化石燃料がなくなることはありませんが、地球温暖化問題もあってシェアは低下します。風力や太陽光などの再生可能エネルギーは、補完的なエネルギーに留まりそうです。また燃料電池は、天然ガスや電気から生産された水素を利用する技術であって、資源問題の解決にはなりません。そうなると次代を担うエネルギーは、原子力ということになります。
20世紀を大きく変えた石油文明を生み出したのは、19世紀に開発された科学技術でした。すると21世紀を変えるのは、20世紀に生まれた量子力学や相対性理論です。相対性理論から生まれた原子力は軍事面では世界を一変させましたが、原子力発電の他には医療分野で用いられるくらいで、日常生活を大きく変えるには至っていません。つまり原子力エネルギーによる本当の革命はこれからだというのです。
ドイツは再生可能エネルギーの利用率が高い国ですが、不足する電力は隣国フランスから購入しています。そしてフランスの電力は8割が原子力です。

当分の間は石油が枯渇する心配はなく、極端な原油価格の高騰もないのなら、なにも原子力にシフトせずとも石油をクリーンに使い続ける選択肢もありではないかと思いました。ただ、日本の石油需要は政情不安定な中東に依存し過ぎているので、石油よりも埋蔵量が豊富で地理的な偏在もなく、CO2排出量の少ない天然ガスにシフトするのが良いかと思います。
それでも私は、原子力というオプションは放棄すべきでないと考えます。研究を続けていれば現在よりも安全で低コストな原子炉が実現するかもしれませんし、たとえ国内の原発がゼロになっても技術を海外へ輸出することが出来ます。40年以上経過した原子炉は順次運転を停止し、その間に第4世代原子炉であるトリウム溶融塩炉の開発を進めてはどうでしょう。

本書の発行は2010年2月。今年3月の東北地方太平洋沖地震で起きた福島第一原発の事故は未だ収束には至らず、原子力をめぐる状況は一変しましたが、エネルギー問題の全体像を俯瞰するのに役立つ一冊です。
個々のエネルギーの技術的な評価のみならず、人類がエネルギーを使う仕組みを作る人々(石油メジャー・核不拡散体制・気候変動に関する政府間パネル)の存在についても一章を割いています。また地球温暖化には異論があること、京都議定書には問題点が多いことも指摘しており、バランスの取れた本であると好印象をもちました。本書を読んでから再生可能エネルギーや次世代の原子力発電など、個々のエネルギーについて調べると良いでしょう。
近ごろ話題のトリウム溶融塩炉は、本書でも有望視されています。

(5月1日読了)★★★★★


ラベル:エネルギー
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2011年05月04日

日本に平野はなかった

3月11日に起きた東方地方太平洋沖地震を受けて、この国のインフラやエネルギー政策はどうあるべきか、今年は国土観というテーマを掲げて書物と交遊したいと思っています。
国土というと、なんだか国家主義的で嫌だと感じる方は、日本列島と言い換えても良いでしょう。そう、日本列島のグランドデザインです。

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蹴裂(けさき)という見慣れない言葉に出会いました。
版元は建築・土木関連の書籍で知られる鹿島出版会。その名から察せられる通り、大手ゼネコン鹿島建設の関連会社です。土木工学と民俗学という異色のコラボレーション。

日本は、国土の約7割が山です。より細かく見ると、平地と水面と山地の比率(本書は国土のスリーサイズと呼ぶ)が「26:4:70」で、日本は水の豊かな国であることがわかります。さらに古代の日本は平地:水面:山地が「5:25:70」で、平地がほとんどなかったというのです。
氷河時代の地球は、気候が乾燥していました。一万数千年前に地球が温暖化すると、海面が上昇するとともに、雨が多く降るようになります。日本の平地は、かつて湖沼地帯でした。
激しい雨は山崩れや土砂崩れを引き起こし、水面を埋め立てて、現在見られる沖積平野となったのです。梅雨・豪雪・地震・津波・火山の噴火など、日本の国土は天災が生んだともいえます。

日本の湖沼を平野に変えたのは、自然現象ばかりではありません。蹴裂伝説とは、クマやカニやネズミといった野生の動物、ヤマトタケルのような神話の英雄が、山や岩場を蹴り裂いて水を流し、湖沼を平地に変えたという国土創成の物語です。
蹴裂伝説は、単に過去の天災を象徴的に語り継いだだけかもしれませんが、実際に古代の人々が行った土木工事だったとも考えられます。日本の平地が湖沼地だったのは遠い地質時代の出来事ではなく、蹴裂伝説は歴史上の事件だったのです。
日本列島の地質的な成り立ちばかりでなく、古代国家の成立過程をも解き明かそうという、学問の枠を超えた壮大な試み。発想が飛躍し過ぎでは、と感じられる記述も多々ありますが、文系読者も理系読者も楽しめる掘り出し物の一冊ではないでしょうか。

(4月29日読了)★★★★★
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2011年04月17日

エコな原発ありますか?(後編)

経済産業省の原子力安全・保安院は、福島第一原子力発電所事故を国際原子力事象評価尺度で最悪のレベル7に引き上げると発表しました。
頂点に達する国民の原発への不安。しかし電力需要を確保するには、既存の原発を止めることはできません。自然エネルギーでは安定した電力を得られませんし、かといって化石燃料の消費を増やすのも時代に逆行しています(私は地球温暖化の主因が二酸化炭素だとは思いませんが、化石燃料の消費削減は支持します)。
そこで安全かつクリーンな原子力エネルギーとして期待されるのが、トリウム原発です。トリウム熔融塩炉について詳しく書いた本がないかと探したところ、10年前(2001年)に刊行された本書に出会いました。

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現在の主流の原子炉は、冷却材・減速材に水を用いる軽水炉です。
しかし、軽水炉には構造的な欠陥があるといいます。
・固体燃料は放射線で破損しやすい。燃料集合体の定期的な交換が必要。
・負荷追随性が低く、常時全出力運転となる。小型炉には適さない。
・水は高温で高圧となり、放射線で分解されると爆発しやすい水素を発生する。
・ウラン燃料からは、核兵器の原料となるプルトニウムが生成される。
原子力は火力・水力よりも発電コストが低く、出力が高いのでベース電力を担ってきました。しかし裏を返せば、建設コストが高いので大規模化によって発電コストを下げ、出力調整ができないため全出力で運転しているわけです。さらに今回のような大事故が起こると損害賠償は巨額となり、放射性廃棄物の処理コストも忘れてはなりません。原発(軽水炉)の経済性は幻だったのです。

「固体燃料から液体燃料へ、ウランからトリウムへ、大型から小型へ」
本書は原子力発電の3つの革命を掲げています。
トリウム熔融塩炉には、以下の利点があるとします。
・液体燃料は固体燃料よりも、製造や管理が容易。
・熔融塩(高温で液体になった塩)は高温でも常圧で、原子炉の安全性が高い。
・負荷追随性が高く(出力調整がしやすい)、原子炉の小型化が可能。
・トリウムは埋蔵量が豊富で、世界各地に産出する(ただし日本では採れない)。
・プルトニウムなど超ウラン元素をほとんど生成せず、放射性廃棄物が減少する。
・既存のプルトニウムを燃料に混ぜて焼却することができる。
これまでトリウム熔融塩炉が省みられなかった理由のひとつが、発電時にプルトニウムを生成しないことでしょう。原発は原子力の平和利用を謳いながら、実はプルトニウムを産出することで軍産複合体の一翼を担っていたのです。

あまりに良いこと尽くめで、本当にトリウム熔融塩炉に欠陥はないのか、かえって心配になりました(笑)。
原発立地自治体の首長が「40年以上経った原発は順次運転を停止し、新規建設計画は認めない。ただしトリウム熔融塩炉なら受け容れる用意がある」と宣言すれば、日本のエネルギー政策に大転換を迫ることになると思います。福井県の西川一誠知事、いかがでしょう?
ただ、日本の大学では原子力工学が衰退しており、将来を担う人材の不足が懸念されるところです。

(4月1日読了)★★★★★

【関連サイト】
NPO「トリウム熔融塩国際フォーラム」 (理事長:古川和男)

※本書は現在品切れのようですが、5月に『原発安全革命』として復刊されます。
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ラベル:エネルギー
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2011年04月12日

エコな原発ありますか?(前編)

東北地方太平洋沖地震から1ヶ月。
想定を超える津波で冷却機能を失った東京電力の福島第一原子力発電所は、未だ深刻な状況にあります。一方、東北電力の女川原子力発電所は15mの高台にあって、津波の被害を免れました。福島第一原発の事故は東京電力による人災であって、原発そのものの信頼性が崩壊した訳ではないのかもしれません。
しかし今回の事故により、日本国内で新たに原発を建設することは極めて困難になりました。また、原発の夜間余剰電力を活用することを前提としたEV(電気自動車)の普及にも、見直しが迫られることでしょう(「自動車の電気化」という大きな流れ自体は変わらないと思います)。



もはや原子力に未来はないのでしょうか?
最近、トリウム原発(トリウム熔融塩炉)が気になっています。
そこで目についたのが、この本です。

地球温暖化対策として、温室効果ガスを排出しない原子力発電所が世界各国で計画されています。しかしウランを燃料とする原発では、核兵器に転用可能なプルトニウムを含んだ放射性廃棄物が出ます。これでは原子力の平和利用を目指したはずが、かえって核拡散を招いてしまいます。
そこで注目されるのがトリウム原発です。ウランの代わりにトリウムを燃料とすれば、プルトニウムが発生しません。さらに燃料にプルトニウムを混ぜて燃やせば、既にあるプルトニウムを消滅させることができるのです。

著者・亀井敬史はガンダム世代(1970年生まれ)で、表紙にはガンダムのイラスト。
30年以上前に放送された『機動戦士ガンダム』のアニメーション第18話には、資源としてトリウム(作中での発音はソリウム)が登場するそうです。
希土類(レアアース)採掘時の厄介な廃棄物でしかなかった放射性元素トリウムは、地球環境と世界平和を守る救世主となるのでしょうか。

(4月1日読了)★★★
ラベル:エネルギー
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2010年11月29日

クルマが生んだ近代建築

「住宅は住むための機械である」と言ったのは、近代建築の祖ル・コルビュジェ。
そのせいで「人間を牢屋のような味気ない住宅に閉じ込める無慈悲な合理主義者」だとの先入観を持ってしまったのですが、彼の作品を(写真や映像で)見て印象は変わりました。その意味するところは「住宅は、住む人にとって使いやすい機械のようであるべき」なのだと私は解釈しています。
また、彼の構想した「300万人のための現代都市」は、当時の過密で不衛生な都市を否定し、建築物を高層化して生まれたオープンスペースを緑地とするもので、自然との共生を視野に入れていたのだと感じました。

ル・コルビュジエの愛したクルマ

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コルビュジェの生涯や作品を紹介した書物は数多くありますが、本書は「コルビュジェとクルマ」という異色の一冊。
ル・コルビュジェことシャルル=エドワール・ジャンヌレが生まれたのは、1887年。カール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーが内燃機関自動車を発明した直後でした。機械が世の中を大きく変えていく時代に生まれ育ったコルビュジェは、自動車を建築や都市計画に取り入れた最初の建築家だったようです。

無秩序なクルマの流入が都市を殺したと考えたコルビュジェは、コンパクトなボディサイズに最大限の室内空間を確保したマキシマムカーを考案しました。
当時の自動車はボディとシャーシが別構造でしたが、マキシマムカーは軽量化に優れたモノコック(一体構造)を採用。1920年代に現代の小型車に通じる設計思想を持っていたのです。

本書はコルビュジェをめぐるクルマばかりでなく、サヴォア邸やユニテ・ダビタシオンなど、彼の建築作品もカラー写真で多数紹介されています。
コルビュジェを知らないクルマ好きにとってのコルビュジェ入門書であるとともに、建築好きにとっては彼の新たな一面を知る一冊となることでしょう。

(11月22日読了)★★★
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2009年12月18日

エコカーはエコか?(後編)

本書の主張には概ね同意しますが、ひとつだけ難点を…



ハイブリッドカーは本当にエコなのか?
両角岳彦 著

両角氏はプリウスについて「ハイブリッドシステム側の論理」に合わせて運転すると燃費が良いが、自然な感覚で運転すると燃費が悪くなるとして、批判しています。要するに、欧州車と比べてフィーリングが不自然であり、走りの質感が低いと。
これには異論があります。
プリウスユーザーは、ハイブリッドシステムのスイートスポットを探すことに運転の楽しさを見出しています。クルマの癖を見つけて最大限の性能を引き出す、これはまさしくスポーツドライビングです。
クルマの自然な運転感覚なんて、人類の長い歴史の、ここ数十年で身に付いたものです。プリウスには従来型のクルマとは異なる、ハイブリッド車なりのドライビングプレジャーがあると思います。

走りは、クルマの最も重要な要素です。そして欧州車の走りや、環境・安全に対する意識の高さを、まだまだ日本車は多く学ぶべきでしょう。
しかし速く走ることだけが、クルマの楽しみではありません。そして大多数の自動車ユーザーにとっては、走行性能よりも、使い勝手の良さや故障しないことの方がはるかに重要です。
ハンドリングやサーキットのラップタイムでクルマの優劣を論じてきた、オタクな自動車ジャーナリズムが、かえってクルマの楽しみ方を偏狭にして、クルマ離れを加速させたのではないでしょうか。

本書が指摘するように、ハイブリッド車は生産・廃棄時に多くのエネルギーを消費するため、ライフサイクル全体での環境負荷が、従来車よりも大きく改善されているとは言えません。カタログ表記通りの燃費性能が発揮できないことも事実です(これはハイブリッド車に限りませんが)。
私がプリウスに乗っているのは、エコカーだからではありません。メカニズムやデザインに興味をもったからです。もちろん、クルマは燃費が良いに越したことはありませんが。

3代目プリウスとの交遊を始めて、半年が経ちました。
ストップ&ゴーを繰り返す市街地での燃費は、確かにカタログ表記に遠く及びませんが、それでも20km/lを超えます。郊外では、カタログ燃費を超えることも可能です。高速燃費も20km/lを超えます。
先日、冬タイヤに交換しましたが、スタッドレスタイヤとホイールは、前々保有車から流用しています。タイヤを買い換えなくてもいいのが、私にとってなにより一番のエコです。

(12月7日読了)


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2009年12月14日

エコカーはエコか?(前編)

なかなか景気回復の実感は湧きませんが、政府の経済対策のおかげで、自動車販売は復調しています。
来年3月までの新車購入補助金は、9月まで延長される見通しです。エコカー減税と新車購入補助金を混同している方がいらっしゃるようですが、エコカー減税はもともと平成24年まで(取得税は24年3月、重量税は24年4月まで)の措置となっています。

今年はトヨタ・プリウス、レクサスHS、ホンダ・インサイトなどハイブリッド車が大ヒットし、電気自動車の三菱i-MIEVも発売を開始。エコカー元年と呼ばれています。
では、電気で走ればクルマは本当にエコなのでしょうか?



ハイブリッドカーは本当にエコなのか?
両角岳彦 著

ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池自動車…それらはみな「エコカー」として、ひと括りにして語られます。しかし、それぞれ長所・短所があり、全ての面においてエコであるとは限りません。
本書は、エコカーに対する世間一般の誤った認識を正すべく書かれています。

ハイブリッド車や電気自動車は、内燃機関車よりも製造時に多くのエネルギーを消費します。
さらにハイブリッド車や電気自動車が普及すると、近い将来、モーターやバッテリーの廃棄も問題となってきます。
生産から廃棄に至るまで、クルマのライフサイクル全体での環境負荷を低減してこそ、真のエコカーです。

日本の自動車行政や、メーカーの姿勢にも疑問を呈します。
日本車の燃費は、カタログ表記(10・15モード)を良くすることを最優先にしているため、実用燃費との乖離が大きくなりがちです。
そして政府のエコカー減税は、車重が増えて燃費が悪化すると減税対象になるという、矛盾を抱えています。

従来型の内燃機関車も、ハイブリッド車に劣らない燃費性能を獲得しつつあります。フォルクスワーゲンのTSIDSGに代表される、ダウンサイジング過給エンジンと高効率トランスミッションの組み合わせは、高速燃費でプリウスに迫ります。ディーゼルエンジン仕様では、逆転する場合もあるでしょう。
欧米のメーカーからも、ハイブリッド車が現れ始めています。ハイブリッドでは日本が世界をリードしているという認識は、もはや通用しないかもしれません。

本書は決して、ハイブリッドカーを否定しているのではありません。
両角岳彦氏は、初代プリウスの革新的なメカニズムに惚れ込んで、長期テストを繰り返してきました。ハイブリッドの可能性を信じているからこその、日本の浅薄なエコカーブームに対する苦言なのです。

(つづく)

【不純文學交遊録・過去記事】
エンジンはないほうがいい!(前編)
エンジンはないほうがいい!(後編)
205万円の衝撃(前編)
205万円の衝撃(後編)
景気回復の救世主?(前編)
景気回復の救世主?(後編)
イニシャルD
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2009年08月13日

エンジンはないほうがいい!(後編)

クルマが走るのに必要十分なパワーが得られれば、エンジンは小さく、燃料消費が少なく、排気ガスがクリーンな方がいい。これからの潮流はダウンサイジングです。
排気量が小さいエンジンでパワーを稼ぐには吸気量を増やす、つまり過給すればいいのです。ハイブリッド化してモーターがエンジンをアシストする方法もあります。実質的な小排気量化であるミラーサイクルでも同じです。
かつて大型トラックのエンジンはV型8気筒や10気筒でした。しかし現在では直列6気筒のターボ過給が主流となっています。
小型車のエンジンは3気筒が本命になるだろうと、畑村氏は述べています。



最新!自動車エンジン技術がわかる本

畑村耕一 著

畑村氏は現在、HCCIエンジンの開発に取り組んでいます。
HCCI(Homogeneous Charge Compression Ignition=予混合圧縮着火)は、ガソリンエンジンのように空気と燃料を混合し、ディーゼルエンジンのように圧縮で自己着火するエンジンです。高効率とクリーンな排ガスを両立します。
いずれ電気自動車の時代が来るのでしょうが、発電・送電や電池の製造段階を考慮すると、現時点ではハイブリッド車の方がエネルギー効率に優れているそうです。当面はエンジンの時代が続きます。HCCIが最後のエンジンとなるのかもしれません。
燃料電池車も公道を走り始めていますが、本格的な水素エネルギー社会が到来しても水素エンジンの出番はないとする著者の見解に、私も同意します。

本書にはガソリン、ディーゼルから研究中のHCCIまで、最新のエンジン技術の数々がわかりやすく紹介されています。エンジン単体の進化だけでなく、高効率なトランスミッション、車体そのものの軽量化、クリーンな燃料の開発なども重要です。
あれとあれを組み合わせると、素晴らしいクルマが出来上がるのではないか…想像すると楽しくなってきます(最終章は、著者によるエンジン開発シミュレーションです)。実際には各メーカーの得手・不得手な技術があったり、特許の壁があったりで、すべてを組み合わせた理想のクルマを作るのは難しいでしょうけど。
エンジンはクルマのキャラクターを大きく左右する要素であるせいか、小規模メーカーであってもほとんどが自社開発です。メーカーの壁を超えてエンジンを供給しあう水平分業が進むと、自動車産業は大きく様変わりする気がします。

(8月11日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
エンジンはないほうがいい!(前編)
205万円の衝撃(前編)
205万円の衝撃(後編)
景気回復の救世主?(前編)
景気回復の救世主?(後編)
イニシャルD
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2009年08月12日

エンジンはないほうがいい!(前編)

自民党が土日の高速料金を1,000円にすれば、民主党は高速道路の無料化を政権公約にしています。
どこまで行っても1,000円ならばと、ゴールデンウィークの高速道路は大渋滞。料金が安くなるのはいいことですが、CO2削減をマニフェストに掲げながら、ガソリンの大量消費を促すなんて、矛盾してませんか?
私はCO2が地球温暖化の主因だとは思いませんが、このまま化石燃料の消費が増え続けていいとは思いません。これでは衆院選で投票する政党が無い…
(景気対策なら、一般車よりも営業車の通行料金を引き下げるべきでしょう。昨年の原油高騰で、運輸業界は打撃を受けたことだし…)



最新!自動車エンジン技術がわかる本

畑村耕一 著

今年は2月にホンダ・インサイト、5月にトヨタ・プリウスが相次いで新型となり、エコカー減税の追い風もあってハイブリッド車が空前の大ヒットとなっています。7月には電気自動車の三菱i-MiEVも、法人向け販売が始まりました。
最新のクルマの技術は随時ウェブや雑誌で紹介されていますし、単行本は似たり寄ったりの内容なので、新刊が出たからといって読んだりはしません。それでも本書を手に取った理由は、未来のエンジンHCCIについて一章を割いているからです。

畑村耕一氏は、広島出身で元マツダのエンジニア。世界初のミラーサイクルエンジン搭載車(ユーノス800)を開発しました。
彼の哲学は、なんと「エンジンはないほうがいい!」です。
畑村氏は、排気量でエンジンを語るのは時代遅れだと主張します。エンジンの出力を決めるのは吸気量、燃費を決めるのは排気量であり、同じ出力を得るなら排気量の少ないエンジンの方がエライのです。

ハイブリッドカー・プリウスのエンジンは、アトキンソンサイクルを採用しています。
通常のガソリンエンジンはオットーサイクルと呼ばれ、吸入‐圧縮‐膨張‐排気の4つのサイクルにおけるピストンのストロークはすべて均等です。オットーサイクルは吸気量=排気量であり、すなわち圧縮比=膨張比です。
これに対しアトキンソンサイクルとは、圧縮比<膨張比とすることで熱効率を高めたエンジンです。圧縮比<膨張比ということは吸気量<排気量であり、アトキンソンサイクルは実際の排気量よりも低いトルクしか得られないことになります。
でも心配はいりません。プリウスにはモーターがあるので、エンジンのトルク不足を十分に補えます。ハイブリッドだからこそ、トルクを低下させてでもエンジンの効率を高めることが出来たといえるでしょう。

なお元来のアトキンソンサイクルとは、複雑なクランクシャフトの動きでストロークを変化させたエンジンのことで、現在のところ実用化されていません。
プリウスは吸気バルブの「遅閉じ」でアトキンソンサイクルと同じ効果を得ており、これをミラーサイクルと呼びます。つまり、マツダのミラーサイクルとトヨタのアトキンソンサイクルは同じなのです。先駆者であるマツダの呼称を、後発のトヨタは避けたわけですね。

(つづく)
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2009年07月06日

300km/hのテクノロジー

文学部出身の文系人間が営んでいる不純文學交遊録ですが、管理人には「メカ萌え」の傾向がありまして、最新のテクノロジーには強く惹かれます。
これまでメカ関係は、クルマネタが多かったですが、今回は鉄道です。
鉄道マニアは「鉄ちゃん」とか「テツ」と呼ばれ、その楽しみ方も旅行や車両研究のみならず、模型や写真撮影など多岐に渡ります。最近では、女性の鉄道マニア「鉄子さん」も少なくないとか。



図解・TGV vs.新幹線

佐藤芳彦 著

世界を代表する高速鉄道は、日本の新幹線とフランスのTGV(Train a Grande Vitesse)です。しかし、輸送量重視の新幹線と速度重視のTGVとでは、設計思想が大きく異なります。
人口密度の高い日本は、乗客を大量輸送することが求められます。軌道の幅は新幹線もTGVも同じ(1,435mmの標準軌)ですが、車両は幅・長さ共に新幹線が一回り以上大きく、2人掛け+3人掛けのシート配置を実現しています。TGVは2人掛け+2人掛けです。

新幹線は各車両にモーターを備え(動力分散方式)、TGVは電気機関車で客車を引っ張っています(動力集中方式)。機関車には当然、乗車することが出来ません。ここでも新幹線が、輸送力重視であることがわかります。
現在、非浮上式鉄道(浮上式=リニアモーターカーを除く)の最高速度は、TGVの試験車両が記録した574km/hです。営業最高速度も320km/hのTGVが、300km/hの新幹線(山陽新幹線)を上回っています。しかし加速力では新幹線が勝るため、平均速度は新幹線のほうが速いのです。

世界各国で高速鉄道が計画されていますが、新幹線とTGVは激しい受注競争を繰り広げています。
韓国の高速鉄道は、TGV方式が導入されました。台湾の高速鉄道は、TGVに決まりかけていたところ、大地震を経験したことで、耐震性の高い新幹線が勝利しました。地震国・日本の新幹線は橋梁がガッチリしていますが、地震が少ないフランスのTGVの橋梁は華奢です。
軌道の構造も対照的で、TGVは砕石を敷いたバラスト式にこだわっています。新幹線はコンクリート製のスラブ式を採用、敷設コストは高いもののメンテナンスは容易です(東海道新幹線はバラスト式)。

「世界最速の鉄道」という同じ目標を掲げながら、新幹線とTGVとでは、採用される技術が全く正反対なのが面白いですね。テツの世界は奥が深い!

(6月28日読了)

【不純文學交遊録・過去記事】
2005年4月25日
posted by 【電脳呆人】不純総合研究所 at 00:25| Comment(2) | TrackBack(0) | 科学技術交遊会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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